藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

その先をゆくamazon

Googleも次から次に矢を放つけれど、なかなかamazonも元気がいい。
先日、小売製品の実機は店頭で見て、「購入はネットの安値で」というショールーミングの話題に触れた。
そしてamazonはもうその先を行っていた。
さらにショールーム化を進め、スマホのカメラで商品の外観を写し、その画像をデジタルで認識してそのままamazonの購入サイトに導く、というなかなかエグい仕組みである。
街中で気に入った家を写したら、設計者の名前や価格すら出てくる時代が来るかもしれない。
マンションなら「ただいま売り出し中のお部屋は・・・」とか。

ショールーミングが究極に加速する。
しかも物だけに留まらないかもしれぬ。
画像認識、動画の世界は「最後の聖域」という人も多く、まだ技術がこれから発展する分野との見方が大勢だけれど、「テキストを必ずしも必要としない、画像との直接コミュニケーション」というのは完全な”中抜き”が実現されるので、ユーザーへのインパクトも大きなものがある。

某警察ではすでに「指名手配犯の顔認識」が始まりつつある、との噂だけれど、もう”インターネットのHTMLタグ”が必要のない技術レベルになってくるのならぐっと利用範囲は広がるだろう。
プライバシーも大変である。
町中の多くの人が「顔認識される時代」になれば、犯罪も減るだろうが、窮屈な世の中になるだろう。
しかも皆がGoogle glassのようなものを付けているとしたら、もう「顔にマスク」が常識の中東の国のような日常になる可能性もあるではないか。

 極端に技術も進んでくると、思わぬブレイクスルーが訪れて「ただ便利なだけ」では済まないのが人類の発明する”道具”というものの概念なのだろう。
技術は進めて、同時にそれを使いこなす知恵と工夫はこれからも車の両輪なのである。

(36)Flowに込められたアマゾンの野望
このところ話題豊富なアマゾンから、また新しいサービスが発表された。
名前は「Flow」。スマホのカメラで商品の外観を撮影し、画像認識に基づき、アマゾンの購入画面に誘導する。
当連載の第31回で取り上げた「ショールーミング」の本命プレーヤーかもしれない。便利だが反発も大きいはずで、
毀誉褒貶
きよほうへん
が激しくなりそうだ。


スマホアプリとして登場
 アマゾンがまたまた新しい話題を提供している。そして今回も、賛否がわかれそうだ。「Flow」と名付けられたサービスで、スマホカメラで商品を撮影すると、アマゾンの在庫を調べ、購入画面をすぐに表示してくれる。

 実は、商品バーコードをリーダーで読み取り、そのまま購入の手続きができるサービス(「Scan It」)は、日本ではそれほど話題になっていないものの、既に、始まっている。新しく加わった「Flow」では、商品全体の形状を最新の画像認識技術でセンシングして、購入画面に誘導する。まずはアメリカ地区で始まり、当初はアイフォンとアイパッド向けのiOS上でのみ機能することになった。キンドル版やアンドロイド版は、すこし遅れて投入される予定らしい。

 とは言え、日本でも試すことができる。(日本語版の)アマゾンアプリの画面に「国を選択」という項目があって、そこから「United States」を選ぶと、この新しいサービスは起動するようになっている。実際にやってみると「Search Amazon」の画面に「Scan It」と「Flow」が並んで登場する。

 カメラがアクティブになると、商品の外形に沿って、チカチカと青白い光が点滅を始める。魔法をかけているような趣で、楽しい。こうして認識された商品と同じものがアマゾンのデータベースにあれば(つまり、アマゾンで扱っていれば)、そのまま、購入画面に移行する。


「国を選択」で「United States」を選んだ際のアイフォンの画面。「Flow」と「Scan It」が並んで表示される

スマホのカメラを起動させると、商品の周囲を光が点灯して画像を認識する(日本では、まだ実際の購入はできない)

実際試してみたが、商品在庫は、外国の本が一番見つかりやすかった
 

活発に動く巨人アマゾン
 アマゾンは、このところ話題豊富だ。昨年のクリスマス商戦には、無人小型飛行機が注文品を各家庭の軒先に配達する構想(「プライム・エアー」)を発表し、その映像がニュースなどで繰り返し流されていた。一方で、日本ではあまり知られていないが、動画配信のサービス(「amazonインスタント・ビデオ」)も概して好調で、HuluやYou Tubeのライバルとも目されている。DVD などのパッケージ商品の駆逐にも一役買っているわけだ。

 まったく別の文脈だが、経営者のジェフ・ベゾスは、ワシントン・ポスト紙を個人資産で購入している。この天才経営者が、停滞する新聞産業にどんな新しい試みを持ち込むかについても注目が集まっている。


ベゾスを取り上げたブラッド・ストーンの著作。もちろん、キンドル版(電子書籍)もある(写真はアマゾンの画面より)
 アマゾンは、起業されて20年。すでに、世界中で従業員9万人近くを抱え、時価総額は20兆円の巨大企業だ。最近ベゾスの伝記本が出版されたが、タイトルに「the everything store」とあるように(日本版タイトルは「果てなき野望」、日経BP社刊)、あらゆる商品のオンライン販売に、まだまだ可能性を求めてゆくのだろう。

 もう一度、「Flow」の話題に戻そう。友達が持っていた腕時計がいいと思ったら、スマホで撮影すれば同じものが簡単に手に入る。夜中に歯磨きがなくなりそうだと気付けば注文できる。

 そんな「便利で穏当」な使い方もあれば、デパートの売り場で見て気に入った洋服をカメラに収めて即日配送で受けるとか、家電店で比較検討したパソコンやプリンターをその場で注文するなど「リアル流通現場とまともに衝突する使い方」もできる。つまり、「ショールーミング」の本命プレーヤーが登場してきた印象だ。

 しかも、「Flow」は2年ほど、子会社の単体のアプリサービスとして運用しながら精度を磨いた上で、満を持してアマゾンアプリに投入してきたということらしい。

 ジェフ・ベゾスには、小学生くらいの頃に、学校の教師たちの教え方を、生徒から取ったアンケートでランキング付けして発表していた、という逸話がある。かわいげがないとも言えるが、科学的な推論が好きで、行動力がある。インタビュー動画などを聞いている限りは温和な印象だが、かなり芯は強いのだろう。

 出版業界にも大手の流通小売業界にも、気を使う必要などまったく認めない態度で、「Flow」に象徴される戦略を加速させれば、そして消費者がそれを支持するならば、「モノの売り方と買い方」には、さらなる変化が訪れてきそうだ。


プロフィル

千田利史 せんだ・としふみ