はやくも「通貨ではなく物」と日本が発表などしてしまったがピッとコインの意味はなんだろうか。
「発行の総量が制限されている」しかしながら「金(gold)の裏付けはない」のは今のドルや円だって、数十年前にそうなったわけだし。
日銀などいろんな国の中央銀行では「電子マネーは通貨か否か」が議論され続けているというが、どうも現実のローカル通貨は、今の先進国や新興国の「政治の思惑」を通り抜けて、いよいよこれから本格的になってゆくに違いないと自分は思っている。
ビットコインの今回の消失問題は、「通貨には十分なセキュリティは不可欠である」という教訓になるだろうが、そうした「国の政治的思惑から解放された」決済手段はこれからも求められるに違いない。
逆にEUやFRBやIMFの「各国の引っ張り合い」の金融政策はこのままグズグズになってしまう可能性もあるのじゃないだろうか。
そう考えるとインターネットの恐ろしさはこんな形で金融という社会に大きな影響を与える、という”速くて安い”という次元を突き抜けたインパクトを持つのかもしれない、とすら思う。
これまでの人類の知恵で為替というものが編み出され、不換紙幣である円やドルやユーロやその他の通貨が一定の緊張を持ちながら保持されている世界は、数年も経たず大変化の波に晒される予感がするのだ。
て、そんな風にネットワークが、ちょっと危ない感じはするけれど「既成の因習」に革命を起こしてゆく様子を想像するのは何とも楽しい。
もう夢想に近いのだけれど、現実を忘れて半ばSF的にあれやこれや想像できるところがネットワークのこれからの将来性なのだと思う。
国ごとの購買力平価、とか複雑な基準を作っても「未来の通貨を編み出す」というのは人類の大きな発明になるのではないだろうか。
ネット通貨危機 鳴りやまないビットコイン狂騒曲
3/10 7:00
便利な良貨か、混乱を招く悪貨か――。ネット空間を自由に行き交う仮想通貨「ビットコイン」を巡る騒動が世界中に広がっている。世界有数のコイン取引所だったマウントゴックスの破綻に続き、コインの盗難や取引停止が相次ぐ。ビットコインの狂騒曲は終わりそうにない。■「取引所は安全です」
ネットベンチャーが集まることから、「ビットバレー」と呼ばれた東京・渋谷。昨年暮れ、日経電子版の記者は、青山学院大学に近いビルに入居するIT(情報技術)ベンチャーを訪ねた。
その会社の名前は「ティバン」という。
当時も今も、あまり知られていないが、実はビットコインの取引所「マウントゴックス」の運営会社の親会社だ。取材に応じたのは、ティバン、マウントゴックスの社長をつとめるフランス人起業家、マルク・カルプレスだった。
話題はもちろん、ビットコイン。ネット上の取引所でドルなどの現実通貨と交換したり、利用者同士で送金したりできる。手数料が安い点などが受け、欧米や日本で関心が高まっていた。
マウントゴックスは一時、世界のビットコイン取引の8割を握っていたこともある。カルプレスにビジネスの将来性やリスクを尋ねると、たどたどしさが残る日本語で、質問にはひとつひとつ丁寧に答えてくれた。
「電子マネーが普及している日本は、むしろビットコインを使ってもらいやすいと思います」
「価値を安定させて利用者が使いやすくする仕組みを、弁護士に相談しながら考えています」
カルプレスはラフなTシャツ姿。スマートフォンをかざしながら、ビットコインの仕組みをうれしそうに説明してくれた。もともとソフトウエア技術者というカルプレスはまだ20代。アニメファンであることが知られている。
アニメ大国の日本好きが高じてか、日本を仕事場に選んだのは、ビットコインが世の中に出回るようになったタイミングと同じ2009年。技術を語るときのカルプレスの顔は、ネット技術などに詳しい「ギーク(技術オタク)」のように見えた。最後に、安全性について尋ねると、「待っていました」とばかりに即答した。
「ビットコインを持っているなら、コイン取引所に預けておく方が安全です」
自信を言葉の端々ににじませながら、30分のインタビューは終わった。そのとき、カルプレスは、2カ月後の自分の境遇が変わり果てるとは想像できなかっただろう。
2月28日の夕方、東京・霞が関に近い東京地方裁判所。カルプレスは、今度はスーツ姿の疲れた様子で現れると、神妙な顔で頭を下げた。
記者会見で頭を下げるマウントゴックスのカルプレス社長(2月28日午後、東京・霞が関)
「みんなに迷惑をかけて申し訳ありません、と思います」――。マウントゴックスはこの日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。原因は、顧客から預かっていたはずのビットコインの消失だった。■裏切られた「通貨の番人」
会社側の説明によると、顧客から預かった75万ビットコイン(=BTC)と、自社の資産の10万BTCのほぼ全てが消えたという。当時の時価(1BTC=550ドル前後)で、500億円近くの資産が消えた計算だ。
マウントゴックスが突如としてすべての取引をやめたのは、2月25日。翌日に取引停止を公表し、事実上の閉鎖に追い込まれていた。わずか数日で、世界有数だったビットコイン取引所の信用は完全に崩れ去ったのだ。
ビットコインそのものは、2009年から使われるようになったが、脚光を浴びたのは、ほんの1年前だった。2013年3月のキプロス金融危機で「財政危機の国が発行する現実の通貨より、ネット上の仮想通貨の方が安全だ」と見た市民はビットコインを資産の逃げ場に選んだのだ。
それがブームの火付け役。欧米では、店舗や通販サイトの決済手段として利用が広がり、カナダなどではATMも登場。キプロスでは、学費をビットコインで受け取る大学まで現れた。昨年11月末には、世界での流通総額が1兆円を超えたとされる。
ビットコインのメリットは手数料がほとんどかからず、銀行を経由せずに、世界中でお金をやりとりできることだが、注目を集めるにつれ、否定的な見方も増えていく。米国では、「不正な資金の流れを隠すマネーロンダリングなどの犯罪に悪用されている」と批判され、中国政府は「人民元の地位を損なうことを防ぐ」と宣言、金融機関に対し、関連サービスの禁止を通知した。
それでも、ビットコインがしぶとく広がったのは、その革新性を支持する人たちが少なくなかったからだ。「通貨の番人」である米連邦準備理事会(FRB)前議長、ベン・バーナンキは昨秋、ビットコインなど仮想通貨について「有望な部分がある」と発言。日銀総裁の黒田東彦も関心を示し、ITやネット社会などの知識がある経営者らはこぞってビットコインを支持してきた。
長崎県在住のIT企業経営者、峰松浩樹もその一人だ。峰松は、ビットコインの世界で「マイナー(採掘者)」と呼ばれる、数少ない日本人。ビットコインを発掘、つまり、世の中に流通するビットコインを増やす役割を担ってきた。
そもそも、「サトシ・ナカモト」と呼ばれる人物の理論をもとにつくられたのが、ビットコインを生み出し、取引を支えるプログラム。コインの発行上限は2100万BTCと決まっており、プログラム全体の一部を自分のパソコンで動かした分、コインをもらえる仕組みがある。
これが、「マイニング(採掘)」という行為で、結果としてコインの流通量が増えていく。ビットコインの世界を拡大させてきた人たちこそ、峰松らマイナーなのだ。
■つまずきの予兆は2011年
峰松が今まで手に入れたビットコインはおよそ72BTC。しかし、採掘した分はマウントゴックスに預けていたため、すべて失った。当時の時価換算で、約400万円。峰松は「せっかくビットコインが流通する機運が盛り上がってきたのに。先行きにあまり悲観的になっても仕方がないが、こんなことになって残念だ」という。
マウントゴックスの破綻を巡っては、ずさんな資金管理なども明らかになり、問題の全容はまだ明らかになっていない。しかし、唐突すぎるビットコイン取引所の信用崩壊について、ビットコイン通のソフト技術者らに聞くと、「ずっと前から、つまずく予兆が見えていたよ」と口をそろえた。
ビットコイン取引所「マウントゴックス」が入っていたとみられるビル(2月26日、東京・渋谷)
東日本大震災のダメージが日本に色濃く残っていた2011年の6月20日。マウントゴックスは外部から不正アクセスを受け、取引の一時停止に追い込まれている。当時の記録によると、何者かがマウントゴックスのシステムに侵入、管理者としてシステムを不正に操作した痕跡があったという。30分間、1BTCの価値を17.5ドルから0.01ドルに引き下げ、マウントゴックスの口座から約2000BTCを引き出した。ウイルスに感染したパソコンから侵入されたといわれている。
マウントゴックスはセキュリティー対策を徹底し、不正侵入から6日後にサービスを再開したが、カルプレスは当時、利用者などに対して、こんな謝罪文を示したという。
「我々の取引システムは、ビットコインが(ドルではなく)ペニーの価値だった頃につくった、趣味の領域を出ないものだった。旧式だった。ビットコインの爆発的な普及に追いつけなかった」
それからというもの、マウントゴックスは、激しさを増すサイバー攻撃との闘いを続けてきた。今回のコイン消失もサイバー攻撃や不正アクセスが直接の引き金とされるが、3年近く前からビットコインは狙われていたのだ。なぜか。
最大の原因は、ビットコインそのものに、ハッカー集団にとって「公然の秘密」となっている抜け穴があることかもしれない。
■急拡大を追いすぎて、丸裸?
ビットコインの取引は、「誰から誰にいくら送る」というデータをほかのコンピューターに承認してもらって初めて成立する。しかし、それには、約10分かかるとされる。この時間差を突いて不正な送金ができてしまう不具合が以前から指摘されていた。事実、マウントゴックスも「この不具合への攻撃はあった」と認めている。
そもそも、ビットコインを使うためのプログラムの設計図(ソースコード)は公開され、マウントゴックスなどの取引所やマイナーが使ってきたが、善意の利用者ばかりではない。裏を返せば、技術にたけたハッカー集団の目には、不具合を逆手にとって大もうけできる「宝の山」に映っているのだ。
「マウントゴックス固有の問題があるのではないか」と指摘する専門家も少なくない。NRIセキュアテクノロジーズ(東京・千代田)の上級セキュリティコンサルタント、木内雄章に聞くと、マウントゴックスの取引システムは他国のコイン取引所と少し違う特徴があったらしい。
「顧客が口座から引き出したり、現金に換えたりする依頼を『全自動』で判断してこなす仕組みがあった。取引所の収入源は、口座開設や取引ごとに課金する手数料。取引量を増やすために自動化に乗り出したが、その分、怪しい動きに気がつきにくくなっていたのではないか」
マウントゴックスが取引停止となり、抗議するビットコインの利用者(2月26日午後、東京・渋谷)
セキュリティー対策が甘いまま、事業拡大に突き進んでいたのが原因という見たてだ。事実、3月5日にはロシアのハッカーを名乗る何者かがマウントゴックスの取引所システムの設計図やカルプレスの会話データとおぼしきものをネット上にばらまいた。「セキュリティー上の欠陥が放置され、攻撃可能」――。破綻してなお、ハッカー集団にマウントゴックスは丸裸にされ続けているのだ。
マウントゴックスが突如取引サイトを閉鎖する直前の2月24日。混乱を見越してか、米国など世界各地にある他の取引所大手6社は共同声明を発表し、「マウントゴックス1社の問題であり、ビットコインとその産業には影響しない」と主張した。
■「話しちゃダメだ」
ところが、騒動は拡大の一途をたどっている。カナダでは、ビットコイン取引所を運営するフレックスコインが3月4日、コイン流出をきっかけに取引を閉鎖。ビットコイン関連のウイルスも急増している。サイバー攻撃はやんでいない。
「通貨には該当しない」――。マウントゴックス破綻から1週間後、日本政府は7日、ビットコイン取引のルールづくりで土台となる政府見解を急きょまとめた。米国では上院議員が規制強化を求める書簡をFRBへ送った。
しかし、ビットコインそのものの正体も、そして、それにかかわってきた人々についても、いまだ明らかになっていないことが多すぎる。情報は入り乱れている。
3月6日の夕方、米国ロサンゼルス近郊の住宅地に大勢のメディアが押し寄せていた。記者やカメラマンが追いかけていたのは、米誌ニューズウィークがビットコインの考案者として紹介した日系米国人のドリアン・サトシ・ナカモト。自宅前はちょっとした騒ぎが起きていた。
「彼らと話しちゃダメだ」「構わないでくれ」……。ナカモトの母親が玄関先で記者の質問に答え始めると、ナカモトは母親を連れ戻し、記者たちには、「(ビットコインとは)何の関わりもない」とニューズウィークの報道を否定した。ビットコインの創始者の正体はいまだはっきりしていない。
シンガポールでは、ビットコイン騒動のさなか、仮想通貨の取引所を経営する米国人女性の死亡ニュースが現地メディアを騒がせている。現地の報道によると、その後、警察当局は死因に不自然な点があるとして捜査に乗り出したという。
人々の暮らしや社会の仕組みまで変えるようなイノベーションも、混乱を招いてばかりでは、広がっていくことは難しいだろう。ビットコイン騒動が映し出したのは、技術革新の光と影だ。ネット社会の進化のあり方を問いかけている。
=敬称略
(玉置亮太、井上英明、森下寛繁、小川義也)