藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

巨大化のわけ。

今更ですが、AGFAApple, Google, Facebook, AmazonあとAlibabaもあるらしい)の中で最後まで生き残るのはやっぱりamazonでしょうか。

これまで、海外での販売は企業にとって大きな負担とリスクが伴った。
外国で倉庫を契約し、物流業者を動かし、決済や顧客サービスも整備しなければならない。
ところが、アマゾンを使えば、瞬く間に「海外進出」が可能になる。

amazonがネット通販の巨人と思っていたらびっくり。
プラットフォーマという言葉でも足りない。
聞けば融資までしてくれるという。
「総合販売商社」になっているらしい。
クラウド・システムも提供し、リアルな物流網も持つ。

さらには音声技術でユーザーとのインターフェイスも取れるかもしれないという。
ベゾスという創業者が最初からどの程度の「広さ」でビジネスを考えていたのか分からないが、顧客の「ラスト1インチを取りに行った」勝利か、などと思う。

自分とは比べるべくもないが、会社というのは信条とか情熱とか、そんなものがつくづく大事で。
流されることなく自分の思う道をただひたすら…

うまくいくかどうか、ということを先に考えるのは「邪(よこしま)」なことなのに違いない。

全てをのみ込む小宇宙
「魅惑のエコシステム(生態系)」の全貌

アマゾンは進軍した先々で、あらゆる人と企業を取り込み巨大化していく。その豊穣な生態系は、一度入ると抜けられないブラックホールなのか。

ぼん家具の立石幸士社長は、アマゾンで成長して新オフィスを立ち上げた

 前年同月比16倍の増収──。

 ネット家具販売のぼん家具(和歌山県海南市)は1年前、アマゾンでそんな月間販売を記録した。その後も3〜5割の成長が続き、その波に乗って8月、和歌山駅近くに新オフィスを構えた。

 入り口には取引先から贈られた大きな胡蝶蘭がずらりと並ぶが、その中に1つだけミニチュアのような小さな胡蝶蘭があった。

 「これはアマゾンさんから頂いたものです」。ぼん家具の立石幸士社長は笑いながら鉢を指さして、「アマゾンの体質を物語っている」と付け加えた。無駄なコストをかけず、究極の効率化を推し進めるカルチャーである。

 2年前、アマゾンのマーケットプレイスに出店してから、停滞していた業績が一気に成長軌道に乗った。アマゾンが求める高レベルの物流品質を実現するために、生産から物流まで事業を見直し、磨き上げてきたからだ。

 「プライムのマークが付くかどうかで売れ行きががらりと変わる」。立石社長はそう効果を話す。プライム会員向けの商品に指定されるには、アマゾンの物流サービス「フルフィルメント by Amazon(FBA)」を使う必要がある。だが、家具は倉庫の面積を食うため、多くの品を置いてもらうことはできない。

 そこに朗報が入る。昨年、マーケットプレイスの外部業者に対して、アマゾンと同水準の物流のスピードと品質を実現すれば、プライムマークを付けることが発表された。

 ぼん家具はアマゾン担当者や運送業者、家具メーカーと打ち合わせを重ねる。その結果、荷物の3辺を160cm以内にすると運送スピードが格段に速くなることが分かった。それを海外メーカーと交渉、部品や設計を変更してスピード配送を実現していった。

 そして昨年7月、ぼん家具は日本初のマーケットプレイスでのプライム認定を獲得した。現在、プライム対象商品は全1600アイテムの3割程度。「この比率を高めることが、販売を伸ばすポイントになる。アマゾンの基準に合わせるだけで、企業が強くなる」

人気商品にカネを貸し込む

 アマゾンはマーケットプレイスに参加する事業者に、様々な「成長装置」を用意する。その筆頭が強力な物流網だ。

 先に述べたFBAはアマゾンが商品の保管や出荷、決済、顧客対応などeコマースに関わる業務を代行するサービスだ。商品によって8〜15%の手数料を支払うが、「フルフィルメントセンター」と呼ばれる配送センターに納品するだけで済む。eコマースの関連コストが変動費になるメリットは大きい。

 「このサービスを使えば、最高の商品を作ることだけを考えればいい」。高さが調整できる立ち机を製造販売するStand Steadyの創業者、デイ・マーティン会長はアマゾン効果をそう話す。

 配送センターは、世界で150カ所以上に点在する。アマゾンの生態系に参加すれば、物流網は海外まで伸びる。

 これまで、海外での販売は企業にとって大きな負担とリスクが伴った。外国で倉庫を契約し、物流業者を動かし、決済や顧客サービスも整備しなければならない。ところが、アマゾンを使えば、瞬く間に「海外進出」が可能になる。

米国市場をアマゾンで攻め、販売を急増させた長谷川工業の長谷川義高副社長

 はしご脚立メーカーの長谷川工業(大阪市)は、2009年に発売したデザイン脚立「ルカーノ」で国内外のデザイン賞を獲得した。その勢いで海外販売を開始したが、なかなか数字が伸びない。そこで昨年、アマゾンに米国進出のサポートを依頼した。

 「商品の見せ方から物流、カード決済まで全てを支援してくれた」(長谷川義高副社長)。効果はすぐに表れた。ルカーノの海外の販売数量が、ここにきて日本と同水準まで上昇してきたのだ。

 「欧州も、アマゾンでの販売を検討している」(長谷川副社長)

 アマゾンは「成長装置」として、金融機能も用意している。

設立直後の融資で、王国権ベステックグループ社長はベストセラーを連発

 14年、車載用充電器などを販売するベステックグループ(横浜市)を設立したばかりの王国権社長は、資金繰りに悩んでいた。出身国である中国のメーカーから仕入れた製品をアマゾンで販売していたが、飛ぶように売れたため在庫を増やしたい。だが、創業間もないうえに、外国人経営者ということもあって銀行は融資を渋った。

 そんな時、苦境を見透かしたようにアマゾンから融資のオファーが届いた。

 ネットに必要事項を入力して送信すると、わずか2営業日後に数百万円が振り込まれた。その後もアマゾンの資金を使って急成長し、今年になって家電製品の取り扱いを始めると、冷蔵庫は3カ月で売り切れた。今では数千万円をアマゾンから借り入れている。

 「アマゾンが売り上げと在庫の推移を見て貸した短期ローンなら、返済はほぼ確実だと思う」(王社長)

 銀行が企業のリアルタイムの数字を捉えることは難しく、どうしても後手に回ってしまう。そうした金融の盲点を突き、しかもマーケットプレイス機会ロスを解消している。

 最近はスタートアップの育成に力を入れる。国内外の革新的な新興企業にマーケティングや配送などを支援する「Amazon Launchpad」だ。特設ページには1万5000の新興企業の商品が掲載されている。このプログラムを利用している企業は全世界で2100社を超える。

米アンキのタペイナー社長はAmazon Launchpadでメジャーに

 AI(人工知能)を搭載したレーシングカーキットや小型AIロボを開発する米アンキもその中の一社。ハンス・タペイナー社長は、「商品の概要だけでなく、どういう考え方で商品が生まれたのか、作り手の思いを伝えられる」とプログラムの長所を説明する。

 新商品アイデアを消費者に熱く語りかけたい──。そんな起業家の熱意を、アマゾンは消費者に伝えてビジネスを後押ししている。

 生態系に加わる起業家が新たな市場を開拓する。それがサイトの魅力を高め、アマゾンの売り上げを伸ばしていく。その結果は数字にも表れている。

1998年の入社以来、商品カテゴリーの強化や欧州事業の拡大に尽力してきたブルーサード氏。「驚くべきことに、20年前のアマゾンと今のアマゾンを見ても、そのカルチャーがほとんど変わっていない」と語る(写真=Hayley Young)

 16年にマーケットプレイスで20億アイテムが販売されたが、17年は上期でその数字をクリアしてしまった。その生態系を支えているのは、世界で200万を超える中小業者だ。「売り手の成功は我々の成功」。インターナショナル・セラー・サービスのバイスプレジデント、エリック・ブルーサード氏は語る。

軒先を貸して、繁盛店を作る

 「弾み車(flywheel)」。ベゾス氏は急成長の仕組みを、その言葉に込める。重い弾み車を回すには大きな労力がかかる。だが、押し続けていくうちに少しずつ勢いが増し、そのうち自転のように回り続けていく。経済に置き換えれば、好循環を生み出す仕組みさえ動き出せばビジネスは拡大して止まらなくなるという理論だ。

 振り返れば、マーケットプレイスはこの循環を生み出す舞台装置だった。

全ての打ち手は成長につながる
●ベゾス氏の弾み車

 参加業者を引き込めば品ぞろえが増し、サイトに来た人の満足度は向上する。そうして顧客が増えれば出品者がさらに集まる。その利益を値下げに使えばさらに加速力が上がっていく(上図を参照)。00年代前半の苦境の中、競合他社に軒先(サイト)を開放したことで、この弾み車が回り始めた。

 「外部の売り手をアマゾンに引き入れる決断がなければ、地球最大の品ぞろえというビジョンは実現できなかった。アマゾンの強さは、リテール事業とマーケットプレイスの両方を持っていることにある」(ブルーサード氏)

 その決断は、社内に衝撃を与えた。アマゾンのリテール部門にしてみれば、突然、ライバルが自社サイトで販売を始めることになる。高い販売目標があるのに、客を奪われかねない。

 だが、ベゾス氏は「顧客の利益」を軸に判断する。外部の出品者の方が安ければ、それは消費者にとって望ましいことだ。競争によって自社の競争力も磨かれると考える。

 その背景には過去の失敗がある。ネットオークションで成功したイーベイを追撃するため、1999年にアマゾンもオークション事業を始めた。ところが、大苦戦を強いられる。アマゾンがeコマースとオークションを全く別のサービスとして運営したことが原因だった。そこでサイトの統合を決断する。

 「アマゾンと外部業者の商品を同じように買えるようにすることが狙いだった」。『The Amazon Way』の著者で、マーケットプレイスの改革を主導したジョン・ロスマン氏はそう振り返る。

 その後も、弾み車を加速させるために、様々な仕掛けを打ち続けた。回転を始めた弾み車にさらなる推進力を与えたのはアマゾンプライムだ。

 eコマースの最大のネックは「eコマースは送料分が高くつく」という顧客心理。そこに、「プライム会員は送料無料」とうたったため、逆に大量購入を生み出した。できるだけアマゾンで買おうとする消費者が増えたことで、商品検索のシェアも増加、eコマースは破竹の勢いで伸びた。そのプライム会員に様々な特典を追加して、盤石の「eコマース消費群」へと育て上げていった。

「配当ゼロ宣言」を貫く

 もっとも、次々と打たれてきた生態系の強化・育成策は、ベゾス氏とアマゾンが最初からロードマップを描いて進めたことではなかった。プライムやその後の施策は、一つひとつが単体で利益を出すとみて導入したわけではない。

 プライムの年会費やFBAの物流手数料といった配送関連の収入と、実際にかかった配送コストを比較すると、2016年は70億ドル以上の赤字とみられる。だが、プライム会員によってeコマースの売上高やシェアが押し上げられているので、配送の収支だけを切り出して議論しても意味はない。

 それは、生態系が全ての生物による支え合いによって成立していることと同じ構図だ。

 プライム会員向けの無料配送を始めた05年当時、単独で採算が取れるとは誰も考えていなかった。ただ、無料配送は顧客にメリットが大きく、購入が増えることは間違いない。最後は、ベゾス氏の鶴の一声で始まった。

 その判断軸は創業期からブレていない。毎年、株主総会に際してベゾス氏がしたためる「株主への手紙」。そこには、上場初年度の1997年の年次報告書に掲載された「Day One」の哲学を記した文章が添えられている。

 「市場のポジションを得るため、顧客と売り上げの伸びにフォーカスします。そのため、配当は一切払いません」

 今でこそ、米配車サービス大手ウーバーテクノロジーズのように、赤字覚悟で顧客と売り上げを取りに行く戦略はウェブ関連サービスではよく見られるようになった。それを20年も前から続けているのは、ベゾス氏の哲学と長期的視点のなせる業だろう。

 この20年でアマゾンは他に類を見ない複雑な生態系を作り上げた。オープンで誰もが暮らしやすい世界だからこそ、あらゆる起業家が「成長の土台」として活用している。生物が地球を必要とするように、マーケットプレイスは不可欠な大地となりつつある。

 アマゾンが構築したもう一つの巨大なエコシステム(生態系)はアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)だ。

将来もクラウド市場は拡大していく
クラウド市場の推移予測(グローバル)

注:ウィキボン調査のパブリッククラウド市場規模

 クラウドコンピューティング業界は2016年に市場規模が約800億ドルに達した。27年には5250億ドルに成長すると予測される(ハイテク調査グループ、ウィキボン調査)。その成長市場でAWSは他の追随を許さない。

 AWSの登場前、企業はサーバーを購入して自前のシステムを構築する必要があった。だが、アマゾンは社内で使っていたシステムの機能を他社に「間貸し」するサービスを始める。これを使えば、企業はサーバーやデータセンターを持つ必要がなくなる。電気やガスのように従量課金制なので「ハードは買ったが容量が余っている」という無駄もない。

 「システム費用を設備投資でなく、変動コストとして処理できるのは大きい」。AWSとの協業に関わった米レッドハットのビジネス開発担当バイスプレジデント、マイケル・フェリス氏はそう効果を話す。今ではAWSはストレージやサーバー処理、AIなど90の主要な機能サービスを提供している。

仕事が勝手に舞い込む

エフエム和歌山の山口誠二氏はニュースの音声読み上げシステムをAWSで構築

 社員7人のエフエム和歌山は、AWSの音声読み上げ機能「Polly」を使って、ニュースを流している。新聞社のニュース原稿をテキストデータとして蓄積し、放送時間に米オレゴン州AWSのデータセンターに送信すると、1〜2秒後に日本語の音声ニュースが流れる。

 「深夜帯などはアナウンサーを用意できない。予算が少ない民間放送局には強力な武器になる」

 そう話す企画・編成の山口誠二氏が音声読み上げを検討したのは3年前のこと。だが、システム会社はシステム構築費で70万円、月々のテキスト読み上げに2万〜3万円を提示した。小さな地方局には負担が重すぎるため、この時は断念せざるを得なかった。

 ところが、AWSは初期費用がかからず、10万文字で400円という破格の値段だった。1日6回ニュースを読み上げても、年間1000円もかからない。「今後は音楽番組のDJにも使う方針だ」

ネット写真サービスで顔認識機能を組み込む千株式会社の千葉伸明社長

 ネット写真サービスを手掛ける千株式会社もAWSにとりつかれた一社だ。幼稚園や小学校の運動会といったイベントの写真を撮影・販売する同社は、今年になってAWSの画像認識サービス「Amazon Rekognition」の採用を決めた。イベントによっては写真が1万枚を超えるため、自分の子供の写真を探すのは時間と労力がかかる。だが、アマゾンのサービスを使えば、1〜2秒で目当ての写真が探し出せる。

 「10年前から探していた機能。国内外の会社に頼んだが、1000万円を超えるコストを提示されたこともある」と千葉伸明社長は打ち明ける。だが、AWSは従量課金で、1イベントを検索できるようにするためにかかる平均コストは200円程度で済む。

 利用率は2〜3割だが、今後はサイトに来た顧客に、過去の購入履歴から家族の写真を先回りして表示するサービスを検討している。アマゾンの広告表示に使われている機能の応用だ。

 AWSはコスト低減だけでなく、事業のイノベーションを支える。機能や規模が自在に増減できるため、新規事業など、機敏にビジネスを展開するケースに向いている。AWSがなければ、Airbnbやネットフリックスはビジネスを一気に拡大できなかっただろう。

 「周りのスタートアップの企業はほぼAWSを使っている。使わずに立ち上げた会社を探す方が難しいくらいだ」。サンフランシスコのソフトウエアエンジニア、ジミー・スー氏はそう話す。

 AWSの登場で、システム業界は激変してしまった。

AWSのプレミアパートナー、クラスメソッドの横田聡社長(写真=的野 弘路)

 「うちからは売り込みはしない。それでも、あらゆる業界から仕事が舞い込む」。日本に7社しかいないAWSのプレミアコンサルティングパートナーとして、AWS機能を使ったシステム設計を手掛けるクラスメソッドの横田聡社長はそう打ち明ける。

 当初は企業向けにシステムを開発していたが、自社システムのためにAWSを触り始めて、パーツ(機能部品)を組み上げて瞬時にシステムを構築できるAWSの威力を知った。その後、資生堂ソフトバンク凸版印刷など大企業のシステム構築を担うことで急成長、今年中にその数は1000社を超える。

 こうしたAWS生態系に、大手IT企業ものみ込まれている。

 大手ITのNECも、AWSのプレミアパートナーに認定されている。NECは自社でもクラウド事業を展開しているが、年内にAWSの認定技術者を現在の2倍の500人体制にするという。

 「NECなど歴史のある大企業にとってAWSは脅威。でもサーバーや自社サービスにこだわればDisrupt(破壊)される。どうAWSと協力していくかを考えないとならない」(NECの榎本亮CMO)。大手IT会社も取り込み、AWS生態系は勢力図を拡大している。

ジョブズになる必要はない」

 ネット書店だったアマゾンから、なぜ革新的なクラウド事業が生まれたのか。元をたどると、自社のシステム部門が成長のボトルネックになっていた事実に突き当たる。

 00年代初頭、ベゾス氏は社内に、ある「お触れ」を出した。システムやサービスを機能や構成要素ごとに分解して、社内外の人間が手軽に利用できるようにしろ、という指示だ。これが実現すれば、必要な機能を集めて新しいサービスを素早く作ることができる。

 ベゾス氏が出したこの指令は、今で言うAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の概念を含んでいた。APIという言葉さえ浸透していない時期に、社内のシステムやサービスを部品にしてやり取りするよう求めたのだ。

 アマゾンの元エンジニアで、その後グーグルに移ったスティーブ・イエギ氏のブログには、02年ごろのベゾス氏の指令が詳しく書かれている。

 「全てのチームがサービスインターフェースを通してデータや機能を公開すること」「全てのインターフェースは例外なく外部から見えるように設計すること」。ベゾス氏はそう命じて、従わない者は例外なく解雇すると宣告したという。

 「ベゾスが命令を出すのはいつものことで、社員はそのたびにハンマーを振り上げられたありんこのように慌てふためく。だが、02年ごろに出された命令はいつもと違っていた。その命令は目玉が飛び出るくらい大きく、それまでの命令がちっぽけに見えたほどだった」。イエギ氏はそうつづっている。

 APIとは、見方を変えれば様々な機能をセルフサービスの形で提供するということだ。また、APIを使えばデータやソフトウエア、部門間の統合も容易になる。ある機能が欲しければ自分で取りに行く。サービスを作った方は機能や使い方をAPIの形で公開する。そうすれば、ボトルネックは解消するとベゾス氏は考えたわけだ。

 構成要素をバラバラに分解して取りに行く──。この発想こそ、アマゾンをクラウド企業の先駆者に転換させた本質であり、売上高1359億ドルの巨大企業になった今もスピード感を失わずに成長している理由だ。

 ストレージや演算処理などの機能がパーツに分かれていれば、欲しいシステムを瞬時に組み上げられる。進出国でレコメンデーション(おすすめ)機能を追加したければ、過去に作られたAPIを活用すればいい。音声読み上げや画像認識も開発チームがすぐにAPIにしたから、早期に公開できたに違いない。システム開発は格段に速くなった。

 それにしても、ベゾス氏はなぜ、あのお触れを出したのか。思考の奥底はのぞけないが、状況証拠としては、ITバブル崩壊後のカオスの中で、組織の効率化とビジネスの収益化を必死になって考え続けた結果だと思われる。

 「全ての人に合う製品を作るためには、ジョブズになる必要はないということにベゾスは気づいた」。イエギ氏はブログでそうも語っている。それは、グーグルに向けた批判でもあった。

 万人が満足する製品やサービスを作ることは不可能である。だが、誰もが自由に参加できる「場」を作れば、それぞれの開発者が顧客に合うものを勝手に作る。やるべきことはメニューを増やすことと、誰でも利用できるようにすること。だが、プロダクト主導のグーグルはそれが理解できない。そうイエギ氏は嘆いたのだ。

 ベゾス氏はそこに誰よりも早く気づいたからこそ、強大なプラットフォーマーへと変貌を遂げた。

 AWS以外の環境でサービスが使えるようになるなど、進化を続けている。高いシェアを獲得しても囲い込まず、逆にオープンにすることで、AWSの生態系を繁栄させようとしている。

 そのアマゾンで、さらに人々を巻き込む新しい生態系が出現している。「アレクサ」だ。

(写真=David Becker/Getty Images)
声だけで、あらゆるモノを動かす
●アレクサの仕組み

アレクサは話し手の音声をテキストに変換する技術と、テキストの意味を読み取り、端末に伝える技術の集合体(写真=T3 Magazine/Getty Images)

 アレクサとは、アマゾンが開発したAIによる音声認識エンジンで、話し手の声を聞き取り、テキストに変換する技術(自然音声認識)と、テキストの意味を読み取り、アプリケーションに伝える技術(自然言語処理)から構成される。アマゾンが発売している「エコー」は、アレクサを搭載したスピーカーだ。

 2014年にエコーを発売して以来、アレクサはスマートフォンに代わる次世代インフラと目されるようになった。

 スマホの登場以前、コンピューターを動かすにはキーボードとマウスが必須だった。だが、iPhoneが誕生すると、タップとスワイプが人と機械をつなぐインターフェースとして台頭した。

 「次の革命は間違いなくボイス(音声)インターフェース。そのことを最初に認識して先頭を走るのがアマゾンだ」。米ガートナーのアナリスト、ワーナー・ゴーツ氏はそう指摘する。

 エコーの普及で、音声アシスタントを巡る競争は激しさを増している。

 8月23日、グーグルとウォルマートは音声によるネット通販事業で提携すると発表した。グーグルのネット宅配サービスにウォルマートが商品を提供、グーグルの音声AIを搭載した「グーグルホーム」に話しかければ、声での注文が可能になる。

 すると翌週、音声アシスタント市場で競合しているアマゾンとマイクロソフトが提携を発表した。アレクサとマイクロソフトの「コルタナ」を連携させるという戦略だ。

 コルタナはすでにウィンドウズ10に組み込まれ、スケジュール管理やメールの読み上げに対応しているが、パソコンでの利用にとどまっている。一方、アレクサはエコーを通じて米国の家庭に浸透しているが、ビジネス用途は弱い。「両者の顧客満足度を高めるための提携だ」(アレクサ関連事業部門担当のバイスプレジデント、トニ・リード氏)

アレクサ関連事業部門を担当するバイスプレジデントのトニ・リード氏。家には10以上のエコーがあるという(写真=Hayley Young)

企業の中心に食い込む装置

 AIによる音声アシスタントの嚆矢はアップルのシリだったが、ジョブズ亡き後、開発ペースが減速した。技術的にはグーグルが上回っているという声もある。それでもアレクサの利用が拡大しているのはエコーの発売が早かったことに加えて、外部の開発者が自由にアレクサを組み込んでサービスを構築できる環境を整えているからだ。

 エコーの発表当初、アレクサを使ったサービスは13にすぎなかったが、今では2万に急増した。1月の米家電ショー(CES)では、アレクサ搭載商品が700以上も展示されて話題をさらった。

 技術を開放して外部の開発者を取り込む。そのフィードバックによって質を磨き上げ、生態系を繁栄させていく。それは、ベゾス氏がeコマースやクラウドでとった手法そのものだ。

 「大半の技術がなく、一から作る必要があった」。そうリード氏は振り返る。最初の一歩はノイズのある部屋の中で、「アレクサ」と呼びかけた時に、言葉を認識して起動することだった。それが、いつしか技術を売りにする企業を追い抜いてしまった。

 そんな無謀とも思える挑戦に乗り出したのは、ベゾス氏の思想である、顧客満足につながるなら困難があっても腰を据えて突き進むカルチャーに他ならない。「アマゾンは失敗を許容する文化がある。挑戦することを恐れる必要がない」(デジタルビデオのティム・レスリー氏)。これはマネジメント層に浸透している。そして、外部に門戸を開いて切磋琢磨していく。

 音声を媒介としたアレクサという生態系は、消費者とビジネスを結びつけ、さらなる地平を切り開いている。

 37ページで見たように、アレクサは音楽ストリーミングの世界を激変させ、音楽消費の新しい世界を生み出してしまった。いずれはマーケティングと広告の世界をも揺さぶるだろう。

 さらに、ビジネスの内部にまで食い込もうとしている。

 アマゾンは社内コミュニケーションやビデオ会議などのツールとして、エコーを企業内に送り込む腹積もりだ。スクリーン搭載の「エコー・ショー」はその布石だろう。日々の業務が音声で進められる世界は早晩訪れる。その時、オフィスの中心にエコーがあれば、販売や購買といった企業取引を、根こそぎ囲い込むことになる。

 それは、アマゾンの複数の生態系が絡み合いながら、さらに強固で抜け難い集合体になっていくことを意味する。もはや、アマゾンなしにビジネスも生活も送れない。そんな世界が到来する。