yomi Dr.より。
HIV感染者のエイズ発症を「ほぼ抑えられるレベル」になっているという記事。
もう三十年も前のこと。
HIVウィルスの存在が日本でも知られるようになり、またその「以上に強い増殖・転写の力」と「次々に自らの姿を変異し伝播してゆく様子」は、まるでSF映画の悪夢を見ているようだった。
紹介するメディアや医学界の面々も、正にドラマよろしく「ついにこのようなウィルスが現れたか」とまるでこの世の終わりのように紹介されていたものである。
自分もよく現代医学は、あまりにもミクロの現象に対応しすぎ、結果臓器とか生物の全体的な調和を取ることを見落としている、などと発言する(実際分子生物学の医師には、この点を力説する人が多い)けれど、こうした取り組みの記事を見ていると「ある特化した分野」においては目覚ましい研究と成果があるということもよく分かる。
その当時、エイズと言えば「治療不能の病」の代名詞だったが、今や
三十年前に比べれば、遺伝子を逆転写するHIVだけではなく、もうヒトの全ての遺伝子情報はまもなく完全に解明され、解析されるのも時間の問題になっている。
これからも研究が進み、精度が上がれば上がるほどに、さらに多くの事が解明され、そしてさらに取り組まねばならない分野も「乗数的に」増えてゆくのがいわば科学の宿命なのだと思うが、こういう現象こそ、人が知恵を使い、取り組んでゆくにふさわしいテーマなのだと思う。
自然科学だけでなく、経済学でも哲学でも法律でも、人は恐れずにまだまだ知の探究を続けるのに違いない。
抗HIV薬 次々と開発…早期治療 エイズ発症抑制
国内に約2万3000人いると報告されているHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者とエイズ患者。近年、エイズ発症を抑える抗HIV薬が次々と開発され、早期に治療を始めれば日常生活を支障なく送れるようになった。一方で、検査を受けずにエイズを発症し、深刻な病状に至ってしまうケースもまだ多い。
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HIVがヒトの免疫細胞に侵入すると、通常、遺伝情報がDNAからRNAに複製(転写)されるのとは逆に、ウイルスのRNAから酵素の働きでDNAが合成される(逆転写)。これがヒト細胞のDNAに組み込まれると、ウイルスのRNAとたんぱく質が作られ、新たなHIVを生み出す。感染した細胞は数日で破壊され、徐々に免疫機能が低下。通常なら排除できる細菌やウイルスにも感染しやすくなる。HIVの増殖を抑えなければ、肺炎や悪性腫瘍を発症するエイズに至る。
厚生労働省エイズ動向委員会の速報値では、昨年の新たなHIV感染者の報告数は1077人、エイズ判明は469人。近年、計1500人前後で推移している。感染の可能性の有無をふるい分けるスクリーニング検査、疑陽性を除外する確認検査を経て診断する。
エイズが発見された30年前は不治の病だったが、HIVが増殖する過程をブロックする薬が相次いで開発された。現在は複数の過程で阻害する「多剤併用療法」が主流だ。
いったんHIVに感染すると体内のウイルスは死滅させられない。エイズ発症を防ぐために薬を生涯飲み続けることになるが、国立国際医療研究センター(東京都)のエイズ治療・研究開発センター長、岡慎一さんは「きちんと服用を続ければ、ほぼ確実に発症を抑えられ、他人への感染も防げる」と強調する。
薬には、ウイルスのRNAからDNAが作られるのを妨げる「逆転写酵素阻害薬」、ウイルスのDNAがヒトのDNAに組み込まれるのを抑える「インテグラーゼ阻害薬」のほか、ヒト細胞への侵入を防ぐ薬や新たなウイルス合成を防ぐ薬がある。
国内では20以上の薬が承認されており、2種類の逆転写酵素阻害薬をベースに、それ以外の薬を組み合わせ計3種類を飲むのが標準的だ。「1日1回1錠」「1度に2錠」「1日2回」「食後・食間の服用に限られる」「他の薬物との飲み合わせに注意が必要」など、様々な特徴がある。
薬の多くは1・5センチ超と大きいのがネックだ。発疹や脂質異常、下痢など副作用も比較的出やすい。ただ、服用を怠るとエイズ発症のリスクが増すことから、より飲みやすい薬の開発が望まれてきた。
4月に発売された「ドルテグラビル」は、インテグラーゼ阻害薬の一つで、1日1回1錠を他の薬と併用する。食事のタイミングを気にせずに飲め、錠剤も直径9ミリと小さめだ。抗ウイルス効果も従来の薬と同等以上で、他の薬への影響も比較的少ない。
薬が進歩し、専門医らは「HIVは治療で管理できる慢性感染症」と捉えるようになった。一方、エイズへの根強い偏見や恐れが、検査から足を遠のかせている。岡さんは「実際の感染者は3万人とも5万人とも言われるが、実態をつかめなければ制圧できない。検査体制を根本から見直す時期が来ている」と話す。(佐々木栄)
※HIV=Human Immunodeficiency Virus
(2014年5月8日 読売新聞)