藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

買い物の心理学。

人はセオリーで買い物をしない。
買うか買わないかを決めるのは感情である。

とは有名なマーケッターの言葉である。
衝動買いよろしく、商品を前にして、一瞬「何が決め手か」を見失い、後々後悔することはままあるものである。
この日経の記事が紹介してくれているハーバート・サイモンの「人は何かを買うときに全体としてはよく分からなくても、部分的にニーズを満たしてくれれば満足する。」という事実を目の当たりにすると「なるほどー」という答えしか出てこない。
ようするに、"分かりにくいけれどゴテゴテした商品"を自分たちは感情的に好んでいるのである。
日本人が特に好むという「○○限定」とか「特別仕様」という"よく分からないもの"に弱いようだ。
「よく分からない」くせに、「そこ」に何か「本来以上のものを期待する」というのは"あざとい"という以外何物でもない。
購買の心理とはそうしたあざといものなのである。

外資系のコンサル企業に勤める友人は、海外出張で五つ星ホテルを泊まり歩いた結果「物欲がまったくなくなった」と言っていたけれど、買い物とは不思議に「熱中しているときは周りが見えなくなるくらい」にのめり込んでしまうくせに、ひとたびどうにかすると、それこそ「瘧が落ちたように」興味が失せてしまうものでもある。

結局は、買い物心理とはそうした感情的なものだから、「お得感満載」のようなものを追いかけずに、シンプルに「欲しいものを、欲しいだけ」という原点に帰る冷静さが重要なのだろう。
"お得"は結局大してお得でもないということは、予め頭の中にインプットしておきたいものである。

複雑なのになぜ選ぶ 保険や投信を割高にする心理
投資教育アドバイザー 大江英樹

旅行のパッケージツアーや正月の福袋など、複数のものを組み合わせることで個別に買うより割安になる商品があります。売り手も効率的に販売できるため消費者と利害が一致するのですが、金融商品には買い手が得するとは限らない組み合わせ商法もあるので注意が必要です。

金融機関は複数の商品を組み合わせたり、保障機能を付加したりすることをサービスの一つと位置付け、その分のコストを上乗せする
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金融機関は複数の商品を組み合わせたり、保障機能を付加したりすることをサービスの一つと位置付け、その分のコストを上乗せする

 保険でいえば特約が分かりやすい例です。通常の保障内容(主契約)に特定の病気や治療に対応した保障を上乗せするオプション契約で、加入時や更新時に「さらに安心」「充実保障」などと勧められることが珍しくありません。

 しかし保険というのは本来シンプルなものです。めったに起きないけれども、もし起きてしまうと大変な事態に備えて多くの人がお金を出し合い、不幸に直面した加入者にお金を回す互助制度です。少ない負担で大きな保障が得られる商品ほど、保険としての経済的価値は高いことになります。

 死亡時に3000万円の保険金が支払われる1年間の掛け捨て保険のようにシンプルな契約なら、消費者は同じ保険金と保障期間の商品で保険料を比べれば、どの保険会社の商品が割安かは一目瞭然です。ところがこれに特約が付いてしまうと比較が難しくなり、どれを選べばいいか分かりにくくなります。

 同じようなことは投資信託にも言えます。価格が日経平均株価の動きに連動するインデックス投信なら、日経平均を見れば自分の持っている投信が上がっているか下がっているかすぐ分かります。あとは信託報酬(手数料)が高いか安いかを判断すればいいだけです。

 ところが「通貨選択型○○ボンド投信ブラジルレアルコース(毎月分配型)」のようなものになると、かなり難解です。変額個人年金保険なども保険の衣をまとった投信のような商品ですから、やはり分かりにくいでしょう。

 こうした複雑な金融商品は、それだけ利用者が負担する手数料が割高になる傾向があります。金融機関は複数の商品を組み合わせたり、保障機能を付加したりすることをサービスの一つと位置付け、その分のコストが上乗せされるからです。


しかし利用者や投資家にしてみれば、複雑な金融商品を選べばそれだけもうかるのかというと、決してそんなことはありません。リターンがどれだけ得られるかは相場次第ですが、コストは確実にかかります。したがって複雑で手数料が高い商品になればなるほど、もうかる可能性は低くなると考えた方がいいでしょう。逆に言えば売り手は、複雑な商品ほど手数料でもうけられるチャンスが増えることになります。

 にもかかわらず、保険加入者や投資家はなぜ複雑な商品を選んでしまうのでしょうか。これは米国の認知心理学ハーバート・サイモン氏が意思決定理論として提唱した「満足化」という思考プロセスが影響しています。満足化とは簡単に言えば、人は何かを買うときに全体としてはよく分からなくても、部分的にニーズを満たしてくれれば満足するということです。

 例えば先ほど挙げた「通貨選択型○○ボンド投信ブラジルレアルコース(毎月分配型)」で言えば、商品名自体は分かりづらいものの「新興国だから高金利」「今後が有望なブラジル経済とその通貨に投資できる」といった説明を受ければ、そこには魅力を感じるわけです。保険ならたくさん付いている特約の一つ一つは具体的で「確かにそうなったら困るな」と思えるため、数百円や千円程度なら「ついでだから」と契約しがちなのが人間の心理でしょう。

 あれもこれも付いていることで得した気分になるものの、結局は割高になっていることに気付かないケースは多いはずです。自分が入っている保険の保障内容を正確に把握している人がどれだけいるでしょうか。

 本来なら買う目的を自分のなかで単純化し、必要だと判断したものをほかの商品と比較しながら選ぶのが賢いやり方です。ところが、いろんな要素や機能を備えたものほど「何となくよさそうだ」「お得かもしれない」と思ってつい買ってしまう――。これが「満足化」のもたらす心理的バイアスなのです。

 家庭用洗剤では「まぜるな危険」とラベルに表記しているものがあります。金融商品は複数の機能が混在しても「危険」というほどではありませんが、「こんなに複雑な商品が自分に必要なのか」と自問してみる方が賢明です。


大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「自分で年金をつくる最高の方法 確定拠出年金の運用【完全マニュアル】」(日本地域社会研究所)、「生命保険の嘘」(後田亨氏と共著、小学館)など。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
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