高層マンションを専門に扱う不動産業の友人に聞いた話。
一つは地震余波。
これは高層のオフィスビルでもそうらしいが、いくら制震、免震構造とはいえ一定規模の揺れがあると、かなり傷んでいるらしい、ということ。
構造的に崩れるとか倒壊するということはないらしいが、壁面や床には結構な歪みが生じていて、歩いていても下の階にはミシミシと木造床のような軋み音がしたり、出入り口のドアが変形して開かなくなったりしているという。
何百メートルの建物がエネルギーを吸収してユラユラしているのだから、まあそういったことは仕方がないのかもしれないが、居住者は結構ショックを受けているという。
高過ぎても実は…
もう一つは景色のこと。
スカイツリーの来場者に陰りが出た、という記事から思い出したのだが、高所からの見晴らしというのは「高ければ高いほどいい」というものではないらしいこと。
例えば飛行機のように上空10kmとかになるとまた違うらしいが、建物からの眺めは一定以上の高さになると「ただの景色」のように見えて、リアリティがなくなるらしい。
つまり、「地上の構造物などがある程度立体的に把握できるくらいの高さ」が眺望としては最も人気があるということらしい。
具体的には35-45階くらい、つまり地上100-150メートルくらいの眺めが一番人気があるということだった。
そういえば、以前香港の100階超のホテルに宿泊したが、なるほど高いのは高いけれどそれこそ飛行機の離陸時のような眺めで、綺麗なのだが「リアリティ」という意味では写真の眺めのように感じたことを思い出した。
余談で、同様に人が一番高さに対して恐怖を感じるのは10-20mくらいなのだという。
あまり高くなってしまうとやはりリアリティがなくなるらしい。
人の感覚って主に眼からの情報によるから、必ずしも絶対値に感情が支配されていない、という話はとても興味深いものを感じた。
適度な景色を楽しみたいものである。
開業3年で来場者前年割れ 岐路に立つスカイツリー
2015/5/26 12:00日本経済新聞 電子版
東京スカイツリーが開業して3年がたった。当初の熱狂は過ぎ、来場者が減っている。展望エレベーターの度重なる休止、手薄なリピーターや訪日外国人獲得策が課題だ。「一度は訪れたい施設」から脱皮できるか。首都圏の新名所は岐路に立っている。2015年5月中旬の平日。東京都墨田区にある東京スカイツリー展望台に昇るための当日入場券売り場には、50mほどの長い行列ができていた。カップルや家族、団体旅行客など並ぶ人は様々。チケットを購入してから展望台に上がるのに1〜2時間、週末ともなれば4〜5時間かかるという。
一見、相変わらずの人気施設のように映るが、実態は違う。2014年度には597万人の来場を見込んだが、実際は531万人にとどまった。2015年度は470万人とさらに減る見通しだ。
2012年5月22日のスカイツリー開業直後の集客力はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。当初、初年度の入場者数は400万人を見込んでいたが、来場者の殺到を受けて2度上方修正した。それでも実績は修正後の計画も上回る554万人に。通年で稼働した2年目の2013年度はさらに客数が増加、619万人に達した。しかし2014年度は一転、2013年度比14%減だ。
「開業ブームが落ち着いてきた」と事業主体である東武鉄道の猪森信二専務は落ち着いた様子でそう語る。慎重に立てた開業前の3カ年計画で2014年度の来場者見込みは430万人。それに比べれば実績は悪くないからだ。しかし悠長に構えていられるのだろうか。
■予想外に手ごわかった「強風」
顧客がその場でしか味わえない経験や時間を楽しむ「コト消費」。消費全体がなかなか回復しない中で数少ない成長分野の需要を取り込もうと、首都圏ではマークイズみなとみらいやコレド室町など、ここ数年間に大型集客施設が相次いで誕生した。伊勢丹新宿店などの百貨店もリニューアルでコト消費対応を強化している。スカイツリーは、手をこまぬけば「コト消費の負け組」になりかねないリスクがあるのだ。浮かび上がる課題は3つだ。
「『また強風で営業中止』ではスカイツリーを観光コースに入れにくい」。ある旅行会社はそう指摘する。
スカイツリーは高さ634mと自立式電波塔としては世界一の高さを誇る。展望台と地上を結ぶ高速エレベーターの運行は構造上、強風の影響を受けやすい。安全確保のため、風速やその他の要素を総合的に勘案して営業中止や休止を判断するが、一時的にせよ営業を見合わせたのはこの3年間で83日。年平均で言えば約28日で、12カ月のうち1カ月弱もの機会損失が発生している計算になる。
楽しみにしていたパノラマ展望が果たせなかった来場者の落胆は想像に難くない。スカイツリー側も気象データの収集や分析を通じて危なそうな日に予約の入っている顧客には早めに注意喚起しているというが、2014年度の下方修正の一因は、潜在的な顧客が営業中止リスクを見越して二の足を踏んだことにあるとみられる。「強風による営業中止・休止が頻発しているという『風評被害』を1日でも早く払拭しろ」。強風の影響を緩和しようと、2015年4月から一部エレベーターを目隠しで覆い、ワイヤの強度向上などの改修工事が始まった。全4基あるエレベーターのうち、今年度中にまず2基の改修を順次済ませる。
もっとも改修作業で営業中止・休止の日数がどの程度減るのか、効果は未知数だ。加えて集客の貴重な戦力である4基のエレベーターのうち1基が使えないという事態が起きていることで、繁忙期の混雑に拍車がかかる可能性もある。
■「コト消費」、攻勢かけるライバル
2つ目はリピーター獲得だ。スカイツリーのライバルとも言える老舗の東京タワー(東京都港区)は2015年3月、海外でも人気のアニメ「ワンピース」のテーマパーク「東京ワンピースタワー」を低層階に開業した。さらに4月からは東京タワー展望台の営業終了時刻を従来よりも1時間遅い午後11時に延ばした。音楽ライブや天の川を模したイルミネーションの開催などイベントにも注力。あの手この手の集客策で2014年度には197万人だった東京タワー展望台来客数を、2020年までに250万人に増やす考えだ。コト消費を取り込もうと、大型の集客施設が相次ぎイベントを打ち出したり、施設のリニューアルを進めたりしている。各社が参考にしているのが六本木ヒルズ(東京都港区)だ。
2003年の開業から10年以上たっても、六本木ヒルズはコンスタントに4000万人規模の年間来場者数を維持、東京の新名所の一つに位置付けられるようになった。東京ドーム2個分に相当する約9万3000m2(平方メートル)の敷地にオフィスや飲食店、ホテル、映画館などを併設するが、訪問者が絶えないのはこうしたハードのおかげばかりではない。
森美術館では現代アートを中心とする展覧会を開催。広大な施設内の各所では夏祭りや朝市、映画祭にファッションショー…。イベントを連打して何度でも足を運びたくなる場所にする手法を「タウンマネジメント」と呼ぶが、日本で先駆的に展開したのは六本木ヒルズを運営する森ビルだ。
2015年4月下旬、開業以来初となる展望台などの本格的なリニューアル工事が完成した。タウンマネジメント事業部の家田玲子・担当部長は「設備の魅力を高めるだけでなく、常に新しい体験や話題を消費者に提供しなければ、集客力を維持できない」と話す。
スカイツリーの地上350mにある展望デッキに昇るには、大人の場合、当日入場券が2060円、事前日時指定券だと2570円。地上450mの特別展望デッキ入場には、さらに大人は1030円必要で、合計3090〜3600円がかかる。六本木ヒルズは無料で訪れることができるが、スカイツリーは「気軽には足を運べない」(野村証券の広兼賢治アナリスト)。それだけに人を呼び込む仕掛けはなおさら重要な意味を持つ。
スカイツリーは商業施設の「東京ソラマチ」、プラネタリウム、水族館などが混在する「東京スカイツリータウン」を併設。タウンの運営会社である東武タウンソラマチの木村吉延社長も「他の施設と違いを出すには、様々なイベントを柔軟に展開する必要がある」と語る。今後は人生の節目や記念日の思い出作りの場所としてのスカイツリー、時間帯別に変わる眺望の魅力などを訴え、「一度昇れば十分」との意識の変化を促す戦略も強化するというが、お金を払ってでも何度も来て、昇りたいというファンをどう開拓するか。具体策はこれからだ。
■主戦場の訪日客に課題
日本政府観光局の調べによると2014年度に日本を訪れた外国人は過去最高の1467万人と、2012年度の1.7倍に増加した。政府が成長戦略の一つとして掲げる日本の観光立国化は実を結びつつある。「東京スカイツリータウンを観光立国日本の世界的名所とすることが、私どもの大きな夢」。2012年に開かれた開業記念式典で東武鉄道の根津嘉澄社長はそう語ったが、政府の成長戦略とは異なり、スカイツリーの夢の実現は思うに任せない。東京都が2013年度に実施したインバウンド調査。羽田空港と成田空港で外国人約1万2000人を対象に対面方式で聞き取ったアンケート(複数回答)によると、訪日中に足を運んだ先としてスカイツリーが立地する「墨田・両国」エリアを回答した訪日外国人は7%。東京都内のエリア別順位では16位にとどまった。
新宿は55%、銀座は48%、渋谷は42%。外国人にもなじみのあるこれら繁華街に比べて見劣りするのは仕方がないとして、気になる数字がある。スカイツリーの近隣にある浅草が47%と「墨田・両国」を40ポイントも上回っている点だ。
スカイツリーが2014年度に実施した調査では、入場者全体に占める外国人(個人客)の比率は12%。前年度からほぼ倍増したが、東京タワーの17%よりも低い。「訪日客は旅行のスケジュール上、時間に余裕がない。展望台に昇るための待ち時間を考慮して、あきらめたケースもあっただろう」。スカイツリー運営の東武タワースカイツリーの伊藤正明社長はそう分析するが、外国人向けの情報発信などで対応が後手に回った面は否定できない。
■オリエンタルランドに学べ
「コト消費」でのインバウンド成功例。それは千葉県にある東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランドだ。2014年度の両テーマパークへの入園者数は3138万人と過去最高を更新した。映画「アナと雪の女王」にちなんだパレードなどが奏功した。このうち海外客は157万人で入園者数全体に占める比率は5%にとどまる。一見、比率は小さいように見えるが、年間の訪日外国人の実に10人に1人がやってきている。高品質な接客などはもちろん、効果を上げているのが英語版ホームページを通じた入場チケットの販売だ。外国人が好むクレジットカード決済に対応し、訪日前に購入できる。アトラクションへの投資やブランドだけでなく、こうしたソフトも含めた地道な仕掛けが外国人を呼び込んでいる。
遅ればせながら、スカイツリーが2015年2月に発売したのが「ファストスカイツリーチケット」と銘打った訪日外国人専用の当日券。カウンターで割増料金(通常の当日券よりも760円増し)を払えば、混雑時も一般の列に並ばず優先的に展望台に昇れるチケットだ。整理券を配布するため、混雑時でも行列にずっと並ぶ必要はないが、このチケットがあれば整理券を片手に時間を潰さなくてもよくなる。繁忙日は1500枚、平日でも400枚を販売するなど滑り出しは上々だ。
スカイツリーは開業3周年のキャッチコピーとして「いつかは行く『場所』から今すぐ行きたい『街』へ。そして、何度も行きたくなる『街』へ」を掲げた。待っていても人が押し寄せる時代が終わり、来客増に向けて仕掛けなければならないフェーズに入った東京の新名所は、「コト消費の勝ち組」となれるかの岐路に立っている。
(日経ビジネス 寺井伸太郎)
[日経ビジネス 2015年5月25日号の記事を基に再構成]