個人同士や会社組織のことを「小さな世界」だとすると、地方・国・地域などはかなり大きな世界である。
国とは何か、と問われたら実にいろんなの概念が浮かぶ。
【国(くに)】
一定区域をなす土地を表わす言葉で,現在では,土地,人民,政府をもつ国家のこと。
歴史的には,さまざまの範囲を呼ぶのに用いられた。
国が力を持ち、経済圏を形成して、それが「境界」を作る。
実は自分たち人間は「境界」を通して自分とそれ以外、を考えることができないのではないだろうか。
自分と他人の境界は「アイデンティティ」として当たり前にある。
けれど、実は「他人を通じてしか」自分のことを計れなくなっているように思うのだ。
トランプ氏の政策が物議を醸しているけれど"「まず自国と他国の境界」について、それまでの「よくわからないグローバル化」を一旦ストップして考え直そうよ"というようなメッセージに見える。
「自分が自分以外の」家族とか友人とか仕事仲間とか、ご近所さんとか知らない人とかとも「自分との関わり」を基準にして考える、というのは案外基本的なアプローチなのではないだろうか。
さて、その後は「自分と自分のこれから」との対話にもなってくる。
自分の立場がはっきりすれば、それ以外のことって意外に見えてくるのかもしれない。
トランプ氏の移民制限が転機 「起業の聖地」アジアへ
米国には「H1B」という秘密兵器がある――。日系人の米物理学者ミチオ・カク氏は、こう喝破して、壇上に居並ぶ論客を黙らせた。6年前の公開討論会の席である。H1Bとは、高度な専門技能を身につけた外国人が取得できる入国査証(ビザ)のこと。科学者や技術者などが対象となる。発給枠の8万5千人に対し、2016年は23万3千人が応募した。
「H1Bの制度がなければ、グーグルもシリコンバレーも存在しなかった」。カク氏の両親は第2次大戦期に日系人収容所で暮らしたという。移民こそが米国の競争力を支えているという主張には説得力がある。
トランプ政権の移民制限が、米国のハイテク業界を揺るがせている。世界から頭脳を吸い寄せる力で、米国ひとり勝ちの時代が終わる予兆かもしれない。だとすれば、人材はシリコンバレーからどこへ向かうのか。
米国への技術者の移住が多い隣国のカナダ西海岸は有力な候補だろう。だが、そもそもH1Bの取得者は、インドと中国をはじめアジア出身者が8割を占める。米国が門戸を閉ざせば、地元に回帰する流れが自然に生まれるはずだ。21世紀の起業の聖地は、アジアに誕生するのではないか。
アジア太平洋の小売業の業績グラフをみると、その可能性がより現実味を帯びてくる。2030年までに推定24億人に膨らむ中間層を擁し、アジアは北米や欧州連合(EU)をしのぐ巨大な消費市場に変貌しつつある。
ところが、旺盛に伸びる販売とは裏腹に、流通在庫も増え、業界全体で収益は低下の一途。企業の側の生産性が追いつかず、爆発的に増える商品流通を上手にさばけないでいるからだ。
「デジタル技術と小売業が融合し、業態進化が劇的に進んでいる」。コンサルタント大手IDCのマイク・ガーセミ調査部長によれば、消費革命で、アジア域内のIT(情報技術)の人材需要が急騰しているという。
たとえばシンガポールでは、百貨店の老舗が次々と看板を下ろす光景を目にする。あらゆる商品の調達から販売までを、自ら手がける業態は滅びつつある。
生き残りをかけ経営者は知恵を絞る。テナント出店する業者の配送、経理、販促を請け負い、舞台裏からネット上でサービスを提供する黒子の物流業へ。あるいは買い物客の電子決済を基に、ビッグデータを握る金融会社へと姿を変えていく。
IT技術者や起業家、投資家が群生し、ノーネクタイでひざをつき合わせてカフェで話し込む姿を、シンガポールや深圳などの都市で見かけるようになった。米西海岸ではおなじみの光景だ。
昨年2月の旧正月、シリコンバレーを訪れたリー・シェンロン首相は、H1Bビザで働く若者を集めて呼びかけた。「いずれ母国に帰って来てほしい。その日に備えて挑戦と興奮に満ちた国を築いておくから……」
その予言の日は意外と早く来るかもしれない。第2のシリコンバレー候補として、日本の都市の名は聞こえてこない。
(編集委員 太田泰彦)