藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

悪い話を進んで聞く

*[次の世代に]警告するカサンドラを。
FTより。
日本でも欧米でも「隠蔽」をめぐるスキャンダルは日々事欠かない。
不正や犯罪を見つけた時に「告発するか、黙認するか」は大きな違いだが、黙認して問題がそのまま解決することはほとんどない。
だから「悪い話」こそトップに伝わるような配慮がとても重要だと思う。
簡単なことだけれど、つまり「犯人を吊るし上げない」「告発者を暴かない」「そもそもの原因を考える」というような基本的なことができていれば、それほど組織は腐らないものだ。
だが記事にあるように、人は「よくない報告を持ってきた人に好印象を持たない」側面もあるという。
だから「よくない話をする部下」はことさらに大事にしなければならないということでもあるだろう。
また気をつけたいのは「あいつ、リーダーに逆らってますゼ」とばかりに「他人を貶めて自分のポジションを上げようとするタイプ」の人である。
 
つまり、よくない話を聞いた時には「冷静に歓迎する」ということが必要なのだと思う。
 
[FT]誰が悪い話を上司に伝えるか
 

Financial Times

職場で何か問題に気づいたら、責任者に連絡しようとするだろうか、それとも黙っておこうとするだろうか。

 
ブラックストーンのシュワルツマン氏はある出来事をきっかけに、投資を決める際には好ましくない情報もすべて出してもらい、全員で徹底的に議論するようにしたという=ロイター
このような問いが頭に浮かんだのは、シェアオフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーで9月下旬、9年前に事業を立ち上げた創業者の一人であるアダム・ニューマン氏が最高経営責任者(CEO)の座を追われたからだった。
 
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはその1週間前、ニューマン氏が昨年夏に自家用ジェットでイスラエルへ行った際の出来事を取り上げていた。飛行機が目的地に到着し、ニューマン氏が友人らと連れ立って降りた後、帰りのフライト用に置かれたシリアルの箱の中に「かなりの量」のマリフアナが詰め込まれているのを乗務員が発見したという。ジェット機のオーナーが動揺し、機材を引き返させたことから、ニューマン氏はニューヨークへ帰る方法を別に探さなければならなくなった。
 
つまり、その乗務員は沈黙しなかった。職場で悪い知らせを受け取った人間が反射的にどのような対応に出てしまうかを考えれば、勇気ある決断だったといえるかもしれない。われわれは大概、凶報の伝達者を責めるものだ。
 
この残念な傾向に関する比較的新しい研究として、現金2ドル(約220円)が当たる可能性があると被験者に説明した上で、当落結果を知らせる実験が行われた。外れた人は当たった人より、結果を伝えただけの人のことが「かなり」嫌いだと回答した。架空の空港カウンター職員が搭乗時間について予定通りか2時間遅れになるかを伝える別の実験でも、結果は同じだった。
 

がんを伝えた医師への好感度は低い

この研究論文の著者が米誌ハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した通り、結果はハロー効果(光背効果)とは関係がないようだ。ハロー効果であれば、悪いニュースを知らされて気分を害すと、誰でも近くにいる人に当たり散らしたくなる。さらに調査を重ねることで、嫌悪感を抱くのは悪い知らせを持ち込んだ人に対してであり、たまたま周囲にいる人ではないことが示された。
 
この結果は特に、悪い知らせでも患者に伝えざるを得ない医師にとっては心穏やかではいられないものだ。皮膚生検でがんが見つかったと言われた被験者グループでは、問題なしの場合の被験者グループに比べ、結果を伝えた医師への好感度が著しく低かった。しかも前者では、がんが見つかることを医師がかなり望んでいたようだと発言する確率も高かった。
 
哀れな伝達者を責めたくなる衝動は我々の中に深く根付いているため、論文の著者によると対処法は2つしかない。悪い知らせの本題に入る前に、相手の立場を思いやるからこその報告だと伝えること、もしくは伝達役を他の人に任せることだ。
 
筆者には、過去に職場で悪い知らせを上司に伝えたところ、逆に上司に食ってかかられた知り合いが何人かいる。彼らにいずれかの対処法が役に立ったとは思えない。とはいえ(過去に発生した問題より)進行中の問題を上司が認識する方がずっと好ましいことを理解するのに、会社経営の達人である必要はない。
 
インテルの会長兼CEOを務めた故アンディ・グローブ氏は、さまざまな企業のトップに対し、たとえ比較的低い地位の社員であっても業界の変化を早期に警告する「カサンドラギリシャ神話に出てくる予言者)」を社内に養成するよう、よくアドバイスした。
 

1人に独断で承認させない

投資ファンド大手ブラックストーン・グループの共同創業者であるスティーブン・シュワルツマン会長兼CEOも、最近出版した回想録「必要なこと――卓越の追求から学んだ教訓」(邦訳未刊)の中で、悪い知らせを受け取ることの重要性を示唆する逸話を紹介している。1989年のこと、社内の若手パートナーが米東部ペンシルベニア州フィラデルフィアにある鉄鋼会社の買収を強力に主張した。年長のパートナーは大失敗すると警告したものの話はそのまま進み、買収は成立する。ところが鋼材価格の低下でその会社は大赤字を出した。シュワルツマン氏はある投資家のニューヨークのオフィスに呼び出され、激しい叱責を受けた。
 
「彼は私に座るよう促してから、こちらに向かって『お前は全くの無能か、単なるばかか』と叫び始めた」。延々とまくし立てられ、「私は泣きそうになるのをこらえなければならなかった」と言う。
 
シュワルツマン氏はこの経験を踏まえて社内の意思決定方法を見直し、誰か1人が独断で取引を承認することがないようにした。新たな投資案件は大人数の会議で徹底的に議論する。全員で隠れたリスクを精査し、出てきた質問には提案者に必ず答えさせるのだ。
 
さらにシュワルツマン氏は、表だって声は上げなかったものの鉄鋼会社の買収に反対したアナリストが少なくとも1人いたことを後で知り、地位のあまり高くない社員とも直接、対話する決意を固めた。
 
こうした教訓を生かすことができるのは、米金融大手ばかりではない。既に教訓を得た上司の下で働いているなら、それは運が良い。
 
By Pilita Clark
 
(2019年9月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/