藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

つなプロクラウド。

富士通NPOが被災地支援で頑張っている。
以前、SNSで顔の見える支援をできないか、と書いたことがあるけれど、まったくイメージ通りの試みで、これからの「ニーズと支援と物流」のモデルになるのではないかと思う。


この度の震災でも、津波の大きさとか、被災者や犠牲者の数とか、避難所の場所やサイズとか、色んな情報がネットでは飛び交った。
けれど、そういった情報はまさにバーチャルな感じで飛び交っており、「地に足のついた」定点的なものではなかった。
だから援助を、と思い古着を贈っても余ってしまったり、一番必要な下着が足りない、などさまざまな「情報の齟齬」を生んでいる。


これはネットや皮相的な報道で、「細やかさ」のないデータに基づいてアナログの支援を行おうとした結果である。
また同様にモノではなくお金を募金する、というのはモノよりは汎用的だが、やはりそれも「配布するルールと仕組み」が間に合わず、募金したお金も滞留しているという。
日経の記事にも出ているが、こうした場合、インターネットやデータベースをうまく活用すると、とんでもなく便利になるのだが、もう五十年も変わらないシステム開発の基本原理が抑えられているかどうか、がシステムやプロジェクトの成否を握っている。
それは「現場への到達度」である。

ヒアリング担当者が避難所をくまなく回り、被災者の健康状態や必要とされている食料、物資、ケアを、避難所管理者に聞いてシステムに入力。物資の配布やボランティアを派遣する部隊はこれを見て、きめ細かい支援プログラムを策定。特殊なスキルを持つNPOなどの支援団体を割り当て、現地に最適な人材や物資を届けるという仕組みだ。

システムは重要だけれど、それは魂の入っていない「箱」のようなもの。
人間が介在し、皮相的でない「本当に必要な情報」を吸い上げてこそ、それ以降のプロセスは狂いなく動くことが可能である。
結果的に失敗したシステム開発、というのはこの要件定義が甘い場合が多い。
「つなプロ」のシステムはまだ千件程度のトランザクションのようだが、現地NPOなどの活動の経験をマニュアル化し、またリアルな物流と連携することによって、これからの「支援情報・物流のロールモデル」となることが可能だと思われる。

富士通という上場メーカーの中にあり、no profitという逆風の中で企画を立ち上げた社員と、またそれへの予算計上を決断した副社長の英断である。

自分は、さらにこのプラットフォームは天災や事故の有事ばかりでなく、一般の貧困国支援や里親制度などへも応用できると思っている。
ぜひこのまま進化してもらいたい。

被災地の「声」を拾うクラウド 奮闘するエンジニアたち
東日本大震災発生から2カ月。避難所で暮らす被災者は現時点で12万人規模に達し、日本の1000人に1人に相当する人々が不自由な生活を余儀なくされている。食物アレルギーや難病患者、高齢者、外国人も多く含まれ、必要とする特別な「ニーズ」と、供給される物資やケアなどのミスマッチが深刻な問題になっている。これを解決するため、非営利団体富士通が立ち上げたクラウドシステムが動き始めた。


■避難所の「生の声」を拾い上げる
4月22日、宮城県登米市。市街地から車で30分ほどの小高い丘の谷間に香林寺はあった。夜の10時近くにもかかわらず、若者15人が集まり車座で話し込んでいる。真ん中に座る池上貴之さん(25)の声が響く。「とにかく避難所のニーズを細かく聞いてよ。管理者が『分からない』と言っても、引き下がらないで。データベースを空白にしないようにね」――。

池上さんは「つなプロクラウド」を使って、特別なケアが必要な被災者のニーズと、支援者のマッチング(需要と供給の調整)を担当する主要メンバーだ。せっかくの支援も、被災者のニーズに合わなければ無駄になる。必要な支援を適切な相手に届けるためには、被災者の実情を現場で聞き出すことが欠かせない。だからこそ池上さんは、ヒアリング担当者へのアドバイスに力を込める。

「つなプロ」の正式名称は「被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト」。複数の非営利組織(NPO)と日本財団などが連携して、「災害関連死」を防ぐことを目的に設立された。


阪神大震災の死者6436人のうち、避難所などで必要なケアを受けられずに亡くなった「災害関連死」はおよそ900人と言われている。東日本大震災でも同様の問題は起きており、高齢者や外国人、難病患者など細かな支援を必要とする人々への対応が急務となっている。「つなプロクラウド」は、こうした課題を解決する狙いで作られた。


ヒアリング担当者が避難所をくまなく回り、被災者の健康状態や必要とされている食料、物資、ケアを、避難所管理者に聞いてシステムに入力。物資の配布やボランティアを派遣する部隊はこれを見て、きめ細かい支援プログラムを策定。特殊なスキルを持つNPOなどの支援団体を割り当て、現地に最適な人材や物資を届けるという仕組みだ。

システム構築は、富士通の社員が全面的にサポート。「注意欠陥多動性障害ADHD)らしき子供に臨床心理士を派遣したら自閉症と判明し、より適切なケアができた」「避難所で数週間働きづめで体調を崩した看護師の交代要員を派遣、避難所の看護師不在を免れた」――。こんな実績が出始めている。「要望を言うとすぐに富士通のエンジニアがシステムを改良してくれた。分析プログラムや項目抽出機能は、効率的なマッチングに役立った」と池上さんは語る。
「マッチング」の仕組み作りは簡単そうでいて実は難しい。被災地など情報が入りにくい環境ではなおさらだ。ニーズの集約、物資の調達、ボランティアや医療スタッフの確保、人と物の配布といった機能が分断されているためだ。だからこそ情報を一元管理でき、短期間、低コストで稼働できるクラウドが一役買ったことになる。


■被災者支援にエンジニアの立場でかかわる

東日本大震災では多くのIT(情報技術)企業が地震津波計画停電の影響を受けた。富士通も3月14日には6拠点の操業停止を発表。2010年度連結決算では「災害による特別損失」として116億円を計上した。


そんな富士通社内で震災翌日の3月12日に、「被災地での支援にクラウドを活用した専任チームを作りたい」と役員に企画書を出したエンジニアがいた。CRMソリューション推進室担当課長の生川慎二さん(41)だ。

生川さんはクラウド技術を使い、「鳥インフルエンザ防疫対策支援システム」や「口蹄疫復興支援システム」など緊急性が高いシステムを構築した経験があった。「震災時にこそ短期間で柔軟性のあるシステムが組めるクラウドの技術が生かせる」と直感。ボランティア活動での「マッチング」を念頭に置いたシステムの構築を進言した。


生川さんの呼びかけで社内メンバーが集結。各人が本来の業務を抱えながら、状況把握や社内説明の作業を始めた。「5月8日までに作った資料はのべ300枚以上。プロジェクト発足から3週間はほぼ毎日、状況を報告した」(生川さん)。調べれば調べるほど、被災地の混乱した様子が浮かび上がってきた。


「国や県、市町村の担当者らは、目の前の業務に忙殺され、分散している避難所の支援にまで手が回っていない」。現地で被災者を救うため動き始めていた『つなプロ』の活動に、自身のシステムエンジニアとしての経験を組み合わせれば、役に立つマッチングの仕組みが構築できると生川さんは考えた。


富士通の顧客の大半は大企業や官公庁。社内からは「NPOと組んで何のメリットがあるのか」「思想や政治的背景は大丈夫なのか」などの声が上がった。こうした逆風を突破するカギは、「今回の支援が将来のビジネスにつながるということを証明すること」だったと生川さんは言う。「例えば、津波被害で自治体の機能がどの程度混乱するのか、消防法で指定された避難所は役に立ったのか、といったことが見えてきた。こうした情報は、富士通自治体に新防災システムを提案するときに必ず役立つと社内を説得した」。

そして3月17日に社長、副社長の了解を取り付け、数億円規模の活動費を確保。「災害支援特別チーム」として正式に活動を始めた。当初のメンバーは25人で、東京本社に加え東北の関連会社の社員も参画。CRMateの導入費用や運営コスト、「つなプロ」を使うために必要なパソコン、データ通信カードなどの予算も獲得した。
「とにかく現地に足を運び、問題が発生している背景や因果関係をつなプロメンバーと共有した。その情報は非常に説得力があった。テレビや新聞から得た情報をベースに社内で提案をしても相手にされなかっただろう」(生川さん)。


つなプロメンバーを交えた作業開始から、約10日間でシステムの稼働にこぎ着けた。このスピードはクラウドならでは。「サーバーの立ち上げなどから始めていたら、半年はかかっただろう。ネット接続さえできればどこからでも開発作業に加われるので、時には名古屋のメンバーに遠隔サポートしてもらった」(同)。

3月28日のシステム稼働から4月末までに、つなプロクラウドにはメンバーが足で集めた443件の避難所情報と、966件のニーズ情報が蓄積された。現在は宮城県に限定した活動だが、活動領域が広がってデータ量が増えた場合も、容易にサーバー容量を増設できる。アクセスするユーザーの権限管理も自由自在。どちらもクラウド技術の大きなメリットだ。


■いずれは管理を地元に任せたい

現在のつなプロクラウドでは、被災者と支援者とのマッチングは人手で行っている。支援者がパソコンからログインし、自分で避難所情報などを検索しなければならない。こうした手間と時間を省くため、SNS(交流サイト)を使って自動化する試みに着手している。「つなプロコミュニティ」と呼ぶもので、富士通の社内組織向けSNSサービス「知創空間(ちそうくうかん)」を応用した。携帯電話からもアクセスして情報を得られるサービスで、5月6日にユーザーIDの発行を始めた。


この仕組みでは、「ニーズ投稿者」「支援者」それぞれが直接、情報を入力・検索することができる。「マッチング担当者」が介在しなくて済むのだ。例えば、「石巻市の避難所で、アレルギー乳児用の大豆ミルクが欲しい」といったニーズを、つなプロメンバーが掲示板に投稿。これを見た支援者が対応の申し出を投稿し、解決に向けた情報交換や対応の経緯などを書き込む。対応が完了した後は、「●月▲日に大豆ミルク缶を手配、●日に到着予定」といった報告も書き込める
当初のニーズ投稿者はつなプロメンバーだが、「後々は避難所の管理者にパソコンや携帯電話の使い方を学んでもらい、リアルタイムに『必要なもの』を投稿できるようにするのが理想」(生川さん)。SNSが被災者と支援団体とのホットラインとなり、掲示板の書き込みログを見れば、新しく支援活動に参加するNPOも円滑に作業を始められる。「SNSがうまく機能し始めれば、つなプロのメンバーがいなくても、避難所コミュニティの管理を地元の人に任せられる。これが真の復興につながっていくと思う」(同)。


■企業が「復興支援」で生み出す価値

NPO側にとっても、生川さんのような大手IT企業のエンジニアが加わる意味は大きい。つなプロメンバーとしてシステム開発に携わった河野良雄さん(37)は「最初は私1人でマッチングのシステムを構築しようと考えた。富士通のチームなしでは3月中に避難所のニーズの把握を始めることは不可能だった。マンパワーを提供してくれたことに感謝したい」と振り返る。


自らのスキルを被災地支援に生かしたいと考えるエンジニアは多いだろう。しかし「社内の稟議(りんぎ)を通らない」と嘆く声も聞こえてくる。


「企業活動として被災地支援に取り組む際に、自社にとってどんなメリットがあるのか、デメリットをどう払拭できるのかを示す努力が欠かせない。そして理解のある上司を探して企画を通す。プロのエンジニアだからこそできる支援活動が、現地にはたくさんある」(生川さん)。


生川さんは社内を根気強く説得し、予算やチーム、社内物資を調達して現地に乗り込んだ。企業が蓄積してきたノウハウを縦横に活用し、NPOなどと組むことで、スピード感のある支援につなげた好例だ。義援金や募金、物資提供、ボランティア――。支援の形は様々だ。しかし企業人だからこそ、被災した人々や自治体の早期復興に役立つ価値を提供できることもある。

(電子報道部 富谷瑠美)