藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

顧客の心をつかむ。

*[次の世代に]営業の真髄。
キーエンスという会社の利益率が高く、もう何十年も「利益率トップ企業」であることは知っていたけれど。
その強さの秘密は「どうせ高い、唯一無二の技術力でしょ」と思っていたら、そういうことではないらしい。
自分たち一般企業の人間は、つい成功者の話を「その経営者に特有なもの」という風に曲解する。
いわゆる「引かれ者の小唄」だ。
負け惜しみである。
こういうのが一番しょうもない。
他社のいいところは素直に見ないと。
要は「顧客に合わせたきめ細かな提案」という普遍的な要素が同社の秘密らしい。
だから強いのだろう。
「機器販売なら1案件当たり1000万円でも、システムとして販売すれば数千万円になる」。
膨大な種類の中から適切な機器を選定し、ソフトと組み合わせてシステムとして構築するのは専門性の高い仕事だ。
顧客の現場ニーズを的確に捉えたシステムを納入し、高い利益率を維持し続ける。
原動力は足で稼いだ顧客データだ。
キーマン情報や現場の悩みを数十年かけて蓄積し、それを基に営業と製品開発の戦略を絶えず更新する。
営業面では「顧客への電話は週に何回が最も商談に結びつきやすいか」といったデータを製品分野ごとに毎週集計し、妥協せず無駄を省く。
飛び込みなど非効率な営業は決してしない。
製品開発で重視するのもデータだ。
開発担当者のもとには毎月、全世界の営業マンが顧客の工場に足しげく通って作成した「ニーズカード」が大量に届く。
「機器サイズを今の半分に」「ペットボトルの不良を検知できるカメラが欲しい」など、営業マンがヒアリングした顧客の悩みを詳細に記載。
開発担当者は膨大なデータを基に「まだ世の中にない機能」をキーワードに開発を進める。
これが顧客の心をつかむ。
ある中国企業は「他社がカタログベースの説明に終始するなか、キーエンスだけはニーズを捉えた提案を自らしてくる」と評価する。
営業の真髄とはこういうことなのだろう。
派手なことなどまるでない。
けれど積み重ねが、結果品質で「唯一無二」を生む。
真理は不変なのに、それに近づくのはとっても難しい。
 

平均年収2088万円 キーエンス、7期連続最高益の秘密

成長を続ける企業の条件は、いつの時代も変わらない。独自の強みを見つめ直し、徹底的に磨き続けることだ。その代表格が、工場の自動化に不可欠なセンサー機器を手掛けるキーエンスだ。多くのメーカーが相次ぎ下方修正に追い込まれた中で、2019年3月期に7期連続で最高益を更新した。同社の高収益の秘密を解剖する。
従業員の平均年収は2088万円(18年3月期)――。キーエンスは給与でも上場企業の平均値の3倍超と屈指の高さを誇る。その分、仕事はハードだ。
営業担当者の成績ランキングは常に社内で公表され、一定以下の順位にとどまると個別面談を受けることもある。「営業車には全地球測位システムGPS)が付いており、予定時間と結果が10分ずれた際、上司に理由を問いただされた」(地方の営業担当者)。労務管理はきわめて厳しい。
だが実態は、根性頼みのモーレツ営業とは全く異なる。緻密な分析を基にした「データ営業」こそが同社の特徴だ。
キーエンスの主力は工場のファクトリーオートメーション(FA)機器の制御に使うセンサー機器だ。圧力などを検出するセンサーや正確な寸法を測定する計測器、製品表面を詳細に観察するマイクロスコープなど多岐にわたる。他社の追随を許さない独自技術は持たないが、競合と比べて利ざやが大きい。19年3月期の売上高原価率は18%と、59%のオムロンを大きく下回る。
前述の地方営業担当者はこう説明する。「機器販売なら1案件当たり1000万円でも、システムとして販売すれば数千万円になる」。膨大な種類の中から適切な機器を選定し、ソフトと組み合わせてシステムとして構築するのは専門性の高い仕事だ。顧客の現場ニーズを的確に捉えたシステムを納入し、高い利益率を維持し続ける。
原動力は足で稼いだ顧客データだ。キーマン情報や現場の悩みを数十年かけて蓄積し、それを基に営業と製品開発の戦略を絶えず更新する。
営業面では「顧客への電話は週に何回が最も商談に結びつきやすいか」といったデータを製品分野ごとに毎週集計し、妥協せず無駄を省く。飛び込みなど非効率な営業は決してしない。
製品開発で重視するのもデータだ。開発担当者のもとには毎月、全世界の営業マンが顧客の工場に足しげく通って作成した「ニーズカード」が大量に届く。「機器サイズを今の半分に」「ペットボトルの不良を検知できるカメラが欲しい」など、営業マンがヒアリングした顧客の悩みを詳細に記載。開発担当者は膨大なデータを基に「まだ世の中にない機能」をキーワードに開発を進める。
これが顧客の心をつかむ。ある中国企業は「他社がカタログベースの説明に終始するなか、キーエンスだけはニーズを捉えた提案を自らしてくる」と評価する。
だが実は、営業担当者と開発担当者はほとんど顔を合わせない。資料の提示のみで新製品の説明を済ませるケースが大半だ。社内会議の時間すら惜しむのは、他社が同様の製品を出すまでに一つでも多く売るため。縦割りを徹底し、「新製品を高速サイクルで作り続ける」と、本社勤務の社員は話す。
高速サイクルの背景にあるのが、1974年の設立時から一貫するファブレス経営だ。生産委託先との取引は現金決済を採用する一方で「キーエンス向けの製品が大半を占めるようにして、仕入れ値も品質もしっかりとコントロールする」(別の営業担当者)。
故障などトラブルがあれば部品を即日配送する仕組みも好評だ。キーエンスが大量の在庫をあえて抱える格好だが、「顧客の大半はいざというときの納入スピードを重視する。キーエンスの機器が多少高くても気にしない」(同)。
19年3月期の海外売上高は11%増え、全体の53%を占めた。直販体制を生かして中小規模の案件も積極的に受注したことで、FA関連の競合が振るわなかった中国市場でも増収増益だった。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希シニアアナリストは「キーエンスの海外販売先は約8割がローカル企業とみられ、競合は限られる」と分析する。
中国などでは中小企業の自動化が始まったばかりで、センサーを売り込む余地が多く残されている。単なる機器売りではなくシステム販売で高い利益を稼ぐには、顧客のニーズを深掘りし続ける必要がある。今後も成長を続けるには海外での人材確保と営業強化が欠かせない。
勤続平均12.2年、引き留め策課題
キーエンス時価総額は10年前と比べて約9倍に伸び、8兆4000億円前後で推移する。既にソニーを抜き国内4位で、3位のNTTに迫る。
けん引したのが10年に社長に就任した山本晃則氏だ。4月24日の決算会見では、発表予定時間の午後4時ちょうどに登場。懸案の中国経済について「これ以上下がるという印象はない」と淡々と述べ、指定の20分後にはきっかり会見を終えた。
緻密さを武器に快進撃を続けるキーエンスだが、有価証券報告書には気になる数字が載っている。従業員の平均年齢は35.9歳と若く、勤続年数は12.2年とオムロンより約5年短い。キーエンスの強みは、足で発掘したデータと新製品の高速開発に不可欠な人材だ。ある役員は「成長に伴い新卒採用を大幅に増やし、従業員数が増えているのが理由だ」と話すが、「開発部門で辞める人はあまり聞かないが、営業部門は比較的多い」と元営業マンは明かす。人材の入れ替わりが激しいこともうかがえる。優秀な人材の引き留め策も焦点になりそうだ。
工場の自動化ニーズは年々高まり、センサーを巡る競争は激化している。前述の本社勤務の社員は「オンリーワンの新製品を出し続けなければすぐに安値競争に陥ってしまう」と懸念する。世界景気が冷え込み、企業の設備投資意欲が減退すればキーエンスも無傷ではいられない。成長を続けるには、数十年かけて作り上げた高速サイクルを回し続ける必要がある。
千葉大史)