藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

人の悩みを分かる力。

「世の中、自分にとっての最大の悩みが、自分の最大の悩みである。」

高校生の時、悩みに応える相談のコラムで見て以来、忘れられない言葉。
相談の主旨は「親指にある”薄い痣”の存在を儚(はかな)んで、自死してしまった女子高生」についてのことだった。
傍から見れば「なんと小さなことに悩んでいるのか」と思えるが、当人にとっては自らの命よりも重いことだったのである。
これに答えたカウンセラーの言葉が冒頭の一節。
他人からは、なかなか当事者の感じている気持は推し測れないものなのだ、ということを鮮烈に知らされたひと時だった。
それ以来、ゆめゆめ「そんなくらいのことで」とは思わぬようにしている。
当人にとってどれほど深刻化は、当人でなければ分からないのだ。


さて。
60歳を過ぎてアダルトサイトばかり見ているというご主人に、心底ご立腹の女性相談者。
自分などには「むしろ微笑ましいくらいのこと」に思えてしまうが、ご当人はもう進退問題になるくらいの嫌がりようである。
自分の何気ない行動でも、周囲の人に強烈な嫌悪感を与えている、という話はたまに耳にすることでもある。
気をつけて、またそういうことを躊躇なく箴言してくれる友人を持ちたいものだと思う。

アダルトサイト好きな夫
60代主婦。60代の夫は酒もたばこも一切やらない人ですが、何年も前からパソコンでアダルトサイトを見ており、困り果てています。
夫に「あまり見てほしくない」と注意しましたが、返事は「たまには良いだろ」。ショックでした。我慢を重ねてきましたが、その後も、変態ともいえる夫の趣味は続いています。ある夜、部屋をのぞいたら、夫はイヤホンを付けていかがわしい画像を見ていました。私は体が震えてぼう然とし、翌日からは夫の顔を見られず、口もきいていません。
夫に私の胸の内を伝えても、彼は以前と同様に「誰にも迷惑かけてない」と逆切れするだけでしょう。結婚した娘は良き父親だと思っています。父親には違う一面があることを娘に暴露しようかとさえ考えてしまいます。できれば離婚せずに残りの人生を円満に送りたいのですが……。(埼玉・N子)

「酒もたばこもやらない」というのは、良き夫を褒める時によく使われる表現ですが、これにアダルトサイトの趣味が加わると、ぐっと点数が落ちてしまうようで……。ただ、男性というのは幾つになっても、こういう画像は嫌いでないかもしれず、「たまには良いだろ」というのもまあ分かる……あ、これは少々甘すぎました。
いや、ご主人の言葉で大間違いなのは、「誰にも迷惑かけてない」という部分です。あなたに大迷惑かけていることは明らかですから。これに気づかないことこそ大問題です。そう。ご主人はあなたのことが嫌いだからではなく、あなたの苦しみを分かってないからこそ、こういう行動をとるのだと思えます。
これは我慢を重ねている場合ではありません。あなたが「ここまで苦しんでいる」ということを、徹底的に分からせる必要があります。その方策は、一度正面切ってあなたの心情を伝える正攻法しかないでしょう。「やめないなら娘に言う」という脅しをかけるのもありのような気もしますが、むしろ「残りの人生、ともに仲良く暮らしたい」という言葉を添えることの方がご主人の心を動かすためには有効かもしれないと感じられます。
(野村 総一郎・精神科医
(2011年11月7日 読売新聞)