果たして、通貨供給と為替、輸出入との関係などを完全に説明できる人などいるのだろうか。
インフレターゲット、とか自国の通貨安戦略とか、一見「おかしな狙い」と思える話がまかり通っている。
EUの債務引き受けとか、ギリシア、スペイン、イタリアの緊縮財政とか、中央銀行の判断とか、すでに「真の目的は何か」というあたりも明確ではなくなってきている。
一国が「自国内で実現したいこと」と、「国際間でこうありたい(基本的には自国の富裕)」という思惑が犇(ひし)めいて、今の混乱を起こしているのだ。
国債の自国引き受け、も同じことで所詮技術論でしかないと思う。
自分で債権を発行しておいて、自分で引き受けるオナニープレイでは、自国の経済が強くなることはない。
ただし、それで「対外価値」を切り下げれば輸出においては利得がある、というのは道理である。
地産知消、のま反対に経済が伸びているためにこんな議論が出てきたのか、とも思うが(この辺りのルーツはとっても重要なことだろう)、それにしても貿易を伴う国債取引には「通貨政策」は無視できない宿痾のようなものではないかと思う。
22世紀の国際社会があるとすれば、こうした「各国のエゴ・利得・思惑」が一定の土台の上で整理できる世界」なのではないかと思う。
つまり、互いが角突き合わせ、「我が身可愛き」に走っていてはコミュニティは絶対にまとまらないものである。
中東や北朝鮮の外交など、まだまだ"自国ありき"という国は多いが、その枠組みをブレイクスルー出来た時に、次の国際社会が見えてくるのではないだろうか。
今は夢物語でも、そんな時代がきっとくると自分は思っている。
Q.デフレ脱却のため、日本銀行が国債を引き受けて市場にお金を大量供給すればいいという話を聞きました。問題はないの?A.日本では財政法5条で、日銀による国債引き受けを原則禁止しています。
日銀の白川方明(まさあき)総裁は「IMF(国際通貨基金)が中央銀行制度に関する助言を行う際、(国債引き受けは)行ってはならない項目の最上位」と反論しています。
さらに、「中央銀行が国債の引き受けを行っていくと、通貨の発行に歯止めがきかなくなり、様々な問題が生じるという内外の歴史の教訓を踏まえた」とも強調しています。
日本では1932年(昭和7年)、高橋是清蔵相が昭和恐慌からの脱出を目指し、日銀による国債引き受けに踏み切りました。恐慌からは確かに脱出できましたが、その後の際限のない軍事費拡大に道を開き、戦後のハイパーインフレを招いたとされています。
ドイツでは第1次世界大戦(1914〜18年)中、軍事費調達のため、中央銀行が政府短期証券を引き受けた結果、1923年には毎日1.6%物価が上昇するハイパーインフレが起き、パン1個に4280億マルク(大戦戦費の約3倍)の値段がついたそうです。
中央銀行が国債を引き受ければ、市場で売れるかどうかに関係なく、政府は国債を発行できるようになります。通貨の発行に歯止めがきかなくなれば、通貨価値が下がり、ハイパーインフレを招きかねないのです。
このため、日本では財政法5条で日銀による国債引き受けを原則禁止しています。国債引き受けは、欧州ではマーストリヒト条約と欧州中央銀行(ECB)法で、米国でも米連邦準備制度理事会(FRB)と財務省の合意で禁止されている"禁じ手"なのです。
日本では、財政法5条のただし書きで「特別の事由がある場合、国会の議決を経た金額の範囲内」で例外を認めていますが、日銀の保有する国債の借り換えに限られており、通貨発行量が増えないようにしています。
(調査研究本部主任研究員 安部 順一)
(2012年12月7日 読売新聞)