藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

過渡期の電脳。

梅田望夫さんの著書に触発され、現代のプロ棋士の趨勢にはずい分と興味をひかれた。
一つの「知的スポーツ」のような態で、将棋という種技のシンプルだが深く、歴史のある重みに触れた。
現代人のファンの多くも、その格闘性だけではなく、スポーツ風なだけでもなく、歴史の深みのようなものにも魅了されているのだと思う。

そして、コンピュータが進化を止めず、いよいよ「読み手の限界」に迫ってきた。

「一秒間に270メガ(2億7千万回)の読み手を680台のpcで行う」

ヒトの脳はそれほどのイメージ処理ができるのか、ということにも改めて驚かされるが、また機械も、その後を追いかけているのだ。

それにしても思う。
一秒間に2.7億の手先を読む機械と、「一秒間に数手」の人間。
この間に、今さらどれほどの開きがあるのかということを。
機械的に、コンピューターが計算する"億超え"の結果を、人は勘を働かせながら「数手」でこなす。

場当たり的、「総当たり」では億を超えねばならない行為を、人はなぜか瞬間で判断できてしまうのである。

コンピューターが「この奥儀」を極めてくれば、いよいよ人類の脅威だと思うが、今のところ「物量作戦」でしか人には対抗できていない。
本当の進化は、彼らにとってもこれからではないだろうか。

電王戦、高性能PCに立ち向かった棋士の執念
2013/4/20 22:27ニュースソース日本経済新聞 電子版
 5人のプロ棋士と5種のコンピューター将棋ソフトが戦う、第2回電王戦が終わった。1勝3敗1分けと負け越しはしたが、圧倒的な計算能力を誇るコンピューターに生身で立ち向かった棋士たちの執念に、心からの賛辞を贈りたい。
 「自分から投了するつもりは(ありませんでした)……」。第4局をソフト「Puella α」と戦い引き分けた塚田泰明九段は終局直後、込み上げてくる涙を抑えきれず、幾度も言葉に詰まった。立会人を務めた神谷広志七段は「塚田九段とは30年以上の付き合いだが、泣くところは初めて見た」と明かした。
 この将棋、途中までソフトの必勝だった。両者の玉が詰まない形になり、互いの駒数(点数)で勝負を決める展開となったが、点数は一時20点以上が開く大差。飛車角(各5点)2枚分も足りない、普通なら誰もが負けを認める状況だった。対局室の隣室で検討、応援していた棋士たちもさじを投げた。いつ投了するのか。大勢の報道陣は何度もカメラを担ぎ、ペンとノートを手に終局を待った。
 そんな状況でも、塚田九段は死力を尽くして延々と指し続けた。駒数を競う展開をソフトが苦手と知っていたこともあるが、「自分が負けたらチームの負け越しが決まってしまう」(塚田九段)という責任感が、諦めることを許さなかった。ソフトが損な手を重ねる中で塚田九段は少しずつ差を詰め、引き分けに必要な点数をついに確保。誇張なしに“奇跡”という言葉がふさわしい結末だった。
第2回電王戦勝敗表棋 士ソフト第1局○阿部光瑠四段対習甦×第2局×佐藤慎一四段対ponanza○第3局×船江恒平五段対ツツカナ○第4局△塚田泰明九段対Puella α△第5局×三浦弘行八段対GPS将棋○
注:△は引き分け(持将棋
 執念を見せたのは塚田九段だけではない。初戦で見事勝利を挙げた阿部光瑠四段は事前にソフトと本番同様の練習将棋(1回指すと丸一日かかる)を20回ほどもこなして相手の癖をつかみ、そこを突いた。佐藤慎一四段は敗戦後、翌日未明まで体が震えるほどの気持ちで対局に臨み、一時は優位に立った。船江恒平五段も途中までは終始ソフトを上回る正確な読みを発揮してはっきり優勢を確保、時間切迫と疲れさえなければ完勝していただろう。
 「(プロ対ソフトの電王戦は)何年も続いてほしい棋戦。(勝ってチームを引き分けに導くという)役割が果たせなくて申し訳ない」。敗戦直後に言葉を絞り出した三浦弘行八段の、今回の電王戦にかけた思いの強さはいかばかりだったか。
 今回の電王戦は、個人戦としても団体戦としても、初めて現役プロがソフトに敗れた勝負として広く報じられた。歴史的にもそう記録されるのだろうが、今回の電王戦に臨んだ棋士たちの姿も、記憶に残してほしい。
 将棋の読みとは、ある意味で“計算”だ。最終第5局を戦った「GPS将棋」は東大駒場キャンパスの約680台のパソコンを接続して処理能力を増強、1秒間に2億7千万手(局面)も読む。対して人間はプロといえども1秒数手。文字通り、ケタがいくつも違う。陸上競技のオリンピック選手が自動車より速く走れるか。一流の数学者がコンピューターより速く計算できるか。そんな状況にも似たむちゃな戦いに、将棋に人生をかけた5人のプロ棋士は挑んだのである。
 実は、事前の練習将棋でプロ棋士たちはソフトに連戦連敗。多くの棋士や関係者は「1勝もできないのでは……」と不安視していた。対局前、自信をなくした棋士もいた。それでも棋士たちは本番で、圧倒的な計算能力を持つコンピューターと対等に渡りあった。
 第2局、公の場において史上初めて現役プロ棋士を破った「ponanza」の開発者、山本一成氏は終局直後の記者会見で「思いのこもった人間の強さ、偉大さを改めて実感した」と興奮を抑えきれない様子で語った。ゲーム運営会社で働く山本氏は東大将棋部出身のアマ強豪でもある。ソフトの強さも人間の限界も知る山本氏の実感を、多くの人に共有してほしいと思う。
(文化部 柏崎海一郎)