藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

中村紘子さん

才能と成功のこと。

こうした話を聞いていると、芸術家とはいえその言はプロ野球や一流のアスリートの言葉を聞いているようである。

才能だけでは世界の一線には出られない。時代性も含めた幸運がないと、どんな天才も不遇になってしまいます。
98年のチャイコフスキー国際コンクールで1位になったデニス・マツーエフも、私が審査委員長をした97年の浜松国際ピアノコンクールでは本選に進めなかった。
タイミング、潮時が必要なんですね。

よく時の運、という。
勝負事ども言うし、ビジネスでもいう。
周囲の環境にもなじまないと、成功は「必ずやってくるものではない」ということも貴重なエッセンスである。(よくこういう「周囲のこと」を忘れて自分たちは突っ走ることがあるし)

そして結論へ。

 でも、最終的に一番評価が高いのは、個性、つまり「言いたいこと」を持っている人、しかもそれがロマンチックである人ですね。
ピアニストのレパートリーの大部分がロマン派の音楽だからです。

演奏のおもしろさは、超絶技巧という身体能力と、音楽性という情緒のせめぎあう中、細い平均台を渡っていくようなものですから。

「言いたいことを表現できること」と
「ロマンチックである」こと。
演奏の醍醐味は「超絶技巧と(音楽性という)情緒のせめぎ合い。」
そして「細い平均台をゆく」と。

まあそんなだろうとは思いましたけど。ね。
そんな気持ちにたどり着く日は、果たして自分には訪れるのだろうか。
というか無論、他力では訪れないのですが。(つづく)

(人生の贈りもの)中村紘子(69):4

 ――芥川賞作家の庄司薫さんと1974年に結婚しました
 知り合いの新聞記者の方に「最近出た芥川賞受賞作に、紘子さんのことが書いてあるよ」と言われたんです。その「赤頭巾ちゃん気をつけて」を買って読むと、「中村紘子さんみたいな若くて素敵(すてき)な女の先生について(中略)優雅にショパンなど弾きながら暮(くら)そうか」なんて、ひどい書き方で。
 でも、本を開いた時、口をあんぐりあけた変な顔の著者の写真が目に入って、なぜかわからないけれど、「あら、あたしこの人と結婚するわ」と思ったの。その記者さんの紹介で、ホテルに缶詰めになって執筆していた彼に「サインして下さい」って電話したんです。じゃあご飯でもいかがですか、と言われたのが始まりでした。
 ――結婚の決め手は
 ひとつは、私が知らない世界を山のように持っている人だったからでしょうか。私は脳が一番柔軟で吸収できる時期に、ひたすらピアノで過ごしてしまった。学生時代は日本にいなかったので本当に何も知らない。出会った頃、主人の大学時代のお仲間とご一緒して、農学部出身の方に「流派は何ですか?」って聞いちゃった。「能楽部」かと思って。
 ――82年、モスクワのチャイコフスキー国際コンクールの審査員になります。このコンクールで4回、ショパン国際コンクールで5回、審査員を務めました。何か感じましたか
 才能だけでは世界の一線には出られない。時代性も含めた幸運がないと、どんな天才も不遇になってしまいます。98年のチャイコフスキー国際コンクールで1位になったデニス・マツーエフも、私が審査委員長をした97年の浜松国際ピアノコンクールでは本選に進めなかった。タイミング、潮時が必要なんですね。
 ――著書「チャイコフスキー・コンクール」では「1位以外は意味がない」と書いています
 あまりにもコンクールの数が増えて、1位をとっても演奏家になれない人が増えてしまいました。
 ――コンクールによって好まれる演奏家が微妙に違う、とも
 たとえばショパンコンクールショパンの名を冠しているだけに、金髪碧眼(へきがん)、甘いマスクの男の子が喜ばれます。アジア人出場者があまりに増えた反動だと思いますが、ヨーロッパの審査員には白人に1等をとってほしいという潜在的な意識があるようです。あるアメリカのコンクールの審査員をした時、珍しく長身金髪の男性が出場したら、あまりうまくないのにメディアはその人ばかり取り上げる。明らかに実力以上の点数で本選まで進みました。こういう人がうまければいいのに、と祈るような気持ちで聴くんですって。
 でも、最終的に一番評価が高いのは、個性、つまり「言いたいこと」を持っている人、しかもそれがロマンチックである人ですね。ピアニストのレパートリーの大部分がロマン派の音楽だからです。演奏のおもしろさは、超絶技巧という身体能力と、音楽性という情緒のせめぎあう中、細い平均台を渡っていくようなものですから。(聞き手・星野学)