藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

音楽の極み。

(動画はベートーベンですが)
生まれて此の方、生演奏を聴いてこれほどの衝撃を知らない。
マウリツィオ・ポリーニ、齢73歳。
現役最強と言われるその技巧は、ピークを過ぎたという論評も多い。

一言でいえば円熟。
プログラムはショパン前奏曲幻想ポロネーズ、2つのノクターン、3つのマズルカスケルツォ第三番。
後半はドビッシーの前奏曲集第2巻。

ショパンはこんな風に聴きなさい。」さらに
「ロマン派から近代はこんな風になっていますよ。」ということの授業のようだった。

機械的」とまで表現されるテクニックの素晴らしさはもちろんだが、音の柔らかさとか彩りとか、一人のピアニストが数百年の時代を跨いだ演奏を披露するのを目の当たりにした気がする。
聴衆がドビッシーの後に大きな拍手をしたのが印象的だった。

そしてアンコール。
ショパンのバラード第1番が自然に始まり、終章に達して聴衆はほぼ全員がスタンディングオベーション少しトボトボ歩く演奏者の信じられない表現力に「音楽が与える感動」を目の当たりにした。

拙く歩くポリーニが、一旦ピアノの前の椅子に座った途端、それは「ピアノと一体になった彫像」としか見えなかった。

少し前かがみに構えたポリーニのボディラインと、ピアノの天蓋がまるで連なった山のようなシルエットで、演奏中は少しも動かない。
でもそこから出現する音は千変万化、天使の声のようだったのである。