藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ヴィルトウォーゾ。

ずっと前から楽しみにしていた中村紘子さんのコンサート。
燃えるような緋色のドレスで静かに始まる。
バッハのパルティータからベートーベンのワルトシュタインで休憩。
後半はシューベルトチャイコフスキーラフマニノフと続く。
中村さん曰く「音楽に詳しくない人にも楽しめるように」という絶妙の選曲だった。
古典派、ロマン派、近代と音楽史を一気に見渡すようなプログラムのおかげで、数百年の音楽の違いがとてもよく意識できた。


それにしても生で見る中村さんはもう押しも押されもせぬ巨匠の風格。
ここ数年聴いたコンサートでも一番の迫力だった。
そういえば女性のピアニストの公演は初めてだったが、もっとも音量が豊かで、また女性ならではの繊細な表現とかも呆気に取られるようなひと時だった。
ベートーベンソナタのロマンチックな世界から、そのまま水の上を滑るようなシューベルトへ。
二人は師弟であったというのが目に見えるようで、それにしても表現力の豊かなこと。


最後はラフマニノフの鐘。
子供の聴衆も多く、ザワザワしていたホールが水を打ったように静まっていたのは、演奏の迫力の凄みを物語る。
最後に静かに「被災で亡くなった方々にブラームスインテルメッツォを贈ります…」
深い紺色に沈むような演奏の中に芸術家のオーラを見る。
めらめら。


あ、音には「色」が付いていることも初めて意識したひと時だった。