藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

職務発明、論争再び。

二十年前の議論が再燃。
どうしてもこういうトピックは"事件"が起きると話題になる。
本質は何ら変わっていない(と思う)。
個人の発明の報奨と会社の貢献。

一方は「個人あっての発明。これなくして革新なし。」
片や「会社が整える環境あっての発明。インフラなくして成果なし。」

朝日の誌上では、職務発明の重鎮、升永弁護士と成蹊大の紋谷教授がコメントしているが、二十年前と同様一意の結論は出そうにない。
中村教授は実際に自らが体現者となって米国籍を取り、すでに「そちら側の旗手」となっているから「特許法改正に猛反対」とのお立場だけれど、結局特許法の本筋からみて「産業の発展の促進」がなければどちらに寄った制度も片手落ちである。
紋谷教授の提唱するような、

社員が発明の報奨金に不満がある場合は、ドイツやフランスにならって労使紛争を解決する調停制度をつくれば、コストと時間のかかる裁判に頼らずにすみます。

と、ある程度自由に自分の発明を「気軽に査定・仲裁できる環境」を作って細かく実例を積み重ねないと、今のような「やーやーやー。かくなる上はお裁きを!」とばかりにお白州の上に願い出て、弁護士や調査費を莫大に使った「大立回り」をする以外に発明者のフラストレーションは行き場がないのだろう。

日本の経営者だって「優秀な研究者の海外流出」を望んでいる人はおらず、ここに至っても「個人か会社か」の二者択一で今回の議論を終わらせるのはあまりに実りがない。
ぜひとも「発明者専門のADR」などを創設し、日本ならではの「右でもなく左でもないしくみ」を作り上げてもらいたいものである。
これができれば安倍政権の大金星になるに違いない。

社員の発明、誰のもの? 社員から会社へと変える動き

ノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二さんが青色発光ダイオード(LED)の開発に成功したのは会社員のときだった。社員が仕事で発明した特許は今、「社員のもの」だが、政府は「会社のもの」に変えようとしている。社員の発明はいったい誰のものなのか。

     ◇

<議論のポイント>

・国際競争力を高めるには

・高額対価は必要か

・社員の間で不公平を生むか



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 〈特許法の改正論議〉社員が仕事でした発明について、現行特許法は特許を受ける権利を「社員のもの」と定める。企業は勤務規則で発明に見合う対価を社員に支払い、権利を譲り受けている。しかし産業界の批判が強く、政府は「会社のもの」に変える改正法案を早ければこの臨時国会に提出する方針。発明した社員への報奨を企業に義務づける規定も盛り込まれる見通し。



■弁護士・升永英俊さん サラリーマン発明者の夢守れ

 日本は1921(大正10)年から93年間も特許は「サラリーマンのもの」でやってきたのに、それを変えるなんて信じがたい。知的財産活用の時代に逆のことをやろうというのだから。

 恐竜がなぜ滅んだのか知ってますか? 隕石(いんせき)が落ちて地球が寒冷化したことに耐えられなかったという説がいちばん有力ですが、人類は逆に、温暖化で滅びるかもしれない。でも中村さんの発明した青色LEDの消費電力は照明で白熱灯の6分の1しかなく、温室効果ガスを出す火力発電を減らせる。中村さんは、人類の滅亡を防ぐことに貢献するレベルの、とてつもない発明をしたんです。

 ところが、中村さんが勤めていた日亜化学工業が中村さんの発明に払った対価は2万円。一方、中村さんが会社を訴えた裁判で、東京地裁は会社が約1200億円の利益を得ると認定しました。会社は中村さんに給料を払っていたし、3億円の開発装置を与えましたが、それを差し引いても対価が2万円はありえない。

 私は中村さんに言ったんです。「日本の法律では、特許は社員のものだ。会社は発明に見合った対価を払わなければならない」と。東京地裁は会社に200億円の支払いを命じ、その後8億4千万円で和解しましたが、サラリーマン発明者が数億円稼げることを初めて示し、技術者や研究者を勇気づけたと思っています。

 中村さんが裁判を起こせたのは「特許を受ける権利は社員のもの」という法律があったからです。2004年の特許法改正ですでに裁判は起こしにくくなっていますが、特許の権利を社員から会社に移せば、サラリーマンがどんなにとてつもない発明をしても対価を請求する訴訟を起こす根拠はなくなってしまう。

 特許の権利が「会社のもの」になったら、サラリーマン研究者の夢もなくなる。今の制度は、起業する勇気のない研究者や技術者でもチャンスがあるという世界に誇るべきものです。理系の優秀な人は今でも、ベンチャー起業をしやすい米国に渡る人がいる。権利の帰属を会社に移せば、それに拍車をかけることになるでしょう。

 会社の設備を使って発明し、損失も負担しないのに社員の権利だというのはおかしいという人もいるが、会社だって発明せずに社員の発明の生む超過利益の一部を得る。もうけものじゃないですか。

 発明の対価が高すぎるということもありません。ヤンキース田中将大投手の年俸総額は、7年で約160億円。それは、田中投手が多くのファンを集め、関連グッズを売り、莫大(ばくだい)な金を稼ぐからです。中村さんだって発明で膨大な超過利益をもたらしたんだから、一部をあげるべきです。

 製薬業界のようにチームで研究開発するところは、みんなで対価を分け合えばいい。特許による利益の一部を発明者に還元することで社員はさらにやる気になり、それが新たな発明を生み、会社はもっと利益を上げられます。

 大きな富を生む知的財産は、いくら最新設備をそろえても生まれません。人が生み出す発明、なかでも特許による独占の利益を獲得できるような優れた発明が必要です。中村さんのような人を優遇することが日本の国際競争力の強化につながるのに、知的財産の推進を掲げる安倍政権がそれに逆行する動きをしようとしているのは本当に情けない。

 日本が知的財産時代の勝者になるためには、社員の発明を「会社のもの」にしてサラリーマン発明者の夢を奪ってはいけません。



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 42年生まれ。中村修二さんの青色LED裁判など多くの職務発明訴訟の代理人。「一人一票実現国民会議」の共同代表でもある。



■知的財産法学者・紋谷暢男さん 企業の関与大きく権利は当然

 社員が発明した特許を「社員のもの」と定めた特許法の規定は大正時代にできましたが、当時、多くの発明者は個人でした。ところが今は、特許を出願するのは95%以上が会社。チームで発明する時代です。今の制度は著しく会社の国際競争力をそいでいます。

 確かに発明をするのは会社ではなく、人間です。しかし、新しい薬や燃費がよいエンジンをつくるなどの課題の設定は会社が行い、それを解決するための人材配置や設備の購入も会社が関わります。社員は個人の発明者と異なり、会社から給与や賞与、研究費をもらい、企業内のノウハウを自由に活用して、発明をしています。

 また、特許を使った製品は売れて初めて利益を出す。量産化の設計や市場調査、販売促進は、発明者以外の社員がします。数億円の契約を取ってきた営業職の貢献だって大きい。さらに、会社は研究の失敗や製品が売れないリスクを全部負担しています。

 これらを踏まえると、社員が発明した特許は「会社のもの」と考えるのが当然です。私は1966年に法律雑誌の中で法人帰属であるべきだと主張しました。日本の学会では今でも少数意見ですが、外国では現在、常識です。

 英国やフランスは「会社のもの」です。ドイツは「社員のもの(役員除く)」でしたが5年前、会社が不要と判断しない限り、発明から4カ月後に自動的に「会社のもの」になるようにしました。米国は「社員のもの」ですが、対価の定めがなく、契約によっては1ドルももらえません。ドイツや米国も、事実上は「会社のもの」と言ってもよいでしょう。

 日本は発明の対価の面でも、世界とかけ離れています。中村さんの青色LEDは省エネに貢献する重要な発明であり、会社に大きな利益ももたらしました。ただ、会社が設備を与え、補助者を付け、留学をさせ、給料を払いながら研究をさせた以上、東京地裁の200億円の判決は考えられません。

 英国は著しい利益をもたらす発明には相応の補償金を払うように77年に法律をつくりましたが、過去の事例は09年の心臓造影剤の特許の1件だけ。純利益の3%、150万ポンド(約2億6千万円)の支払いでした。私はドイツに研究仲間が多くいますが、「日本の対価は高すぎる。大企業はどこも日本に研究所を置かなくなる」と言われました。青色LED訴訟の和解額8億4千万円も高すぎです。

 これは、「対価」という言葉がもっぱらお金のことを指し示す点に問題があります。今回の法改正で特許を最初から「会社のもの」にし、「対価」ではなく、より幅の広い「報奨」に変えるべきです。報奨金だけでなく、昇進、昇給、表彰、留学、記念品など、様々な形があってよいでしょう。

 最も自由度の高いのは米国のような契約ですが、日本には合わない。いまいる会社の制度が不満だから転職する、という雇用慣行が根付いていないからです。ですから、報奨の義務づけは必要です。ただ、報奨金の金額の水準まで国が示せば、会社の自由度が大きく損なわれるので反対です。

 社員が発明の報奨金に不満がある場合は、ドイツやフランスにならって労使紛争を解決する調停制度をつくれば、コストと時間のかかる裁判に頼らずにすみます。

 社員の発明を「会社のもの」へと抜本改正し、幅広い報奨を認める。それぞれの会社の創意工夫で、研究者や技術者のやる気を最大限引き出すことが国際競争力につながります。(聞き手は西尾邦明)

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 36年生まれ。法学博士。成蹊大学名誉教授。特許法著作権法種苗法など知的財産法の横断的研究や国際比較研究の第一人者。

ノーベル賞級の発明を増やすには 中村修二さん一問一答
ノーベル賞に値する発明を日本で増やしていくには、どうしたらいいのか。研究者への報奨や大学教育のあり方はどう見直すべきなのか。ノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(60)に聞いた。

特許は会社のもの「猛反対」 ノーベル賞中村修二さん
■「米国、優秀な科学者はみな起業」

 ――特許の権利を「会社のもの」にする政府の方針をどう評価しますか。

 「反対というより、猛反対。サラリーマンがかわいそうじゃないですか。(青色LEDめぐる)私の裁判を通じて、(企業の研究者や技術者への待遇が)良くなってきた。それをまた、大企業の言うことをきいて会社の帰属にするのはとんでもないことです」

 ――なぜですか?

 「米国はベンチャー企業の起業が盛ん。科学者であっても、ベンチャーやって、ストックオプション新株予約権)でお金を稼いでいる。優秀な科学者はみな起業する。日本にはベンチャーの『ベ』の字もない。起業しやすいシステムがないことが問題ですね。米国では、ベンチャー企業に大企業の優秀な研究者もくる。ところが日本では、大手企業からベンチャーにはこないのが実情です」

 ――「会社のもの」は経済界が強く求めました。

 「企業の発明者の待遇は良くなってきたのに、ここで法律を変えてしまっては厳しい。起業のシステムをちゃんと整えてからでないと。首相の安倍(晋三)さんは、大企業ばかりを優遇しているように思う」

 ――報酬を払うことは義務づける方針です。

 「報酬を会社が決められるようになっているのは、問題です。会社が決めたら、会社が決めたことに日本の社員は文句を言えない。みな、おとなしいから。社員は会社と対等に話ができないから、会社の好き放題になりかねません」

 ――企業側からは、訴訟を起こされるおそれがあるから国際競争力低下につながるとの指摘もあります。

 「そんなことはない。それがあるから、企業は発明者にかなり良い待遇をしようとする。私の裁判でどんどん良くなっているんです。これがなくなれば、サラリーマン研究者は最悪です。目的達成のための動機付けを取ってしまうわけですから」

■「日本はガラパゴス化

 ――米国の技術者や研究者の報酬は高いのですか。

 「ベンチャーストックオプションです。株ですから、上場したら、何十億、何百億になるんですから。できの悪いのが大手企業に残っている。優秀な人はみんな、スカウトでベンチャーにいくし、自分から進んでベンチャーに行くんですよ」

 ――企業を移るたびに報酬も良くなっていく。

 「米国では、4、5年でどんどん会社を変わります。移動するたびに報酬は良くなりますよ。必ず増える条件で行きますからね」

 ――日本の研究者はお金ではなく知的好奇心でやっているとの調査結果もあります。

 「それ、プロスポーツ選手に聞いてください。ヒットを打った、ホームランいっぱい打った。好奇心だけで野球をやっていますなんて、だれも言いませんよね。米国のサラリーマンもだれも言いません。だから、私は若い人には最低5年以上海外にいなさいと言います」

 ――よく、日本は文系社会だと指摘されていますが。

 「会社では良い仕事したら昇進する。でも昇進して、課長とか部長とかが担う仕事は管理で、文系の仕事です。理系の人は理系の仕事だけをしたいのに、文系にならないと偉くなれない。だから文系社会と言っているんです」

 ――日本と比べて米国の研究環境はいいですか。

 「いいですよ。自由です。責任はもちろんついてきますけどね。非常に自由、何をやっても良いという感じです。米国の工学部の教授だったら、みんなコンサルティングベンチャーをやっている。日本でそういうこと、今はやれって言っているけど、ほとんどできないでしょ? いろんな規制がまだあって」

 ――ベンチャーが日本で広がらないのには、日本の文化の影響もありますか。

 「昔、でっち奉公と言った時代がありました。死ぬまで長く勤めることが正しいような風潮もあった。私は会社を辞めることは悪いと思っていた。そういう洗脳教育を受けているので。ずっと同じ会社に勤めることを、正義のように教えられたんですよ」

 ――ほかに日本へのメッセージはありますか。

 「日本はグローバリゼーションで失敗していますね。携帯電話も日本国内でガラパゴス化している。太陽電池も国内だけです。言葉の問題が大きい。第1言語を英語、第2言語を日本語にするぐらいの大改革をやらないといけない」

■「個性伸ばす教育を」

 ――独創的な研究を生むには何が必要ですか。

 「私も、日亜化学でできたというのは、入って十数年は良いベンチャー企業だったから。創業者がお金を出し、一切干渉しないという理想の環境だった。大手企業では発明はまずできない。個人で自由にできるから独創的な発明ができる」

 ――今どのような研究に取り組んでいますか。

 「製品化されたLEDは、投入電力に対して光として出力する効率が50〜60%。これをなるべく100%に近づける研究をしています。装置の構造を変えるなどに取り組んでいる」

 ――開発から受賞まで約20年かかりました。

 「過去のノーベル物理学賞の対象はほとんどが理論。物づくりは少ない。今年もらえなかったら、ほとんどないに等しい。そういう意味では今年は可能性があると思っていました」

 ――なぜ米国籍を取られたのですか。

 「米国の大学教授の仕事は研究費を集めること。私のところは年間1億円くらいかかる。その研究費の半分は軍から来る。軍の研究費は機密だから米国人でないともらえない。米国で教授として生きるなら、国籍を得ないといけない」

 ――初等教育はどう変えれば良いですか。

 「小さいときから、何が好きかを見て、個性を伸ばすべきです。でないと、発明でもビジネスでもリーダーシップを取れません」

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 〈中村修二氏と特許法〉 中村氏は2001年、青色LEDの発明に対する対価を求め、日亜化学工業を提訴。一審で日亜側に200億円の支払いが命じられ、企業に衝撃を与えた。これを契機に、同様の訴訟が相次ぎ、企業が社員の発明への報奨を見直したり、産業界が特許法改正を求めたりすることになった。



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 〈ノーベル物理学賞と青色LED〉 中村氏は、赤崎勇・名城大教授、天野浩・名古屋大教授とともに今年のノーベル物理学賞の受賞が決まった。授賞理由は「明るく省エネルギーな白色光源を可能にした効率的な青色LEDの発明」。青色LEDの開発、実用化で光の三原色がそろう道筋がつき、LEDの爆発的な普及につながった。