藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

一周回って。

複式簿記イスラム商人が発明しゲーテが広めたという。
確かに広く「会社というもの」を定性的に見る上では画期的なシステムだという気がする。

大学の授業でもまず「企業の要素は「土地」「物」「金」である」などと習った。

もう一つは企業の盛衰は社員次第ということだろう。企業価値の向上とよくいうが、それを担うのは社員だ。ところが、会社の健康状態や競争力を表す貸借対照表(バランスシート)は設備、建物、特許権といった有形無形のモノ(資産)とカネ(負債)で成り立ち、ヒトは物差しの外にいる。

「ヒトは物差しの外にいる」という衝撃の事実。
ていうか、今の目盛りがそうなだけで、騒ぐこともないけれど。

ここ数十年は「ヒトと機械ができること」が一つのテーマだったと思うが、これからはコンピュータが発達しますます「ヒトだけができること」が問われるのに違いない。

記事中にある(地味だが)、ATTが危機にあって、従業員の教育に腐心して蘇った、という話はとても印象深い。
欧米企業も、そして何より日本企業が今一度「社員の力」を考える時期なのだと思う。

やっぱりヒトのポテンシャル、が一番すごそうだ。

ヒト再創造で「断絶」越える(Deep Insight) 本社コメンテーター 中山淳史

 「フラット化する世界」などの著作で知られる米コラムニスト、トーマス・フリードマン氏。近著の「Thank you for being late(遅刻してくれてありがとう)」はこの秋に日本語翻訳版が出る。そこで取り上げているテーマは、人工知能(AI)などdisruptive(破壊的)と呼ばれる技術がもたらす経済や社会の変化だ。

 約束に「遅刻した」のは取材先である。何がありがたかったかといえば、フリードマン氏はホテルのロビーで待つ間に「近くにいたアカの他人が興味深い会話をしていたのが聞こえてきた。世界中で起きている様々なことを考えつつ、頭の中を整理することもできた」のだという。

 同氏によれば、技術が社会を一変させた時期、いわゆるdisruption(断絶)の始まりは2007年だった。米国のアップルがスマートフォンスマホ)の「アイフォーン」、グーグルがスマホ用基本ソフト(OS)の「アンドロイド」を世に送り出した年だ。

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 モバイル端末によるデータトラフィック(通信量)はそれ以降、14年までに「10万%増(約1千倍)になった」と試算する。やってきたのがインターネットにつながるすべてのデータ、モノ、カネの動きが「急加速(accelerations)する時代」である。

 興味深いのが「最も影響を受けた存在」の一つとして登場する米電話会社AT&Tの話だろう。友人でもあるというランドール・スティーブンソン最高経営責任者(CEO)が固定電話など「ケーブル事業」に偏った同社の未来に危機感を覚え、28万人いた従業員に再教育(reskill)を始めたのが就任早々の08年。その経緯と現状を随所に織り込んでいる。

 AT&Tはトーマス・エジソンとともに19世紀を代表する発明家アレクサンダー・グラハム・ベルの「ベル電話会社」が前身だ。米国の電信・電話インフラを築き、「マ・ベル(母なる電話会社)」と呼ばれて尊敬も集めたが、21世紀に入り急激な技術の陳腐化、風化に苦しむ。デジタル化の波にのまれて破綻した写真フィルムの覇者、イーストマン・コダックと同じ運命をたどる懸念もあった。

 クラウドエンジニア、データサイエンティスト。ネットやモバイル事業に重心移動をするにはそうした技術者、技能者が必要だったが、技能の高い人材は人件費が高いうえ、グーグルやアマゾンに吸い寄せられる確率も高かった。

 そこで進めたのが今いる社員、多くは固定電話のインフラ設計やメンテナンスなどに従事する人材を鍛え直すことだった。同社は衛星放送のディレクTVやタイムワーナーなどの大型買収も進めたが、その一方で社員の能力開発プログラムや学費補助に年間2億5千万ドル(約275億円)を使う。

 例えば、ネット上に社員向けの変革ツールを立ち上げ、各人の技量を定量化したり、新しい仕事の要件を満たすために獲得すべき技能を明示したりする。技能を伸ばすためのeラーニング、研修機関などを提案することも可能だ。

 大半の社員は再トレーニングに週5〜10時間を費やし、16年5月までに延べ180万以上の新技術講座を受けた。その多くはオンライン。生徒は月200ドルで無制限に受講でき、修了すると半額を会社から返してもらえる。ジョージア工科大などと共同でコンピューター工学の公認オンライン修士号を授けるプログラムも設けた。費用はキャンパスで受講する場合の15%で済ませられるという。

 AT&Tはダウ平均の指標銘柄から2年前に外れ、時代の「最先端企業」ではなくなった。だが、足元の業績は好調で、株式時価総額も世界18位(5月末)。「再教育に早くから気づいたことで、活力を持続できている」と日本法人AT&Tジャパン(東京・港)の岡学社長は話す。

 岡氏によれば、最も変化したのは「スピードや効率」だと言う。ここ2年ほどで同社は製品開発サイクルを4割短縮し、収益を上げるまでの時間も3割スピードアップした。あるサービス事業では170カ国・地域以上に広げるのに半年と従来の半分に圧縮できた。

 興味深いのは再教育を自由意思にした点だ。勉強するのはプライベートな時間。自腹も一部切らなければならず、応じるかどうかは本人次第だ。だが、あと10年、20年働きたいと考える人は自己変革意識が高まり、色々な気づきも得られる。フリードマン氏風に言えば、「グーグルやアマゾンの社員より遅れたが、時代の流れに間に合うことができた。ありがとう」という好循環ができるわけだ。

 重要なのは2つだ。1つは伝統的企業が人員削減をせずに反撃するひな型を作りつつあるということ。もう一つは企業の盛衰は社員次第ということだろう。企業価値の向上とよくいうが、それを担うのは社員だ。ところが、会社の健康状態や競争力を表す貸借対照表(バランスシート)は設備、建物、特許権といった有形無形のモノ(資産)とカネ(負債)で成り立ち、ヒトは物差しの外にいる。

 企業は「株主利益の極大化をめざす営利装置」だが、ヒトが変わらなければdisruptionは泳ぎ切れない。時代の先端を行くグーグルも勤務中の食事はタダにするなど共同体的運営で優秀な頭脳を集め、知の資本を重んじる姿勢を打ち出す。モノ、カネとしての企業価値を追求してきた米国で、ヒトの価値の「再創造」に焦点をあてるAT&Tの取り組みにも多くのヒントが隠れているはずである。

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