藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

自分の老後を選ぶ時代に。

介護にまつわる苦労話は最近毎日のように報道される。
ということはそれだけニュースになるような「驚きに値する」出来事が多いということだ。
世界最速の高齢化社会と言われる日本で、その社会的施策は世界的に注目されているともいう。
本記事にもあるが、問題は根深く、国の保険制度とか会社の就業施策だけで解決しきれるものではなさそうだ。

思うに、社会問題化している一番の原因は「当事者の予想を超えていること」なのではないかと思う。

高度成長期以降、核家族化や晩婚、終生独身など様々な形態が現れて今に至る。
自分が生涯独身とか、あるいは夫婦のどちらか片方が家族とは分かれて一人になるといった事態は、自分の老後の「想定外」だったのではないかと思うのだ。
逆に自分のことで言えば、「自分の老い方は自分で決めておかねば」という思いが強い。

自分が認知症になったり、重度の寝たきりになった時に「自分への処し方」をあらかじめ決めておくことは自分の生き方とイコールではないかと思う。
医療が先進し、それだけ寿命も長くなっているけれど、それと「自分の老後の在り方」は別物だ。
むしろ「ただひたすら延命を」という人は少ないのではないだろうか。
自分の家族も、自分の介護のためにむしろ犠牲にしたくない。

そう考えると、六十の定年前に自分の老後や介護の在り方を自分で決めてゆく時代がこれからなのじゃないだろうか。

自分の親族が「介護うつ」になり、仕事を辞めてまで自分の世話をしてくれる、というのは却って重荷と感じる人は多いのではないだろうか。
いよいよ「自分の老後を自分で選ぶ」という時代になるのではないかと思う。

介護離職で泣かないために、今すぐやるべきこと
「ワーク&ケアバランス研究所」主宰 和氣美枝

親や伴侶など家族の介護を理由に勤めていた会社を辞める介護離職。その数は年間10万人を超えると言われています。安倍政権は先ごろ発表した「新3本の矢」の中で、2020年までに介護離職をゼロにするという目標を打ち出しました。職場で中心的な役割を担う人が離職に追い込まれると、会社には大きな痛手となります。それに伴う経済的な損失がどれだけ大きいか、国もようやく気付いたようです。何より働き盛りの時期に仕事を辞めてしまうと、人生に大きな悔いを残してしまいます。家族に介護が必要になったら、会社は辞めるしかないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。ちゃんと道はあるのです。

選択肢が見えなくなる

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研修会で話す和氣美枝さん(写真提供:ワーク&ケアバランス研究所)


 私が主宰をしている「ワーク&ケアバランス研究所」では、仕事と介護の両立で悩む人を支援するためにセミナーを開くなどの活動をしています。そんな中で多くの事例を見てきました。
 千葉県在住で大手商社に勤めていた50代の男性は「会社を辞めなければよかった」と介護離職したことを後悔しています。ひとり暮らしをしていた遠方のお母様が倒れ、医者から「誰か傍そばについていた方がいいですね」と言われたのです。
 一人っ子の彼は奥様を自宅に残し、会社を辞め、ひとりで実家に戻りました。会社を辞めた当初、彼は「再就職先はすぐ見つかるだろう」という甘い気持ちもあったと言っていました。しかし、現実は全く違っていました。50社以上に履歴書を送ったけれど面談にさえも至らないのです。最終面談まで行ったこともありましたが、結果は不採用でした。
 彼は日に日に自信をなくしていきました。「もっといろいろ調べてから動けばよかった」とつぶやいていたこともあります。介護保険サービスの利用の仕方や介護をしながら働く人への地域の支援などについて、何も調べず辞めてしまったことを後悔しています。
 収入はパートで働く奥様の給料のみ。マイホームのローンも残っています。貯金も底をつく寸前です。今はお母様の年金で生活をしていますが、この先の不安は募るばかりのようです。
 私が常々言っていることですが、介護者の不幸は「選択肢が見えなくなること」です。介護が始まったからといって、会社を辞めなければならないことはありません。今までと同じように、自分の人生は自分で選択できるのです。
 ただ、見たことも聞いたこともない事象が目の前で次々に繰り広げられ、「分からないことさえ分からない」という状態に陥ると、パニックや憤りで選択肢が見えなくなります。それで、例えば「会社を辞めるしかない」と、誰に相談することもなく結論付けてしまうのです。
 企業セミナーをやっていると、終わった後のアンケートで「介護が始まったら自分の生活を切り崩さないといけないのだと思っていました」という声は少なくありません。
母親が認知症、会社をたたんだ経営者も

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中小企業を対象とした仕事と介護の両立のための勉強会(写真提供:ワーク&ケアバランス研究所・株式会社NENGO)


 東京で小さなIT関係の会社を経営されていた男性の話です。この方は親の介護で仕事ができなくなり、全従業員を他の会社に転職させた上で会社をたたみました。認知症を患ったお母様はたびたび徘徊はいかいするので、目が離せなかったようです。
 しかしながら、彼は経営者です。小さな会社でしたが数名の従業員も抱えておられました。独身である彼には、お母様を見てくれる他の家族もいませんでした。「会社をたたむ以外、方法はなかった。従業員には本当に申し訳ないことをした。介護との両立なんかできっこない!」と、彼は言います。
 とはいえ、介護離職をしていいことは、ひとつもありません。精神的、肉体的、経済的な負担が増えます。会社という社会との接点がなくなるので、まず、精神的に孤立していきます。もちろん要介護者に関わるケアスタッフなどの存在はありますが、あくまでも要介護者を通しての関わりです。介護者のアイデンティティーは気づかぬうちに失われていくのです。
 また、要介護者の疾患によっては通常のコミュニケーションが難しくなる場合もあります。こういった状態の要介護者との生活は、精神的なストレスを増やすこともあります。さらに、「収入がない」という現実が将来の不安につながり、情緒不安定になる方も多くいます。

 肉体的負担が増えるのは、二つの原因が考えられます。ひとつは、仕事をしていないので時間があり、家事や介護をしてしまうということ、もう一つは、収入がないので、介護保険サービスの利用を控え、自らが要介護者の身体介護などを担ってしまうということです。最後に経済的負担の増加ですが、これは仕事をしていないのに介護の費用だけがどんどん膨らんでいくわけですから、容易に想像がつくことと思います。

仕事か介護か、究極の選択を迫られた時は

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「働く介護者おひとり様介護ミーティング」に参加した人たち(写真提供:ワーク&ケアバランス研究所)


 介護離職は職種や年齢を問わず、あらゆる人に降りかかってくる可能性のある問題だという認識を持ってください。「私はまだ若いから」とおっしゃる方もいますが、10代や20代の若年介護者も多くいますし、かくいう私も32歳の時から母の介護に関わっております。
 私は当初、マンションデベロッパーで働く、いわゆるキャリアウーマンというものをしておりました。ある程度仕事も任せていただいていたので楽しくて仕方がなかった、生意気盛りの時期です。そんなある日、母が突然「反復性大うつ病」という病気と診断されました。
 「うつ病で介護?」とお思いになる方もおられますが、うつ病はひどくなると今日着るお洋服も選べなくなります。買い物に行っても何を買ったらいいのかわからない状態になります。生活全般に支援が必要になるのです。当時の私はお料理もしなければ、家事などやったことはありません。
 もっといえば、健康保険がどういうものなのかさえも知りませんでした。もちろん「自分が介護をしている」という自覚もなければ、「介護者」という言葉も知りません。とにかくわからないことだらけです。煩雑な役所手続きに戸惑い、専門職から浴びせられる専門用語に翻弄され続けました。
 仕事で評価を受けていただけに、自分の無知さ加減に自信をなくし、下手なプライドが「他人を頼る」ということを拒絶し続けました。「分からないことが分からない」という気持ちを分かってくれる人もいないし、向かうところ敵ばかりに思え、人を信じられなくなり、ついには自暴自棄にもなりました。
 そして「私はこの仕事が好きではないかも」という思いに駆られ、他にもいろいろなことが要因となり、会社を辞めることにしました。会社を辞めても介護は終わらない、状況は変わらないということに気づいたのは、会社を辞めてからです。
 その後、転職を繰り返しました。収入面だけをいえば、ゼロではありませんでしたが7分の1程度にまで落ち込んだ時期もあります。
 もし、あなたが「仕事を辞めますか。介護を辞めますか」という究極の選択にまで行きついたのであれば、「介護を辞める」選択もあるということだけは、知っておいていただきたいと思います。
 ただ、これは介護者の選択です。「仕事よりも親の介護を優先したい」「自分で親の介護をしたい」と強く願うのであれば、それはその方の人生であり、価値観です。否定されるものではないと思います。ただし、短絡的に考えるのではなく、2つ以上の選択肢を持ったうえで長期的な視野を持って冷静に判断していただきたいと思います。
 では、そもそもなぜ介護離職を防止する必要があるのでしょうか。若年層の介護者も多くはなってきたとはいえ、やはり働く介護者の中心は40代後半から50代です。この年代になると、多くの人は会社で要職を担っています。
 家族の介護でこの人たちが突然会社を去ってしまうと、その部署は大きな戦力ダウンを招きます。代わりの方で穴を埋めるのは簡単ではありませんし、新たな人を採用するとなると時間もお金もかかります。
 これはどこの会社でも起こり得る問題であり、多くの会社でこのようなことが起きれば、国の経済活動にも大きな影響が出ます。さらに言うと、働き盛りの人が離職すれば、国は税収などの面でも打撃を受けることになります。社会保障費が110兆円を超え、今後も増えると予想される中、介護離職は国をあげて取り組むべき大問題なのです。
「従業員の家族介護」把握していますか?
 介護離職をなくしていくには、どんな取り組みが必要でしょうか。企業のトップの方に認識していただきたいのは、介護離職を防ぎ、仕事と介護の両立を支援することは経営戦略でもあるということです。
 バリバリの営業マンが突然会社を去り、部署を陰で支えてきた事務スタッフが突然会社を去ると、会社は人員構成を見直し、人員を補充するために動かざるを得えなくなります。こういった事態を極力避けるためにも、会社はまず「家族介護が始まったら会社に報告する」という規定を作るべきではないでしょうか。もしくは、年に1回でもいいので、全従業員との面談を実施し、聞き取りを行ってください。
 これは介護に限ったことではありません。育児や病気、お子さんの進学などあらゆる生活上の変化は、少なからず仕事に影響を与えます。現在は共働き家庭、生涯独身、離婚を経た独身など、家族の形が多様化しています。個人のライフスタイルに会社が方針を合わせるのはおかしいと感じる方もいるかもしれませんが、合わせるのではなく把握する必要があるのだと考えてください。なぜなら企業は人で成り立っているからです。
 例えば、ある支店を立て直すために、優秀な社員をひとり抜擢ばってきしたとします。内示を出した時に、その社員が「実は家族介護を担っており転勤ができない」と言い出したらどうしますか。その場合、会社はその方をよほどの理由がない限りが転勤させることはできません。人選に費やした時間と労力が無駄になり、再度人選をするためのコストが発生するのです。

 逆に働く介護者の中には「会社に家族のことで迷惑をかけたくない」「会社に報告しても意味がない」という思いから、家族を介護していることを隠す人がいるかもしれません。しかし、先のことまで考えれば、むしろ報告しない方が迷惑だということも理解できるのではないでしょうか。

制度導入だけで満足してはいけない

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仕事と介護の両立に対する関心は高く、イベントには多くの人が集まる(写真提供:ワーク&ケアバランス研究所)


 大企業では介護休業や時短勤務、在宅勤務体制の整備など仕事と介護を両立するための策を講じ始めています。ただ、中小企業においては法定内の制度設定にとどまっているところが多いようです。人事部やダイバーシティー(多様な人を受け入れること)推進担当、経営者の皆さんにご理解いただきたいのは、それらの策を講じるだけでは「道具を提供した」にすぎず、まだ「支援」には至っていないということです。
 「イントラネットで情報を配信しているから大丈夫」「制度設計をしたので大丈夫」ではありません。情報や制度はあくまでも道具です。しかも、人間は忘れやすい生き物です。自分の身にふりかかる問題としてとらえていなければ、道具の存在や使い方さえも忘れてしまうものです。
 そこで、仕事と介護の両立に取り組む企業の最新の傾向としては「介護に直面する前からの支援」に力を入れているようです。「両立支援に対する会社の方針の明示」「介護に直面する前からの情報提供」といった取り組みが始まっています。
 具体的な形としては「40歳以上の従業員を対象とした両立支援セミナー」の定期開催です。このセミナーで(1)会社の方針を伝える、(2)介護休業制度など使い方の案内、(3)働き方の選択の案内、(4)自治体にある相談窓口の案内などを行っているようです。
 この取り組みは、介護を経験した人間から見ても、非常に理にかなっています。なぜなら、介護が始まる前に準備しておくことは二つだけでいいからです。ひとつは「介護保険介護保険サービスの概要を勉強しておくこと」。もうひとつは「相談窓口を知っておくこと」です。これは厚生労働省の資料にも書いてあります。
 こういった「介護に直面する前からの情報提供」を実施することで、従業員は介護に備えた心構えができますし、場合によっては、家族で介護について話し合いをするきっかけになることもあります。
 また。40歳以上の人が対象というのも理にかなっています。もちろん40歳未満の人の参加を拒否するものではありません。ではなぜ、40歳以上の従業員に聴講を勧めるのかというと、介護保険料を払っているからです。
 ある企業でセミナーをしたときに「介護保険を払っている方は挙手をお願いします」と聞きました。どうみても40歳を超えている方々が大半だろうと思ったのですが、挙手する人の数はまばらでした。勤め人をしていると給与から天引きされているゆえに、「払っている」感覚が希薄になることがあります。
 自分が担うかもしれない「介護」のセミナーには興味があるが、自分が払っている介護保険には興味が薄い、という事実が露呈することもあります。ただ、セミナーをきっかけにしっかり興味を持てれば問題ないと思います。突然始まる介護に企業も個人も悠長に構えている場合ではないということを認識していただければいいのです。
時代のパイオニアとして
 介護離職をしないために、現在介護をしている方々、未来の介護者、企業はそれぞれ何をしたらいいのでしょうか。私たちは介護離職世代なのかもしれません。いわゆる時代のパイオニアです。前例がないから苦労しています。前例がないから、仕事と介護の両立が難しいのです。だからこそ、介護経験者の声というのが貴重です。そこに事実があり、そこにノウハウがあります。
 国にも行政にも企業にも、働きながら介護をする人を支える経験値が少なすぎます。ですから、我々の経験に価値を見いだしてほしいと願っております。例えば、家族介護の関係で時短制度を活用したとします。その結果お給料も必然的に下がるということは、きちんと説明すれば納得のいく話です。
 ただ、経営者や人事部の方には、その従業員の「介護をしながら働く工夫、経験」に価値を見いだしてほしいのです。介護をしながら働くことの経験は、ストックしていくことで、次に続く方への道しるべになります。企業にとっては知の財産です。
 また、介護の経験者は介護で悩んでいる方への寄り添い方も上手です。「あなたの経験が誰かのためになる」と説得することで、ピアカウンセリングも可能です。これも企業にとっては財産です。こういったことを人事考課の中で配慮してくれれば、家族を介護していることを会社に報告、相談もしやすいのではないでしょうか。
 私たちは介護離職をしないために3つのポイントとして
1)会社に報告し今後の働き方を相談する
2)介護者仲間を作る
3)定期的にストレスを発散する
 を挙げています。共通しているのは「介護をしていることを声に出して言う」ということです。これは自分を守るための第一歩です。介護者にとって一番大事なことは「自分の人生を最優先に考えること」です。介護者は誰からも守ってもらえません。誰かが手を差し伸べてくれると思ったら大きな間違いです。自分の意思は自分の言葉で伝えなければならないのです。
 「介護はひとりで抱えない」と言われます。ひとりで抱えないというのは、何も介護保険サービスを利用することだけではありません。精神的な面でも、ひとりで抱えないために、介護をしていることを明言することをお勧めします。
 介護をしていることを、友達でも同僚でも第三者に対しても、自らの言葉で情報を発信すれば、得られる情報も増えるという事実もあります。そしてあなたの発信した言葉が、第三者の将来の介護にいかされることもあるということも、ぜひ知っておいていただきたいと思います。
 「No More介護離職」。介護をしながら働くことが当たり前の世の中になることを信じて、私たち「ワーク&ケアバランス研究所」は活動を続けていきます。

 
プロフィル
和氣美枝( わき・みえ )
 1971年生まれ。 ワーク&ケアバランス研究所 主宰。「No More介護離職」をキャッチフレーズに、介護をしながら働くことが当たり前の社会の創造を目指して活動している。企業の介護セミナーや仕事と介護の両立コンサルティング、中小企業の介護相談窓口などを行う傍ら、「働く介護者おひとり様介護ミーティング」という発信型の家族会(次回は11月21日)も開催している。