藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

常に先端かもしれない。

全く自由に動画をアップロードし、検索できる。
こんなものの存在が「どうなっていくのか」は予測できなかった。
で、今はそれは「やっぱり予測できないもの」になっていると思う。

テレビやラジオの製作されたコンテンツ。
ユーザー主体のドキュメント。
個人で編集された映像。
個人が発信したい映像。

そして「個人が作ったオリジナル映像」。
そんなものがネットの"坩堝(るつぼ)"に詰まっている。

ウェプ進化論の著者の梅田氏が指摘していたように、「これからの映像サイト」とかさらには「IoT業界」はこれまでにない広がりを見せると思う。

多分「これまでの驚きが、さらに続きさらに飛躍する」というのがようやくのこれからの時代なのではないだろうか。

本当の進化は、これから始まる。

若者の心を揺さぶる動画クリエーター その素顔は
YouTube×企業」革命(下)

2014/10/23 7:00
日本経済新聞 電子版

 動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」で活躍する映像クリエーターが、日増しに消費者に対する影響力を強めている。商品紹介あり、ダンスあり、英語講座あり――。一般人ながらテレビとはひと味もふた味も違う独創的な発想で制作された動画を支持するのは、主に中高生らデジタルネーティブな世代。面白ければ彼らのネット上の交流の輪を通じて評判が爆発的に広がり、次々と再生されていく。

日本人ユーチューバーの第一人者HIKAKINさん(右)。19日にひらかれたイベント「ユーチューブファンフェスト」ではファンから握手攻めにあうなど人気ぶりを発揮した

 もともとは一般人のクリエーターは、「ユーチューバー」と称される。上編で紹介したように、人気者だと抱えるファンは数十万〜数百万人。動画で取り上げたことがきっかけでヒット現象が生まれる場合もあり、その力を頼ろうと彼らの元を訪れる企業も少なくない。会社を辞めて宣伝動画の制作で生計を立てるようになったトップクラスのユーチューバ―もいる。

 ただ彼らは、決して「銭稼ぎ」や「テレビデビューの踏み台」のために活動を続けているわけではない。ユーチューバ―素顔とはいったいどんなものなのか。実際に会って確かめてみた。

■渋谷のスクランブル交差点に現れた巨大ポスター

 「あ、HIKAKIN(ヒカキン)だ」。東京・渋谷のスクランブル交差点。見上げたビルの壁面に貼られた超巨大ポスターを指さした若者。するとすかさず隣の友人に向かって右手を頭に掲げるポーズ。うれしそうに「ハロー、ユーチューブ」と叫んだ――。

 ポスターを掲示したのはユーチューブの提供元の米グーグルだ。HIKAKINさんは日本のユーチューバーの第一人者で、若者がやったのはHIKAKINさんの決めポーズ。グーグルは彼を含む人気ユーチューバ―数人にスポットライトを当てた宣伝キャンペーンを10月から開始。その一環として中高生らデジタルネーティブな世代が集まる渋谷にポスターを掲示している。彼らが出演するテレビCMの提供も始めており、「ユーチューブからスターが次々と生まれている。その事実をもっと多くの人に知ってもらう」(グーグル日本法人)狙いからだ。

米グーグルは広告キャンペーンでHIKAKINさんらユーチューバーを起用。巨大ポスターを東京・渋谷のスクランブル交差点に掲げ、行き交う若者たちにユーチューブをアピール

 ユーチューバーたちが既に若者たちの間で抜群の知名度を誇ることを象徴するイベントが19日、都内で開かれた。トップクラスのユーチューバ―ばかりが出演する招待制の「ユーチューブファンフェスト」には熱狂的なファンばかり1000人が押しかけた。公演前にはユーチューバーがレッドカーペットを歩く、ハリウッドスターのような演出も。これにファンは大喜び。演奏やトークに対し途切れなく熱い声援を送る光景は、人気の音楽アーティストのようだった。

 日々持ち歩くスマートフォンスマホ)の画面を通じて日々ユーチューブを楽しむデジタル世代。彼らにとってユーチューバーはテレビタレントより身近で憧れの存在なのだろう。

「投稿してくれたファンのコメントの中身を知りたくて一生懸命読むうちに、少しだけ英語ができるようになった」と喜ぶ佐々木さん。今夏各地で握手会を開いたところ、ファンが殺到した

 化粧品を用いたメーク動画でナンバーワンの人気を日本で誇るのが女性の佐々木あさひさん(30)。彼女の動画を定期的に見るファンは実に約29万人。2009年からメーク動画の制作を始め、5年間で彼女が作った動画の累計再生回数は2700万回に及ぶ。例えば8月に投稿した「ハロウィーンメークアップ」と題した動画は、アニメ映画「アナと雪の女王」を題材に女王エルサ風に変身するもの。化粧品や化粧道具の紹介、そして化粧の過程をテクニックを交えて余すことなく紹介した4分弱の動画は、20万回以上再生され大ヒット。言葉が分からなくても楽しめるとあって、海外から視聴するファンもいる。

■「彼にもっと好きになってもらいたくて」

 「実はそもそもは、当時つきあっていた彼氏にもっと好きになってもらおうと女磨きのために始めたんです」。きっかけは、ごく普通の女心からだったと佐々木さんは笑う。女性らしさを学ぶためダンスを習い始めたところ、海外のダンサーが華やかな「ショーメーク」をしている姿にくぎ付けに。ただ日本の雑誌などにはショーメークに関する情報が少なく、テクニックを盗もうとたどり着いた先がユーチューブだった。当時、既に米国では感度の高い女性たちがメーク動画を次々投稿し、ちょっとしたブームになっていた。

 「英語はできないけど、メーク動画なら作って海外の人たちに見てもらえるかも」。そう考えた佐々木さんは、自分でもまねして動画を撮影してみることに。気が向いた時に趣味程度にときどき投稿するようになった。

2011年ごろから日本のファンも意識したメーク動画の制作も始めた結果、今では動画再生の約6割が日本からの視聴だ

 転機が訪れたのは2010年。「ガングロ」と呼ぶ当時日本の女子高生ではやっていたメーク動画を投稿したところ、爆発的に視聴されたのだ。セーラー風をわざわざ用意して、清楚(せいそ)な女の子が次第にガングロなちょっと不良っぽい女子高生へと変身していく過程を愉快に演出。世界各地で話題になり、約90万回も再生された。

 メーク動画のおもしろさと影響力の大きさに開眼。それをきっかけにのめり込むようになり、お役立ち系から面白い系まで自分なりに工夫して次々と動画を作っていく。気がつけば、ネットの世界ではちょっとした有名人に。

 最近は、化粧品メーカーからの依頼が舞い込む。新製品の紹介や特長を生かしたメーク術を伝授する宣伝動画まで作り、例えば米化粧品大手レブロン日本法人と組んだ例では17本分を請け負った。

 人気ユーチューバーになったことで、佐々木さんの生活は一変したという。「すっかりインドア派で夜行性になりました。楽しくもありつらくもあるのですが」。ほとんどの日は朝から晩まで自宅にこもり、一日中メークのアイデア探しやテクニックの考案、練習に明け暮れる。撮影場所は自宅。ベッドから起き上がったら目の前に三脚に立ったカメラがある状態だ。元来凝り性なことから、ハンダごてを握って自作の照明機材まで作ることもある。つまりユーチューブが生活の中心にある。

 彼女に10年後の夢を聞いた。「このままずっと今と同じようにメーク動画を撮り続けていたい。別に芸能人やモデルさんになりたいとはこれっぽっちも思っていない」。今年30歳になった佐々木さん。40歳、50歳になれば、そのときの自分に合ったメーク術を編み出し、それをみんなに伝えるのが楽しみでならないと目を輝かせる。「うまいね、きれいね、といわれるより、おもしろかった、自分もメークが楽しくなった、と言われたい」

 実は彼女の人気が上がるにつれ、ネット上の掲示板で誹謗(ひぼう)中傷されることも増えた。「あいつはいつかテレビに出たいだけなんだろ」「金もうけが目的の野心家なんじゃないの」――。こんなメッセージを目にして心が折れそうになったことは1度や2度ではないと明かす。「続けられたのは、いつも見てくれているファンがいたから」

 日本のメークはとかく「シミを隠す」などネガティブなテクニックが中心になっている現状を憂う佐々木さん。「みんなの心をポジティブにメークしてあげられるような動画を作ること。それが本当の夢です」。抜群の知名度を得た今も、自然体のままでい続けたいと本心で願っているのが印象的だった。

■予備軍が続々デビューする現象

 ユーチューバーの活躍は、その予備軍も大量に生む。「HIKAKINさんみたいになりたいんです。どうしたらいいですか」。佐々木さんら人気ユーチューバーが所属するユーチューブ専門のタレント事務所ウーム(東京・渋谷)には、こんな問い合わせが毎日のように舞い込む。大半が10代の若者だ。

佐々木さんなどの活躍に感化され、視聴者からユーチューバーに転身する例も。勝俣春乃さんはそんな一人。5月からメーク動画の制作を始めた

 5月からメーク動画の投稿を始めた勝俣春乃さん(18)もそんな一人。少し前までは、佐々木さんらの動画を見て参考にするごく普通の女子学生だった。動画制作の世界に足を踏み入れようと考えたのはひょんなきっかけからだった。ユーチューブと連携してメーク動画を専門に扱う「みんなのメイク」(ネット広告オプト提供)の存在をたまたま知ったのだ。

 勝俣さんは中学1年生から、高知県発ダンスであるよさこいを踊る地元チームに所属。よさこいチームでは衣装の着こなしや映えるメーク術を仲間同士で考えて伝授し合う伝統があり、自然にメークの奥深さやおもしろさにのめり込んでいった。気がつけばみんなから頼りにされ、教える立場になるほどの腕前に。自分のメーク術でみんなが喜んでくれるのだから、ネットを生かせばもっとみんなに喜んでもらえるかもしれない。そう考えた。

 初めて投稿した動画は、よさこい向けのメークで磨き上げた「崩れにくいメーク術」。「夏場に汗だくで踊ってもばっちりとしたままキープできるテクニックは、きっと普通の女の子たちにも役立つんじゃないかなと思って」。とはいうものの動画撮影も映像編集について知識も経験もない。ティッシュケースに立てかけたスマホで録画を始めたものの、四苦八苦の連続でくじけそうでしたと振り返る。

勝俣さんは、カメラが趣味の父親から高価な一眼カメラやレンズを借りて、空き時間を見つけては撮影。自室がスタジオ代わりだ。早くも企業から宣伝動画の依頼も舞い込む

 「今の自分にとって1番はダンス、2番目がユーチューブ」という勝俣さん。週に5日はダンスのレッスンに通い、週末はダンスのイベント出演などで多忙を極めるが、空き時間を見つけてはメーク動画の撮影や編集にいそしむ。わずか5カ月で15本を公開するはまりようだ。

 最近はすっかり手慣れてきて、テレビマンばりの度胸も身についた。台本などは作らず「パッケージがかわいい」「発色がすてき」などざっくり言いたい要点だけまず決める。後は1発撮りでメークの過程を撮影。失敗部分だけをカットすればよいので、トークなどが失敗しても気にせずすぐにやり直す。

 何がそんなに彼女を夢中にさせるのか。ぶつけた質問に対し、「自分をいろいろな新しい場所に連れて行ってくれるから。たった5カ月で新しい出会いや新しい経験ができたし」と勝俣さん。輝くような笑顔でただただ楽しいとほほ笑む。

■テレビCMとは違う、問われる企業の姿勢

 ユーチューブには動画に広告を挿入し再生回数に応じて広告料を受け取れる仕組みがある。ユーチューブの爆発的な普及を追い風に、ヒット動画をがんばって作れば努力に見合うかそれ以上の対価を得られる。トップユーチューバーともなれば広告収入だけで生活することも難しくない。

 ただ彼らの大半は「お金をもっともうけたい」「タレントとして有名になりたい」といった野心が驚くほどない。HIKAKINさんですら「これまでもこれからも、自分の居場所はやっぱりユーチューブ」と断言する。CMでテレビの世界へと飛び出した現状を喜びつつも、将来テレビタレントに転じるつもりは毛頭ないようだ。

 思ったことをそのまま伝える――。佐々木さんも勝俣さんも、動画撮影時に最も大切にしていることを口をそろえてこう言う。「ユーチューバーは自分が本当に良いと思ったものだけを取り上げ、メリットだけでなくデメリットもはっきり言ってくれる。そこにみんな共感するんじゃないかな。だから私も同じようにする」(勝俣さん)。

 企業が宣伝動画をユーチューバーに頼んだものの、内容を巡って両者の間で摩擦が起こるケースが絶えないことを上編で取り上げた。「ユーチューブの良さは本音を自由に言えるところ。良いことばかり言っても見てくれる人の心に響かないのに…」。企業との折衝で摩擦を経験したことがある佐々木さんもこう嘆く。

 サイバーエージェントと調査会社シードプランニングによると、2014年のネット上の動画広告市場は約311億円と前年から2倍に伸長する見通し。2017年には880億円に拡大すると予測する。増える需要を狙って、企業の多くが動画を活用したネット上の宣伝に乗り出すはず。ユーチューバーの力を借りようと考え、場合によっては動画広告自体への出演を依頼するケースもでてきそうだ。

 ただお金にも功名心にも無関心なユーチューバーは、テレビCMで起用し台本通りに動いてもらうタレントとは違う。消費者に近い目線でメッセージを届けるのが信条の彼らに企業の思惑通りに良い点ばかりを伝えてほしいと依頼するのは、強みを生かせないどころかユーチューブのの良さを壊れてしまいかねない。無理に押し通しても、消費者である視聴者をとりこにはできないだろう。彼らの素顔を目の当たりにすると、企業が今後ネットを使った宣伝戦略を組み立てていくうえで、最も重要な鍵がそこにある気がしてならない。

(電子報道部 高田学也)