藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

雑談とそれ以外の間。


思わず笑う。
五十を過ぎた高校時代の友人が「おい、AIってどうなんねん」と尋ねてくるくらい、日常的になってきた。
こちらも、いかにも業界の人間を気取って「まあ、そのうち会話相手くらいにはなるやろ」などと答えて酒を飲む。
さて。

いよいよAIスピーカーも量販店で売っている。
ここらで自分とコンピュータの関わりも変わってきそうな気配がある。

AI何するものぞ、という会話はもう通用しない。
だって自分たちの「日常会話」はAIで十分に対応可能なのだ。

「今度のプロジェクト、どう思う?」とか
「実はあそこの土地開発について、考えがあるんだ」という話はまだ人間のものだろうけれど。

自分の日常会話のどの程度が「人間でないとできない交流」だろうか。
英会話を習って愕然とするが、「ビジネス会話」は難しいが「日常会話」は案外簡単である。

だから、自分たちの「本質を表す行為」以外は、簡単にAIに推測され、代替されてしまう可能性が高い。
つまり「日常はAIスピーカーがいてくれればとっても楽しい」という時代に早晩突入するのに違いない。

さらに居酒屋での「気の利いた会話」は一体どの程度本当に「気が利いているのか」ということ。
「AIより自分が気が利いている」といつまで言えるのだろうか。
けれどそれでも「退陣」がいいのか。
それとも「自室でAIと話す」のか。
そんな時代がもうすぐ訪れる。

話題のAIスピーカー"Google Home" を使って驚いた

これが意外に便利でして

話しかけると質問に答えてくれたり、音楽をかけてくれる対話型AI(人工知能)スピーカーは、米国では2500万人以上の利用者がいるとされる。

日本語に対応した製品はなかなか出てこなかったが、10月に入りLINEが「ウェーブ」という製品を投入(試験販売は7月にスタート)。

グーグルもいよいよ日本語に対応した「グーグルホーム」の販売を開始した。年内にはアマゾンも「エコー」を日本市場に投入する予定である。

ひとたび使い始めると生活が一変するともいわれるAIスピーカーだが、実際、どの程度の実力があるのか。また家庭に導入するためにはどのような作業が必要なのか。筆者が実際にグーグルホームを購入し、使ってみた結果をご報告したいと思う。

繋いで話しかけるだけ

グーグルは10月6日、対話型AIスピーカーグーグルホーム」日本語版の販売を開始した。価格は税込み1万5120円)と米国とほぼ同じ水準となっている。

LINEのウェーブも1万4000円(税込み)という価格に設定された(期間限定のキャンペーン価格は1万2800円)。各社とも、採算より普及を優先し、戦略的な価格設定を行っているとみてよいだろう。

グーグルホームは、直径約10cm、高さ14cm程度の多少丸みを帯びた円筒形。製品単体ではマイクやスピーカー、ネット接続機能などが入った単なる箱に過ぎない。

利用者の声を認識して質問に答えたり、各種作業を行っているのは、ネットの先に接続されたグーグルのサーバーである。

また同製品は、外観上、スイッチの類いがほとんど見当たらない。電源スイッチもないので基本的には電源を入れたままという使い方が想定されている。

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本体上面を円形になぞると、音量を調節ができる。一旦ネットワークに接続した後は声で音量を調整できるので、使う機会はほとんどないのだが、最初に電源を入れた時に音が大きすぎる場合があるので、この操作は覚えておいた方がよいかもしれない。

初期設定など各種設定は「ホーム」というアプリから行う。グーグル「プレイストア」からスマホなどにダウンロードして実行すると、自動的にグーグルホームを検出してくれる。

初期設定ではグーグルホームWi-Fiルータとして機能しているようで、まずは、そこにダイレクトにアクセスした後、家庭内のWi-Fi接続の設定画面になる。

文章で読むと面倒そうだが、実際にはほとんど意識しなくても使えるようになっているので戸惑うことはないだろう。

基本的な準備は出来たので、あとはグーグルホームに話しかけるだけである。人によっては機械に話しかけるのが照れくさいと感じるかもしれないが、慣れてしまえばあまり意識することはなくなるはずだ。

NEXT ▶ どこまで「できる」のか

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これが意外に便利でして

質問には答えるが、会話は…

グーグルホームと会話するには「OKグーグル」と呼びかけ、その後に要件を伝えればよい。例えば「OKグーグル」「こんにちは」と話しかけると「こんにちは」などと返してくれる。(OKグーグルの後に)「今日の天気は?」と聞けば「千代田区の天気は晴れ、気温は25度」といった形で欲しい情報を教えてくれる。

高度なAIといっても、会話を続けることは基本的にできないと思った方がいい。質問して回答を得る、という一往復のみである。

このあたりはいずれ改善してくると思うが、人間と同じように会話できると想像してしまうと少々ガッカリするかもしれない。

質問は一般的レベルであればそれなりの範囲をカバーしている。

日経平均株価は?」と聞けば、少し不自然だが「今日の日経平均株価は0.35%上昇し、20954となっています(なぜか円は付けない!)」と返してくるし、「1ドルはいくら?」との質問には、「今日のアメリカドルは約112.233円です」と返答してきた。

「今日のドル円は?」と聞いても同じ回答だったので、複数の聴き方にも対処できるようだ。

このほか、東京から大阪までの距離、1キロメートルとマイルの換算、ニューヨークの現地時間、各国の首都など様々な質問にもすんなり答えてくれた。

だが少し専門的な話となるとまだまだのようで、「日本のGDPは?」と聞くと、回答は得られたがドルベースの数字だけだったり、消費者物価指数といったレベルになってくると「すみません。お役に立てそうもありません」「今後さらにがんばります」といった返答になる。

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仕事での利用を考えた場合は、現段階では他の作業をしながら一般的な内容や数字を確認する目的で話しかけるといった使い方が最適だろう。

グーグルホームからの返答をレポートにそのまま使うなど、知的作業に応用するのはまだ難しそうだ。質問の内容によって使う情報ソースが変わるので、情報の質の一貫性という点で少々難点があるというのがその理由である。おそらくこのあたりについても順次改善していくのだろう。

グーグルホームとしっかり対話したければ、できるだけ論理的に、そして簡潔に質問する能力が求められる。

相手は執事のはずなのに、かえって自分自身の論理性を問われる状況となることも多いのは少し皮肉な話だ。自然な問いかけで反応できるようにすると誤作動の確率も上がるので、このあたりはバランスが難しいところだろう。

ちなみにグーグルホームはニュースにも対応しているが、「今日のニュースが知りたい」とリクエストすると、直近のNHKニュースの音声がそのまま流れてきた。経済ニュースをリクエストした時はラジオ日経となった。

ニュースは番組で一つの単位となっており「次のニュース」といって、ニュースを先送りして聞くことはできないようである。

NEXT ▶ テレビ・音楽の操作性は良好

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これが意外に便利でして

これが想像以上に便利なのだ

一方、現時点においても非常に完成度が高いと感じるのは動画や音楽の再生である。グーグルはテレビにつないでユーチューブなどの動画を再生する「クロームキャスト」という製品を出している。

グーグルホームはクロームキャストに対応しており、声でクロームキャストを操作することができる。

例えば「スキマスイッチボクノートの動画が見たい」と話しかけると、該当するユーチューブの動画が自動的にテレビで再生された。

ロームキャストはテレビにあるHDMI端子に接続して使用するが、テレビの機種によってはHDMIからの信号でテレビの電源をオン/オフできるようになっている(ソニーブラビアリンク、東芝はレグザリンク、シャープはファミリンク、パナソニックビエラリンクという名称になっている)。

筆者のテレビはこれに対応しているので、試しに待機状態で話しかけたところ、自動的にテレビの電源が入り、希望した動画がテレビから流れてきた。

大した話ではないかもしれないが、実際にやってみるとこれは結構、感動する。「10秒進めて」とリクエストすれば10秒先送りされ、「止めて」と言えば再生が止まった。

この便利さは一度、味わってしまうとやめられない(ちなみにLINEのAIスピーカーには、テレビの赤外線リモコンを操作する機能がある)。

細かい情報について、グーグルはあまり積極的に公開していないので、実際にやってみないと分からないことも多い。テレビの電源が入るのも、あくまで電源が入るのではないかと筆者が予想し、やってみた結果である。

1万4000円という価格をどう見るかは人それぞれだが、買ってみて自分なりに試行錯誤することが必要な製品ということになるだろう(その是非は別として)。

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音楽については、グーグルが提供しているグーグルプレイ・ミュージックか、スポティファイというサービスのどちらかに加入していれば再生が可能だ(音楽の再生はテレビではなく本体から)。

グーグルプレイ・ミュージックにアクセスしてみたところ有料会員でなければ聞けないようになっていた(筆者は無料会員)。スポティファイについては無料会員でも大丈夫とのことだが、再生に一定の制限がかかるという。

筆者はスポティファイの無料会員でもあるのだが、どの程度まで曲を再生できるのかという情報もなかったので、実際にやってみた。結果は、曲名を指定しての再生はできなかったものの、関連楽曲の再生は可能だった。

例えば「ソニー・ロリンズのセント・トーマスを聞きたい」とリクエストすると、関連する曲をグループ化したものの中から任意の曲が再生される(スポティファイではステーションと呼ばれている)。

そのものズバリではないが、聞きたい曲に近い曲は聞ける。本気で聞きたい曲をリクエストしたいなら有料会員になっておく必要があるが、BGM程度での利用なら、無料会員でも特に問題はないだろう。

曲が流れている最中に「この曲は何?」と聞けば、曲名とアーティスト名を教えてくれるし、「次の曲」と指示すれば次の曲に進んでくれた。試しに「この曲嫌い」と言ってみると別の曲が再生され、「この曲大好き」と言うと、今度はスポティファイの「お気に入り」に自動登録された。動画再生と同様、操作はとてもラクだ。

NEXT ▶ ビジネスも激変するかも

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家族の声を聞き分けて対応

グーグルホームは家庭内の複数利用者にも対応している。家族それぞれのグーグル・アカウントをリンクし、声を登録すれば、声を聞き分けて個別に対応する仕組みだ。

筆者が「明日の予定は?」と聞いた時は「11時の会議です」と回答してきたが、明日は予定を入れていない妻が同じ質問をすると「カレンダーに関連するものは見つかりませんでした」との返答になった。

声を聞き分け、チェックするグーグル・アカウントを使い分けていることが分かる。

本体にはマイクを切るスイッチがあるので、来客時などにはマイクを動作させないようにすることもできる。スイッチを切っている時の会話はグーグルホームは聞いていないはずだが、このあたりはグーグルを信じるしかないだろう。(本稿ではセキュリティ面の話はひとまず横に置いておく)

国内ではまだ対応製品が少ないが、グーグルホームは家電をコントロールする機能も搭載している。「リビングにある電気を消して」とリクエストすれば、実際に電気を消すといった操作が可能となる。近い将来はグーグルホームに対応した建売住宅などが売られることになるだろう。

これまで使ってみた感想として、グーグルホームは、まだオモチャ的なところがあり、あらゆるリクエストに対応してくれる存在ではない。またグーグルの場合、今回の製品に限ったことではないが、サービス全般において設定画面などで少々分かりにくい部分がある。

慣れてしまえばよいのかもしれないが、コンシューマー向け商品という位置付けなら、インタフェースにはもう少し工夫が必要と感じた。

ただ、グーグルホームの登場によって、声を使ってコンテンツを管理したり、家電などを制御する基本インフラはほぼ確立したといってよいだろう。

マーケティングは激変を強いられる

もしこうしたサービスが本格的に普及してきた場合、企業のマーケティングは大きな変革を迫られるだろう。

グーグルホームにリクエストして、返ってくる結果はだた1つである。「近くにある焼き鳥屋を知りたい」とリクエストすると「10件見つかりました」と返してくるが、その後すぐに「一番近くにあるのは○○です」と続く。確かに声で長々と説明されても利用者としては面倒なだけである。

つまりAIスピーカー時代には、コンテンツでも店舗でも商品でも、その利用者に対してナンバーワンの存在でなければ、紹介される機会が消滅するということである。

上位に入っていればよいというマーケティングと、1位でなければならないというマーケティングでは天と地ほどの差がある。

また、スマホの普及が外出先での人の行動を一変させたように、AIスピーカーは家の中での行動を大きく変える可能性を秘めている。友人が集まった時などは、声で次々と動画や音楽を再生できるので、とても楽しい時間を過ごせるはずだ。

ここにデリバリーの食べ物や、飲み物、パーティグッズの販売などが重なってくると、大きなビジネスチャンスになるかもしれない。

今年中にはアマゾンもAIスピーカーを投入してくる。アマゾンは物販と直接関連しているので、ビジネスに対する影響は極めて大きい。AIスピーカー上で推奨されるかどうかで、多くの商品の売れ行きが決まってしまう時代が、間もなくやってくるだろう。