藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

相手の気持ち

*[次の世代に]伝わるかが命。
Yahoo!ニュースより。
漫才コンビ・ナイツの記事。
漫才って、お客さんが近いか遠いかでもスピードを変えなきゃいけないんで(中略)球場の広さによってピッチングを変えるピッチャーみたいな感じですね。
 
『今日の審判はココを取るな』っていうのと一緒で、漫才も『今日はここで笑うな』っていうのが何となく分かって『じゃあ今日はスピードちょっと遅くした方がいいな』とか。ホントそんな感じです」
「今日の審判(聞き手)はここを取る」これだ。
最近、福祉関係の施設を訪問していてつくづく思うのだが、自分たちはあまりに「相手の反応」に関心を払っていない。
言いっぱなし。
「まあ日本語で話しているし、そんなに専門用語もないから伝わっているだろう」と思い込んでいる。
これがお年寄りや子供には通じない。
長文の話も伝わらない。
情報量は極力少なくして、核心として伝えたいことに絞る必要があることにも気づく。
ここから見えてくるのは、ナイツがネタを披露する際には「どんな内容か」だけでなく、「どう聞かれるか」まで徹底的に計算し尽くして準備を重ねているということ。
日常で自分たちが「相手」に対して話すとき、一体どれほど伝わっているだろうか。
営業のプレゼンで、仲間内の会議で、クレームのやり取りの場で「言いたいことを言う」という姿勢があまりにも強くなかったか…
 
この間、プレゼンのうまい先輩にそんなことを聞いてみたら「ああフジノ、それにはスマホで撮って自分で見てみるのが一番だね。大体、実に面白くないからさ」とのことだった。
対策は身近にあった。

吉本問題で浮き彫りになった、漫才師ナイツの“お笑い地肩”の強さ

 

吉本問題で浮き彫りになった、漫才師ナイツの“お笑い地肩”の強さ

 吉本興業の一連の問題に端を発し、「お笑いとは」「お笑い芸人とは」を考えさせられる昨今。若手からベテラン、さらには、引退した大物まで総登場する大喜劇(悲劇?)が続く中、別角度から「これぞお笑い芸人」と感服させてくれた人物がいます。関東漫才界の雄・ナイツの塙宣之さんと土屋伸之さんです。
動画削除の背景に“もう一つの”理由
 まずは7月23日、京セラドームで行われたプロ野球巨人対ヤクルト戦で「吉本いじり」の漫才を披露。この前日にあった吉本興業・岡本社長による「ぐだぐだ会見」を踏まえながら、闇営業問題で揺れる同社を痛烈に揶揄(やゆ)してみせました。
 
この様子は、翌日のワイドショーなどが映像付きで紹介。「ナイツさすが!」と話題になると、「ナイツの本気はもっとすごい」として、22日のライブで披露された「吉本興業 ジャニーズ」と題した漫才動画が一気に拡散。マセキ芸能公式サイトにアップされていた動画の再生回数は100万回を突破しました。ただ、動画はその後すぐに削除されたため、「圧力があったのでは」と臆測が流れる展開に発展したのです。
 
ナイツはこの圧力疑惑について、27日放送の「土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送」(TBSラジオ)で言及。「頭おかしいのか、マセキ芸能社!」とツッコミを入れつつ、圧力ではなく、100万回も再生されると「今後の独演会でも披露したいのにウケなくなってしまう」という理由で、自ら削除を指示したことを明かしました。
 
さて、ここまでの内容は、スポーツ紙やネットメディアなどでも報じられているため、ご存じの方も多いはず。筆者が注目したいのは、ナイツがラジオで語ったもう一つの削除理由について。こちらは、ほとんどのメディアがスルーしていました。
 
塙さん「生鮮食品と加工食品の違いです。何回見ても笑える言い間違いのネタとかは別に(拡散されても)いいんです。旬で、この時期にしかできないネタは、お刺し身と一緒で腐るから。それを(ネット上に)上げないでほしい」
 
土屋さん「ドームのお客さんに向けてやったネタだからね。それをテレビとかで流されると、間とかが違うんだよね」
 
塙さん「そりゃそうだよ。テンポが悪いと思われたら嫌じゃないですか」
 
「100万回も再生されたらウケなくなってしまう」というのは、ある意味で営業的側面。対して上記のやりとりは漫才の技術的な観点から、「ネットで何回も見てほしいネタではない」と語ったわけです。
 
独演会とテレビでテンポが異なる理由
 二人のやりとりをラジオで聞いて、筆者が以前、塙さんに漫才論についてインタビューした際にも同様の話があったことを思い出しました。ナイツの漫才DVDに収録されていた独演会での漫才と、テレビで見る漫才でテンポが違う理由を質問すると、こんな答えが返ってきたのです。
 
「漫才のスピードっていうのは『広さ』によるんですよ。だから、DVDでは(独演会場の)250人の人が一番聞き取りやすいように作っています。DVDで見る人のことを考えてネタを作ったり、しゃべったりはしていないんですよ。お金を払って舞台を見に来てくれた人のためのものなので」
 
「テレビの場合はまた違ってきて、テレビを見ている人を意識してしゃべるので、やっぱり速くなるんです(中略)漫才って、お客さんが近いか遠いかでもスピードを変えなきゃいけないんで(中略)球場の広さによってピッチングを変えるピッチャーみたいな感じですね。
 
『今日の審判はココを取るな』っていうのと一緒で、漫才も『今日はここで笑うな』っていうのが何となく分かって『じゃあ今日はスピードちょっと遅くした方がいいな』とか。ホントそんな感じです」(エキレビ!「ナイツ塙宣之に聞く」)
 
ここから見えてくるのは、ナイツがネタを披露する際には「どんな内容か」だけでなく、「どう聞かれるか」まで徹底的に計算し尽くして準備を重ねているということ。そんな二人ならば、このネタを出したら、いずれネットで話題になることすら計算しているはずです。
 
そこにあるのは、「とにかく面白いものを」という笑いへの矜持(きょうじ)であり、徹底した「お客さんファースト」の視点。だからこそ、誰にも忖度(そんたく)することなく、たとえ圧力があっても屈することはないでしょう。
 
それは、これだけ売れっ子になった今も、テレビだけでなく寄席を主戦場とするナイツだからできる芸当ともいえます。お笑いの危機が一部で叫ばれる今こそ、本当のお笑い力、笑いの地肩が試されているのかもしれません。
ライター/構成作家 オグマナオト