藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

継続の秘密

*[経営]原理を考える。
星野リゾート社長の「同族経営学」シリーズ。日経より。
ファミリービジネスというと、何だか欧米では成功しているようなイメージがあるが、それは気のせいで多分「株主と経営者」の関係がはっきりしているからだと思う。
(それにしてもアメリカのドラマでも会社の乗っ取りとか詐欺とか訴訟の話が実に多い。お金がこれほどテーマになっている現実に自分たちはそろそろ気づいてもいいと思うのだが、それはともかく)
 
星野さんの研究する「世襲経営」のアプローチは面白く「仕事(会社)への熱意」と「競争原理」をうまくバランスさせるような試みのようだ。
記事中のキッコーマンの場合には、過去の歴史で乗り越えてきた苦難を、うまく同族経営に生かしているところに感心する。さすが老舗起業。
 
それにしても同族・世襲というのはうまく行きにくい。
自分の家系もそうだが、周囲を見渡しても成功例はとんと見当たらない。
原因は(「外部環境に伴い)事業が変化し続ける必要がある」ことと「経営への熱意」にあるのだと思う。
最もそんなことより「その会社が社会にとって必要かどうか」で命運は決まる。
「事業の継続」を第一に考えるのは主客転倒というものだろう。
 
 
キッコーマン流「脱・同族」への処方箋 茂木名誉会長
1935年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、キッコーマン入社。61年米コロンビア大学経営大学院修了。キッコーマン社長兼CEO(最高経営責任者)などを経て、2011年から名誉会長(写真:栗原克己)
こんにちは。星野佳路です。小さな会社で創業家出身者が重用されるのは、無理からぬところがあります。外部から優秀な人材を採るのが難しいなか、経営の中枢を担える人材を求めれば、家業に愛着を持つ創業家に行き着くのは自然です。問題は、その企業が成長したときです。外部から入ってきた優秀な人材を、創業家出身者より軽んじれば、モチベーションなどに悪影響を及ぼします。この問題に巧みな処方箋を持つのがキッコーマンです。名誉会長の茂木友三郎さんと、同族企業における創業家出身者の処遇について考えました。
星野リゾート代表。1960年長野県生まれ。慶応大学卒業、米コーネル大学ホテル経営大学院修了。88年星野温泉旅館(現・星野リゾート)に入社。いったん退社した後、91年に復帰して社長就任(写真:鈴木愛子)

創業家内の競争システムが「ぼんくら息子問題」を解消する

星野佳路氏(以下、星野) 私たちのようなファミリービジネスの最大の弱点とされるのが、いわゆる「ぼんくら息子問題」。創業家に生まれたからというだけで、優秀でない人が経営者になることです。この問題を、キッコーマンは、独自の仕組みで回避していると聞きました。
茂木友三郎氏(以下、茂木) 私どもは現状、厳密な意味でのファミリービジネスではありません。上場していて、創業家の持ち株比率も低いですからね。ただ、私や現社長の堀切功章をはじめ、歴代社長には創業家出身者が多く、ファミリーの比重が大きかったことは確かです。
そこで、ご質問の事業承継の仕組みですが、明文化されてはいないものの、不文律として守られてきたルールがあります。キッコーマンは1917年、茂木6家と高梨、堀切家が「野田醤油」を設立したのが始まりです。今の千葉県野田市近隣の醤油醸造家8家が合併したのです。その後、創業8家の間で、次のような取り決めをしました。
第1に、創業8家から入社するのは、1世代1人に限る。第2に、創業8家出身でも役員にする保証はしない。つまり、役員や社長になれるかは入社後の働きぶり次第である。
会社設立から99年間で、13人の社長が就任しましたが、創業8家の出身者が私も含めて9人。創業8家以外の親戚が2人。まったく血縁関係のない人が2人です。ただ、創業8家の9人も、その出身はまちまちで、これまでの3世代で3人の社長を出した家はありません。2人出したのが3軒で、後の5軒は1人か0人です。

労働争議の危機がバネに

星野 なぜ、そのような不文律ができたのでしょうか。
茂木 会社設立当初の切迫した危機感と、理想に燃える気持ちが相まってのことでしょう。当時、合併を決断したのは、日本にも押し寄せていた産業の近代化の波に乗り、工場の機械化と経営の合理化を推進するためでした。その決断は吉と出て、競合他社と比べて圧倒的に近代的な工場を建設し、醸造に不可欠な発酵技術の研究もできるようになりました。こうして醤油の世界に、日本でほぼ初めてのナショナルブランドをつくる端緒を開いたのです。
一方で、多くの労働者が働く私たちの工場は、当時、勃興しつつあった労働運動の格好のターゲットにもなりました。特に27年に起きたストライキ218日間続いた壮絶なもので、のちに米国の大学でも研究対象になったと聞いています。
このような苛酷な経験を経て、経営陣は「創業8家が一致団結しなくては」という危機感を強めました。さらに「マネジメントの近代化を推し進めよう」という共通の目標を持つことができました。そこから生まれたのが、前述した実力本位の事業承継のルールです。
星野 創業家に生まれても、相当な競争を勝ち抜かなくては、役員にもなれないのですね。
茂木 だから、どこの家も子供の教育には熱心です。だからといって、特別なことをするわけではありません。「同族企業の帝王学」を授けるのでなく、「立派な大人に育てる方法」に心を砕くのです。
星野 茂木会長は、ご家庭でどんな教育を受けたのでしょう?
茂木 質素なものでしたよ。特に、我が家の場合、父はもともと創業8家とは無関係の人でした。東京商科大学(現一橋大学)を卒業した後、縁あって野田醤油に入社し、茂木家の婿養子になったのです。しかし、父を婿養子にした祖父も社長ではありませんでしたから、母は「社長令嬢」といった華やかさとは無縁。私が子供のころ、父は周囲から「課長さん」「部長さん」と呼ばれていて、いかにもサラリーマン家庭の風情でした。ただ教育には熱心で、いつのころからか何となく、創業8家のルールも教わりました。
成功しているファミリービジネスの一族で、恵まれた境遇にいる子供は、悪い遊びであるとか、誘惑が多いものです。だからこそ質素に、ごく普通の教育をすることが重要ではないでしょうか。

「優秀な子」を巡る競争

――創業8家に子供が複数いる家庭がある場合、キッコーマンに入る1人をどう選ぶのですか。
茂木 各家の選択です。しかし、通常は長男を入社させます。ただ、私の弟は金融業界で働いた後、跡取りがいない別の創業8家の養子になってキッコーマンに入り、副会長まで務めました。これは少し珍しいパターンですが、私の父をはじめ、婿養子を入社させる例は多くありました。
星野 奇しくも私は、実の息子より婿養子の跡取りの方が成功する確率が高いことを、統計分析から明らかにした論文を読んだばかりです。
茂木 まあ、大人として出来上がった姿を見て選ぶのですから、一番、確実かもしれませんね。
星野 それが娘の結婚相手として適した人物か、という問題は残ると思いますが(笑)。ところで、今後のキッコーマンでは、創業家と血縁関係のない社長が増えるとは思いませんか。
茂木 何とも言えません。創業8家がこれから、どれだけ優秀な人材を出せるか。そしてキッコーマンが外部から、どれだけの人材を取り込めるか。この2つのバランス次第で、せめぎあいです。
星野 しかし、失礼ながら、大正時代に遡る会社設立時と比べたら、御社の存在は、はるかに大きなものになっています。キッコーマンは今や、グローバルブランドになりつつあります。だから、外部から入ってくる人材も、圧倒的に優秀になっていて、その分、ファミリー出身者の社内での競争環境は厳しくなっているはずです。
茂木 確かに、創業8家と血縁関係のない社長2人が出たのは、2002年に指名委員会を立ち上げた後で、比較的、新しいことです。初の創業家出身でない社長は当時、社外取締役2人を含めた3人が指名委員会を構成し、約2年かけて候補者をスクリーニングしました。ただ、創業8家出身の現社長も同じ方法で選ばれています。
星野 興味深い。キッコーマンの仕組みが素晴らしいのは、小さな会社が、大きくなっていく過程で、緩やかに、かつ健全な形で、同族経営を脱皮していけることではないでしょうか。もともと同族のメンバー同士が競争する仕組みがあるので、その競争の輪に外部の人材を巻き込んでいくことで、自然な形で同族色が薄まり、トランジション(移行)が進む。私は、そう感じるのですが。

「脱・同族」を賞賛しない

茂木 それはどうでしょう。今後、キッコーマンで、同族の関与が薄まるのは確かだろうと、私も思います。けれど、「薄めなければならない」というわけでもなければ、「薄めるのが格好いい」ということでもないでしょう。
ファミリーの出身者には、会社に対する、非常に強い帰属意識と思い入れがあります。能力がほぼ同等なら、外部の人材よりファミリー出身者のほうが、経営者に向く可能性は否定できません。
星野 なるほど、選択肢としてしっかり持っておくべきであると。
茂木 本人が「絶対に嫌だ」「ほかにやりたいことがある」というならさておき、「いっちょ、やってやろうか」ということなら、あえて排除することはありません。会社にも株主にも資するはずです。
星野 けれど、それはやはり会社がまだ小さく、優秀な人材の確保が難しい時期のことではないでしょうか。今の御社はもう、その時期を脱しているように思えます。
茂木 確かに優秀な若者たちが入社しています。しかし、星野さん。キッコーマンが比較的、いい人材を確保できた時期を私が挙げるなら、今より、むしろ1950.60年代だったかもしれません。
星野 そうなのですか。
茂木 あのころは、経済社会の中における食品製造業の社会的ステータスが比較的、高かったからです。特に、技術者には恵まれました。世界的なバイオ技術の研究をしているような人材が、入社してくれました。それに対して、今は優秀な理系の人材は、IT(情報技術)分野などに流れがちです。
星野 なるほど、規模の問題だけでもないのですね。けれど例えば、海外の人材はどうですか。
茂木 これから期待したいところです。今では、営業利益の7割以上を海外で上げていますから、米国あたりから優秀な人材が入って、経営を担うといった展開もあっていい。それでもやはり、創業家出身者という選択肢は残しておくべきだと、私は考えます。
[書籍「星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書」から再構成]

星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書

著者 : 小野田鶴, 日経トップリーダー
出版 : 日経BP
価格 : 1,980円 (税込み)
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