藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

現実とのかい離。


最近、IT業界でも「派遣スタッフ」の扱いが物議を醸している。
これまでは柔軟な「調整要員」として機能してきた派遣のスタッフが、急に「固定スタッフ化」して当惑している会社も多い。
「専門26業種」というカテゴリーが設けられているが、それも明確に分けるのは容易ではない。


「雇う側」と「働く側」の適正な合意、がもっとも大事なのだと思うが、今の現状はもう「法律ありき」で、実際に「どこでどう働いてもらいたいか」という話は後回しの様相である。


結果、実務はどう推移しているか。
経営者たちは皆、「短期間での派遣契約」に注意を払い、「長い契約を敬遠している」のが実態のようである。
国の思惑は「派遣社員の常雇用化」なのだろうが、人件費の固定化を避けたい企業の側は、「それ」を避ける方向にしか動かない。


本筋では「派遣のスタッフを出来るだけ長く雇用する」ということなのだと思うと、国の規制は「ま反対」に機能していると思う。


雇用を強制するのではなく、より「柔軟に働いてもらえる環境」にした方が、働く側にとっても絶対有利だと思うのだが、それがなかなか政治家にはわからないようである。
政治の導きによって、ビジネスの現場も揺れている。


ともかく、日本の会社として「力を失わない」ようなルール作りを望みたい。


派遣労働、規制強化で混乱する現場
連立政権のもとで派遣労働に対する規制強化に拍車がかかり、派遣社員や受け入れ先企業などが振り回されている。
規制対象から外れている「専門業務」でも民主党が「政治主導」で監視を強化。
これまで認められていた業務を「違反」と判定して行政処分に踏み切る事例も目立つ。
強まる一方の包囲網のもとで派遣労働市場の先行きは不透明さを増している。


「私は派遣社員として働き続けたい。これまで自分の仕事は専門業務とされ、派遣先企業にも気に入ってもらっていたはず。
突然、専門業務と認められなくなり、受け入れを継続できなくなったと通告されたのは納得できない」。


日本人材派遣協会の相談センター(東京・千代田)に最近、こんな相談を持ちかける人が増えている。
水野快二・相談センター長は「法律が変わったわけではないのに行政が解釈を改め、混乱を招いている」と疑問を呈する。


派遣の専門業務とは、事務用機器の操作、通訳、広告デザイン、研究開発など専門性が高いと国が認める業務。
政令で26種類を指定しており、現時点で派遣労働者過半数を占める。
一般事務など通常の業務では受け入れ企業側に「原則1年、最長3年」の期間制限を課しているが、専門業務に関しては制限を免除している。


連立与党が問題にしてきたのは、仕事があるときだけ派遣会社と契約を結ぶ登録型派遣や、2004年に解禁された製造業への派遣など。
いわゆる「派遣切り」の対象になりやすいと判断し、改正法案に「原則禁止」の規定を盛り込んだ。
法案は国会で継続審議となり、参院選後の取り扱いに経済界などは注目している。
一方、専門業務に携わる派遣社員は長期間、受け入れられている場合が多く、改正案でも現状維持の扱いだ。


突然の行政指導

ところが、派遣という働き方そのものを問題視している感もある民主党は国会での議論もないままに今春、「専門26業務派遣適正化プラン」を打ち出した。
規制の対象外であることを悪用し、実際には専門性がない業務なのに26業務として受け入れている事例が多いのではないか――。
長妻昭厚生労働相はこう指摘し、都道府県の労働局を通じて派遣会社や受け入れ先企業などを立ち入り検査し、「違反事例」を相次ぎ摘発した。


厚労相の主張は正論ではあるが、「法律は変わらないのに突然、専門業務の解釈を改めて派遣会社をやり玉にあげるのは民主党のパフォーマンスそのものだ」(大手派遣会社幹部)と憤る声は多い。

Q 会議での議論を録音しておき、その音声を文字に書き直す作業は第6号業務のうち速記の業務に該当するか。

A 「速記」は人の話を速記符号で書き取り、一般の人々に読めるよう書き直す業務であるので、録音した音声を速記符号で書き取らないのであれば第6号業務には該当しない。

厚生労働省がこのほど公表した「専門26業務に関する疑義応答集」と題するQ&A集の一節だ。
26業務について解釈のブレをなくすためのガイドの位置づけだが、「なぜこの時期に出したのか」と首をかしげる関係者は多い。
専門業務の中でも最も派遣人数が多い「事務用機器の操作」の項目では、「文書作成ソフトを用い、文字の入力のみならず、編集、加工などを行い、レイアウトなどを考えながら文書を作成する業務」などと細かく指定している。
文書で細かく規定すればするほど派遣会社や受け入れ企業は手足を縛られる。


政治主導による包囲網に対しては労働組合の中にも異論が広がっている。
流通や外食などの労組で構成するUIゼンセン同盟に属する人材サービスゼネラルユニオン(JSGU)は派遣労働者の組合。
同ユニオン幹部は「専門業務への行政指導は寝耳に水。
26業務がどうあるべきかは国会できちんと議論し、制度改正が必要かどうかを判断すべきだ」と主張する。


派遣労働者、100万人割れ目前に
26の専門業務以外でも、法改正を見越した格好で現場の混乱は続いている。
連立与党の動きに最も敏感に反応し、右往左往しているのは企業だ。
従業員数が約200人の、あるプレス加工メーカーは、液晶テレビの組み立てラインに4月下旬に10人、5月下旬にさらに5人の派遣社員を受け入れた。
生産の増加に対応するためだが、契約期間は2カ月にとどめた。
景気の先行きが不透明なのに加え、派遣への規制強化の動きが気になるからだ。


派遣労働市場はこの先、どうなるのだろうか。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が昨年秋、上場企業を対象に実施したアンケート調査によると、「景気が回復した時点で派遣労働者を増やす」との回答は事務系で8.2%、技術系14.3%にとどまった。

 
同機構調査・解析部の郡司正人主任調査員は「派遣労働には勤務地や職種を転換しやすい利点がある。
派遣社員の中には正社員になりたい人もいれば、派遣のままを望む人もいる。
派遣への規制強化は労働移動を停滞させる可能性がある」と指摘する。


厚生労働省の調べによると、6月1日時点の派遣労働者数は1年前に比べ46.3%減の約108万人。
このうち、製造業派遣など改正案で禁止の対象になる人は約18万人。
大手メーカーなどは法改正を待たずに派遣労働を請負契約などに切り替えており、近く100万人を割り込むのは確実な情勢だ。
「労使双方に派遣労働へのニーズがある限り、派遣市場がなくなることはない」(郡司氏)との見方は多いが、今後1〜2年でさらに半減すると予測する向きもある。


日本総合研究所の山田久主席研究員が思い描く理想の労働市場は「柔軟性」「公平性」「保障性」の3要素を満たす市場。
民主党は「保障性」を優先するあまり、「柔軟性」と「公平性」を犠牲にしていると見る。
「現在の改正案では派遣労働の幅を狭くしてしまう。
日本の労働市場の将来像を踏まえると、今、必要なのは全く逆の発想。
派遣労働の業務の幅を広げ、直接雇用の社員との間で相互に転換しやすくする改革が欠かせない」。


民主、参院選公約から「派遣」の項目はずす

派遣への規制強化に突っ走ってきた民主党だが、不可解な動きもある。
民主党は昨年の衆院選マニフェスト政権公約)で派遣労働への規制強化をうたっていたが、参院選マニフェストからはその記述は消えた。
派遣への規制強化がもたらす弊害に気づいたのか、それとも、派遣規制を強硬に主張してきた社民党の連立離脱を受けた政治判断なのか。
民主党の真意は定かではないが、明確な説明を避けているうちに、派遣社員たちの居場所は日を追うごとに減っている。

(電子報道部 前田裕之)