藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

御坊の矜持。


イオンの葬儀事業進出が関係業界に波紋を呼んでいる。
「業界団体」というもののいつものの習わしで、彼らは常に「新しい自由化」に反発する。
なぜなら、それはそれまでそこで「甘えて」いたからに他ならない。


こういう時に色んな理由をつけて「値段表などを公表しては『仏教本来の精神を踏みにじる』とお怒りなのは全日本仏教会の重鎮の方々。
似た構図は建築とか、第三セクター天下り、とか官庁の随意契約とか、弁護士会、とか「業界団体」の体臭と言ってよい。
少なくとも(例えば比較的最近できた団体である)日本ソフトウェア産業協会などで、「料金表を表示するな」と言う人など一人もいない。

まず、顧客の声を聞くこと


商売、という表現がいやならば、「対人サービスの基本」とでも言えばいいだろうか。
宗教の「本筋にきちんと沿っている」と信者たちが思えば、自ずと葬儀代にせよ戒名料にせよ、お布施にせよ
すんなり払うだろう。
少々高かろうが納得すれば、それも信心なのは言うまでもない。
その得心が得られていないこと、は業界が襟を正して傾聴せねばならぬ重大な事実である。
納得のいかない料金を払って、それで信心が叶う、というのは本末転倒である。
したがって、宗教界は「信心をこころがける」ということを至上命題とし、その教義を敷衍することに心血を注がねばならない。
値段表など明らかになっても、信仰心があれば別に動じることはない。
もし値段表で「安物志向」な人がいたら、彼は信心が足らない(または講話が足りない)ということである。
そしてもちろん「そんなこと」はこと宗教に限らない。

そして、営み努力を怠らぬこと


あえて「営業」とは言うまい。
そう言えば法律業界も「営業」という言葉を使うと、露骨に嫌悪の意をあらわにする人はまだまだ多い。
法曹は「正義の職業だから」というのだが、そこで営業という言葉に抵抗する人ほど、どこかしら「邪(よこしま)」な価値観を持っているのは、肌で感じる事実である。
それはともかく、宗教界も。
信者や檀家が信心しているか、あるいは先祖の法要などに満足しているか、それを心がけるのは立派な営業努力である。
檀家の人が亡くなった際に、値段表をゴニョゴニョ言うのが営業ではないだろう。
自分も身内が亡くなった折には葬儀業者の対応には驚いたものである。
一生に何度も直面することではない故、ゆっくり検討もせずにあれこれ決めねばならないのだが、十分な説明と検討の上で故人の弔いができる状況ではなかった。

こういった摩擦が起きる、というその事実を「団体」とか「組織」は最大に"重く"受け止めねばならない。

このような事態が起きた時には、相当に自らの組織が陳腐化し、内向きになり、保護主義に染まって「壊死」が始まっていることを知らねばならない。
自分自身がもっとも早く気付かねばならないのである。
規制緩和や透明化の動きに反目するのではなく、「本筋に何が足りないかを考える力」つまり"客観"を備えている組織だけが、「自らを変化させて」生き残ってゆくのである。

こと我われは「新しいこと」に直感的に「批判眼」が出てきたら、自らの保身、老害を疑うべきなのである。

<asahil.comより>

明瞭会計の葬儀事業に僧侶異議 「言い値」放置に苦情も


大手スーパーのイオンが昨秋、「安心の明瞭(めいりょう)会計」をうたい、葬儀事業を始めたが、これに僧侶らが「仏教本来の精神を踏みにじった」と異議を唱えている。
寄付金であるお布施や戒名料などを定額料金のようにホームページで表示したことに対し、伝統仏教教団でつくる全日本仏教会(全日仏)が反発。
イオンは削除に応じた。ビジネスと仏事のはざまで葬式が揺れている。


「お布施はシステム化になじまない。遺族それぞれに寄り添う変動相場制であるべきだ。(イオンは)もっとおとなしくやっていただきたい」
全日仏が東京・秋葉原で13日に開いたシンポジウム。
パネリストの一人、僧侶で作家の玄侑(げんゆう)宗久さんは、こんな不快感を示した。

イオンがクレジットカード契約者を対象に、葬儀事業に乗り出したのは昨年9月。
全国約400社の葬儀業者と提携し、コールセンターに電話をすれば近くの業者を紹介する。全国共通の標準価格をもとに、棺や骨つぼなど費用の細目をすべて公開している。


今年5月には、僧侶の派遣をあっせんするサービスも始めた。
「お布施の目安」は、戒名のランクなどに応じて10万円、25万円、40万円、55万円。ホームページに表示し、「8宗派の約600カ寺と連携」とも宣伝していた。


全日仏は「僧侶への『ギャラ』のように表示され、寺が戒名を売買している印象も与える」などと反発。
表示をやめるよう、6月から申し入れていた。
戸松義晴(とまつ・よしはる)事務総長は「お布施という信仰の核心部分まで商品化された。この一線を越えられると、葬儀が仏教儀式として成り立たなくなる」と危機感を募らせる。


数回の話し合いの末、イオンは今月上旬、ホームページから「お布施の目安」を削除した。
ただし、コールセンターでは口頭で伝えている。


全日仏が神経質になるのは、数百万円に上る高額の戒名料やお布施の不明確な経理がバブル期から批判されてきたからだ。
全日仏は2000年に戒名に関する報告書をまとめ、「一部に高額な請求をする僧侶がいる」と認めた上で、「今後、『戒名料』という表現は用いない」「戒名は売買の対象ではない」などと表明していた。


とはいえ、具体的な改善策を示してきたわけではなく、全日仏には「僧侶はきれいごとを言い、実際には戒名を売りつけている」と怒りの声が寄せられているという。
国民生活センターによると、葬儀に関する相談は09年度は全国で544件。
05年度の約1.5倍に上る。特にお布施や戒名料に関する相談が目立つ。


イオンから提携を打診された溝口祭典(東京都八王子市)の担当者は「知れば不信感はなくなる」と、希望者にお布施や戒名の意味を事前に説明している。
一方、京都府内の葬儀業者は「お布施は遺族の経済力などで決まる」とイオンに批判的ながら、お布施の額は「僧侶の言い値という面はあった」。
イオンの担当者も「お布施の目安を知りたい声は多い」と、消費者ニーズに応えたサービスだと強調する。

 全日仏は「もはや問題を先送りできない」と、よりよい葬儀のあり方について全国の葬儀業者らと話し合う方針を示している。(岡見理沙、編集委員・森本俊司)

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 「葬式は、要らない」「戒名」などの著作がある宗教学者島田裕巳さんの話 
全国展開を急ぐあまり、地域差がある葬儀を画一化しかねないイオンのやり方には疑問を感じる。
一方で、戒名のランク付けのほか、普段つきあいがないにもかかわらず戒名をつけてきた仏教界の矛盾もあらわになった。
不況の折、高額の葬式や墓地費用は家計を圧迫している。
葬儀のどこに問題があるのかを考えるよい機会だ。

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 〈全日本仏教会〉 天台宗や浄土宗など伝統仏教の約60宗派と京都仏教会など各地の仏教会でつくる財団法人。
1957年に発足し、東京都港区に事務局を置く。約100団体の連合組織で全国7万5千の寺院の大半が所属している。