藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ただそれだけ。


辻井さんの少年期についてのコラム。

そこで父は、涙ぐみながら「大好物のおすしを自分の力で腹いっぱい食べられるようになってほしい。それだけが願いです。」と言いました。


期待に応えられるようにもっともっと頑張ろう、という気持ちがあふれてきました。

これだけ、である。
親が子に言いたいこと。
集約するとこういうことになる。


別に勉強なんかどうでもいい。
そんなことより健康だ。
けれど。
それでも勉強したり、あいさつしたり、危険なことはするな、門限を守れ、とか、親がつい色々口うるさいのは「子の自立」が心配なだけである。

自分の好きなものが、自分の力でお腹一杯に食べられるようになる。

究極的にはそんなこと。
あまりそれ以上、を望まなくていいし、でも「その位」の力はつけて欲しい。
なにより、「その位」でも結構大変なのである。
好きなものを食べるのに、親の財産に頼っていては、その「財産が尽きた時」に惨めな気持ちになるだろう。
その時に己の力を知るのではなく、自立していて欲しい。
辻井氏の父君のまっすぐな思いが寸鉄となり、心へ刺さった。

そして世界に通用するピアニストになり、父を世界旅行に連れて行ったり、ごちそうしたりしたいです。
もし彼女ができたら、恋愛の相談もしてみたいですね。

もうこうなれば親としては至福。
ゴールを迎えたようなものである。


それでもまた色々あるのが人生だけど。



「勉強を」昔反発いま目標 辻井伸行さん

父は産婦人科医で、音楽は苦手なほう。
ピアノの話はほとんどしません。
うまくいった演奏会の後など、僕と母がはしゃいでいても、父はいつも冷静です。
僕も父も食べることが好きで、2人ですし屋やうなぎ屋に行きますが、話すことは「今日のネタは何があるかな」とか「白焼きどんな感じだろうね」とか。ピアノの話題にはなりませんね。


僕は小さい頃から大好きなピアノを弾いてばかり。
「ピアノもいいけれど、もっと勉強しないと将来困るよ」とたびたび言われました。
7歳でコンクールに優勝した時も、大喜びの僕と母に「上には上がいる。落ち着いて地道に努力しなさい」と。


中学生の頃は反抗しました。「本を読みなさい」「勉強しなさい」と言われるたび、「うるさいなあ、分かってるよ」と口答え。
父が怒鳴り僕も逆切れして怒鳴り、母が「まあまあ」とおさめる感じでしたね。


17歳のショパンコンクールの後、応援してくれる人たちと進路を考える会がありました。
そこで父は、涙ぐみながら「大好物のおすしを自分の力で腹いっぱい食べられるようになってほしい。
それだけが願いです」と言いました。
期待に応えられるようにもっともっと頑張ろう、という気持ちがあふれてきました。


その頃、父と川沿いを散歩していた時のことを「川のささやき」という曲にしました。
並んで歩きながら何かこう、今まで一生懸命に僕を育ててくれたんだという感謝の思いがあふれてきたんです。
言うのは照れくさいけれど曲で表現するのは得意なので、川の光景だけではなく父への思いも曲に込めました。


このごろ、ピアノ以外のことももっと勉強したい気持ちが強くなりました。
あれだけ反発した父の言葉そのものですね。
好きな水泳やスキーや登山もやりたいし、美術館や演奏会に行くなど、いろんな体験を積んで演奏に磨きをかけたい。
そして世界に通用するピアニストになり、父を世界旅行に連れて行ったり、ごちそうしたりしたいです。
もし彼女ができたら、恋愛の相談もしてみたいですね。(聞き手・三島あずさ)