都営大江戸線某駅。
そういえば、ひと昔とはずい分様変わりである。
「半数以上の人」たちが携帯電話をさわっている。
そして、物を食べている人が数人いる。
おにぎりをパクパク。
ポテトチップをつまみながらマンガを読む少女。
パリパリ。(美味しそうだ)
サンドイッチを食べながら、スタバの珈琲をすする本格派。
もぐもぐ、ズズーッ。
もう人前で、交通機関で「物を食べること」はそれほど恥ずかしくない行為のようである。
でも電車で茹で卵、とか食べるのは勇気がいるだろうな。などと思う。
とそこで、新人と思しきOL風(ふるっ!)の女性が、辺りをキョロキョロしている。
何かいな、と思ったら駅に停まって立ち上がった乗客の空きシートへダッシュ。
なんだ空席さがしか。
と思いきや、途端に大きなバッグから七つ道具を取り出す。
ハガキ大の鏡、化粧水のピン、髪を束ねるゴム。
サッサッと髪を上げ、まずは化粧水をコットンに落とし、顔にヒタヒタ。
それから薄めのファンデーションを塗りぬり。
うわー、あんなにメリケン粉みたいなものを顔に塗るのか、とちょっと驚く。
さらに(恐らく)濃いめの頬紅のようなものと、大きな刷毛が登場。
そういえば百貨店の一階で見たことがあるな、と思い出す。
頬を刷毛でパサパサして顔に陰影がつく。
なるほど。
顔に起伏が現れている。
次は目まわり。
眉毛に、筆のようなもので重ね書き。
揺れる電車の中で、鏡を見つつ、フリーハンドでよくも見事に書けるものだと感心。
右と左がちょっと傾きがちぐはぐだったが、見事に太眉が描かれてゆく。
眉が太くなると、気が強くなったような印象になるのだ。
キリっ。
そして目。
目の縁を細い筆でなぞり、黒い縁取りを付けてゆく。
歌舞伎の隈取りのようで、マンガのキャラクターよろしく、目の縁のあるなしでこれほど印象が変わるとは、とまたまた驚く。よーーーっ!
つぎに
まつ毛を「くるん」と持ちあげるハサミのような器具で、ガシっと両目のまつ毛を挟んで持ち上げ、マスカラを塗りぬり。
目は見違えたように「カッ」とした感じに。
目ヂカラがついている。
と、ここまでじっと様子を見ていたら、ついにこちらを向いて「何見てんのよ!」と言わんばかりの視線。
あわてて目を逸らす。
その後は唇へと何種類かの手入れがなされたようだけれど、詳細は見られなかった。
束ねた髪を下ろした彼女は別人の態である。
そしてその彼女、六本木駅に着く直前に電話が鳴る。
"ハイハイ、今駅で向かってるから。うん、もう顔作ったからサ、大丈夫。"
そう、顔は作るものだったのだ。