藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

思索の勝利。

asahi.comフロントランナーセレクションより。

上には上がいるものである。
よく自分なども「もっと深く考えよ」と人に言う。
言うが始め、で自分などはよほど深く思考している、と勝手に思い込んでいるフシがある。
本当にそれほどのものか? と思うとゾッとするが記事を読んで本当にそう思った。
西松屋、と聞いても全く知らず。
けれど子供向け衣料の量販店、というおよそ成長性を感じない分野で信じられない実績を叩き出している。
記事の中にある経営の方針やモノの分析思考だけでも、何度も目からウロコが落ちた。

「誰にの目にも見える事実」を取ってしても、それを「どのように見立てて、解釈し、実践するのか」ということは実に奥が深いものだと実感した。
これからは高齢化社会だから、とか金融の次は、とか少子化の先には・・・などとしたり顔で話している普段の自分が実に気恥かしい思いである。
まだまだ思慮が足りない。

理論と実践。

京都大から山陽特殊鋼を経て細君の実家の家業に転職したという大村社長。
その言葉はちまたの効率化経営、の語彙とは一線を画す。
その言葉を点々と見てみると、「ぎゅうぎゅう詰めて利益を出そう」という効率化経営とは正反対の視点が窺える。
徹底的な顧客目線といえばいいだろうか。

「同じ商品を扱い、同じ売り上げ規模の店を、全国津々浦々に淡々とつくる。誰でも車で20分も走れば店に着き、同じ商品を買えるのが理想」

「1店の年間売り上げ1億6〜8千万円が目安。2億5千万円程度になったら近くに店を出し、客を減らす。店を増やし、地域のシェアを拡大します。逆算すると、1日の客数はあくまで平均だが175人程度、1時間17.5人程度がちょうどいい。お客さんの平均滞在時間は20分だから、一通路に常時1、2組いるかどうか」

(1店舗の)常駐はパート2人だけだ。

姫路市内の本部で、全国の店舗を映像でチェックする責任者は「レイアウトマン」と呼ばれ、5人しかいない。

店内のレイアウト、陳列の均一化を進めてきた結果、全国829店舗のほぼ8割が660平方メートルの、まったく同じ「標準店舗」になった。だから彼らが毎週、店舗に流す陳列や演出に関する写真つき指示メールは、限られたパターンですむことになる。さらに、近距離出店で、店長が複数店をかけもつケースも多い。

「セルフサービスが最高のサービスだ」と考えています。つまり、お客さんの来店時に、すでに全てがサービスされている状態が理想です。商品選びに迷いすぎないよう品目数も適度におさえ、陳列方式、売り場表示、商品案内などすべてを完璧にしたい。そうすれば、お客さんに何の疑問もわかせることなく、ゆったりと買い物をしていただける。

合理化を極めたローコスト運営の半面で、サービス産業生産性協議会が調べた衣料品部門の「顧客満足度調査」では2年連続1位だった。

どのような経営計画も、決して"顧客の利便性"という金科玉条を侵さない。
顧客サポートを外部のコールセンターに委託して「つながらない電話回線」に押し込めてしまう昨今のメーカーの手法とはまったく考え方が異なる。
「縮小する子供関連市場だが、同様な積極出店で追うチェーンや、ユニクロなど競争相手は増えている。」という。
決して安寧で恵まれたマーケテットではないのである。
さらに、小売り店舗の採算についての考え方もユニークである。

年間売り上げが1店2億5千万円程度の規模になると、利益は出ますが、人件費、家賃、販促費などがかさんでくる傾向があり、2店目を出店するほうが売り上げも利益ものばせます。だから、すいた店に戻すのです。近くに店ができればお客さんも便利です。

「売上規模×販管(人件)費×顧客満足」が最大になる地点を探る、非常にシステマティックな試行である。
さらっと話しているところが恐ろしい。
さらに、マーケットへの対峙姿勢も抜かりない。

我々の市場は、子供服関係で1兆円、ベビーカーやおもちゃなど育児雑貨で1兆円、合計2兆円と言われています。1200億円の売り上げでは、金額でのシェアはまだ5、6%しかない。目標は1千店でしたが、約1億3千万人の日本の人口を、商圏10万人で設定すれば1300店舗が可能です。少し小さめな商圏を考えれば、1500店舗できる。今後も出店して、シェアを獲得する方針に変わりはありません。

全てが数学的というか、分析的というか、理路整然と言うか。
記事は言う。

27年前、米国のチェーンストア研究で名高い故渥美俊一氏の本を読み、「これは壮大なシステム産業なのだ」と感銘した30歳の青年。経営者として突き詰めてきたシステムの「最適化」で、今後も乗り切れるだろうか。

西松屋チェーンだけでなく小売業全般には、生産性を向上させるために仕事のやり方を変えるという発想がほとんどないように思いました。仕事に慣れるに従い、ムダを改善すれば生産性があがると考え始めました。

この考え方は小売りチェーンに限るまい、と思う。
何よりも驚いたのは、巷のマーケティング理論とは一線を画すオリジナリティと実践の力である。
それを大村社長は「仮説-実験-検証」と極めて普遍的な言葉で説明する。
その様子は武道の名人が、「稽古の基本をごく簡単な言葉で語る」姿にどこか似ている。

つくづく常識があり、「当たり前の手法が定石となっている分野」にも新しい考え方と工夫があるものだ、と感嘆した。
自分はまだ全然思考が足りない。

第101回 西松屋チェーン社長 大村義史さん
日本中にガラガラ店を

Tシャツ299円、トレーナー479円。成長してすぐ着られなくなる子供向けに、必要十分な品質で、低価格な品をそろえる。ベビー食品、おもちゃなど育児用品全般を売る全国チェーンだ。
京都大学の大学院で工学の修士課程を終え、1979年に山陽特殊製鋼に入社。85年に西松屋チェーンの創業者だった妻の父に口説かれ、転職した。当時の年商は33億円。今や約1200億円を売り上げ、業界首位を走る。
店舗を増やすことで、売り上げ・利益を最大限にする――その方針はシンプルだ。85年には本社のある兵庫県中心に25店だけだったのに、2012年12月には829店へ拡大した。ウサギのトレードマークを掲げた店はいま、北海道から沖縄県宮古島市まで、全国を網羅している。
「同じ商品を扱い、同じ売り上げ規模の店を、全国津々浦々に淡々とつくる。誰でも車で20分も走れば店に着き、同じ商品を買えるのが理想」
17期連続増収。業績と積極出店からは、店の繁盛ぶりが目に浮かぶ。だが、出店戦略はよく、「ガラガラ経営(店舗)」という意外な言葉で形容される。どの店も「すいている状態を保つ」からだ。
「1店の年間売り上げ1億6〜8千万円が目安。2億5千万円程度になったら近くに店を出し、客を減らす。店を増やし、地域のシェアを拡大します。逆算すると、1日の客数はあくまで平均だが175人程度、1時間17.5人程度がちょうどいい。お客さんの平均滞在時間は20分だから、一通路に常時1、2組いるかどうか」
本当にガラガラなのか。
11月中旬午後2〜6時、埼玉県の越谷、草加、八潮3市内にある6店を回った。各店の距離は車で20分以内だ。
母親が抱く乳児も含め、客が最も少ないのは八潮店で5組9人、最も多かったのは越谷レイクタウン店の16組33人。広さ約660平方メートルタイプが中心の店内は平日とはいえ、ガラガラで、右の写真のような状態なのだった。
「すいているほうがお客さんは落ち着いて買い物ができて満足するし、従業員も働きやすいからいいんです」
ガラガラに見えても利益を生む理由は、効率的で生産性の高いシステムにあった。
まず比較的安い土地を選ぶ。店内はセルフサービスが基本。客が商品取り棒で高い場所の品をとると、後ろの商品が傾斜フックで下がる。陳列品整理の手間がはぶける。常駐はパート2人だけだ。
姫路市内の本部で、全国の店舗を映像でチェックする責任者は「レイアウトマン」と呼ばれ、5人しかいない。
店内のレイアウト、陳列の均一化を進めてきた結果、全国829店舗のほぼ8割が660平方メートルの、まったく同じ「標準店舗」になった。だから彼らが毎週、店舗に流す陳列や演出に関する写真つき指示メールは、限られたパターンですむことになる。さらに、近距離出店で、店長が複数店をかけもつケースも多い。
合理化を極めたローコスト運営の半面で、サービス産業生産性協議会が調べた衣料品部門の「顧客満足度調査」では2年連続1位だった。
少子化で縮小する子供関連市場だが、同様な積極出店で追うチェーンや、ユニクロなど競争相手は増えている。
27年前、米国のチェーンストア研究で名高い故渥美俊一氏の本を読み、「これは壮大なシステム産業なのだ」と感銘した30歳の青年。経営者として突き詰めてきたシステムの「最適化」で、今後も乗り切れるだろうか。


大村禎史さん 「セルフサービスが最高のサービス」――鉄鋼業から子供服の小売りへの、畑違いの転職でした。
全国の店舗地図を背に語る=兵庫県姫路市
激しい競争にさらされていた当時の鉄鋼業は、合理化、コスト削減に向け必死で、仕事の手順を改善すること自体が重要な仕事でした。それに比べ、西松屋チェーンだけでなく小売業全般には、生産性を向上させるために仕事のやり方を変えるという発想がほとんどないように思いました。仕事に慣れるに従い、ムダを改善すれば生産性があがると考え始めました。
――どんなふうな改善を手がけられたのですか。
一例を挙げると、ワゴンセールです。ワゴンに、袋の中に入ったTシャツやトレーナーを並べ、集客の目玉にするのですが、デザインや素材がよくわからないからお客さんは袋から出して見ることになる。店員はそれを袋に詰め直して、そのうちくしゃくしゃになる。しかも、ワゴンの上の空間と下の空間がムダになってスペース効率も悪い。お客さんにも従業員にも、効率が悪くムダで、袋から出してハンガーにかけたほうがいいと考えました。
ワゴンは撤去――社内からの反対の声は。
「ワゴンを撤去すれば売り上げが落ちる」という声はありましたが、根拠はありません。誰かが始めたことが慣習で続いているだけなんです。ある店舗で改善してみて数字があがれば、納得できる。そうして店舗改革を、「仮説―実験―検証」という手法・手順で進めました。
――今は829店のうち約8割が、広さも同じ、陳列も全く同じという店舗だそうですね。
ほぼ5年かけて、現在の「標準店舗」の形に変えました。まずワゴンを撤去して「島陳列」をやめ、直線通路をつくる。高さ3メートルまで商品を陳列すれば、通路から一目で商品が見られます。直線通路の幅は、ベビーカーが3台すれ違えるように、一般のスーパーより幅広い2.7メートルにしました。ムダをなくし効率化する作業が、お客さんの利便性も高めるような改善を進めてきたつもりです。
――では、接客をしないというのはなぜでしょうか。
「セルフサービスが最高のサービスだ」と考えています。つまり、お客さんの来店時に、すでに全てがサービスされている状態が理想です。商品選びに迷いすぎないよう品目数も適度におさえ、陳列方式、売り場表示、商品案内などすべてを完璧にしたい。そうすれば、お客さんに何の疑問もわかせることなく、ゆったりと買い物をしていただける。まだ、そこまでは達していませんから、質問が出ますし、それにはすぐに対応させています。接客を始めるとキリがないし、もちろん、人件費もかかって結果的に売価をあげてしまうことにつながりかねません。

さらに出店――平均とはいえ1日の客数が175人程度だと、店が本当に「ガラガラ」だと感じました。
年間売り上げが1店2億5千万円程度の規模になると、利益は出ますが、人件費、家賃、販促費などがかさんでくる傾向があり、2店目を出店するほうが売り上げも利益ものばせます。だから、すいた店に戻すのです。近くに店ができればお客さんも便利です。
――出店するのは郊外の土地が多いですね。
家賃が高い一等地は選びません。お母さんドライバーが、右折して駐車場に入りにくい通行量の多い幹線道路も避け、ややはずれた生活道路を考えることが多いです。立体駐車場も売り場まで時間がかかるので、あまり適しません。最近は平屋の店が軒を連ねるオープンモール型のショッピングセンターにも出店しています。
――撤退した店舗は。
あります。一例ですが、2011年1月に開店した九州地方の店は7カ月後に閉店しました。三つの既存店の空白エリアの10万人の商圏を見込んだものの、狭い前面道路に通行車両が多くて駐車場に入りにくいことや、東側に並行している新道が走りやすく、3キロ北にある競争店に行きやすかったので、集客が難しかったようです。
――800店舗を超えてすでに飽和状態ではとの見方も。
我々の市場は、子供服関係で1兆円、ベビーカーやおもちゃなど育児雑貨で1兆円、合計2兆円と言われています。1200億円の売り上げでは、金額でのシェアはまだ5、6%しかない。目標は1千店でしたが、約1億3千万人の日本の人口を、商圏10万人で設定すれば1300店舗が可能です。少し小さめな商圏を考えれば、1500店舗できる。今後も出店して、シェアを獲得する方針に変わりはありません。今年の夏には実験的に、韓国にも2店舗オープンさせました。
――少子化は進みます。
商品の対象年齢を広げることもその対策です。すでに認知されている「身長130センチ」までに加え、小学校高学年「160センチ」くらいの商品まで延ばしています。新たな対象商品の陳列スペースのために、これまでの660平方メートルから990平方メートルに、標準店舗を変えました。また、ものづくりの経験豊富な元電機メーカーなどのベテランの技術者を30人程度採用して、利益率が高いプライベートブランド(PB)商品開発に取り組んでもらっています。
文/中島鉄
(更新日:2012年12月18日)
大村禎史(おおむらよしふみ)
1955年、兵庫県姫路市生まれ。
京都大学大学院で金属工学を学び、修士課程修了。79年、山陽特殊製鋼に入社し、研究所に勤務した。「日本の鉄鋼業は世界一だと思ってきた。車のベアリングの素材をつくっていたが、不純物もなく質が高いため、自動車の寿命より長く使える製品だった」
85年に西松屋チェーンに入社。年商301億、129店舗だった2000年に代表取締役社長に就任した。
転職入社以来、ともに働いてきた三浦俊生・同社執行役員の評。
「周囲に気を配る、穏やかな人柄。だが、理屈に合うとなると決断は速い。その意味では、余分な考えにまどわされず、あくまでも論理的な、理系人間に見えます」
中国古典を愛読、趣味は特にない。
「負けだしたら、関心が薄れてきてしまう阪神ファンです」
好きな言葉は、「学びて思わざればすなわち罔(くら)し。思いて学ばざればすなわち殆(あやう)し」
家族は、妻と2女1男。長女は結婚して独立している。