生きた商売って実に面白い。
自分がそこから離れられない理由はそんなところにあるようだ。
yomiuri onlineより。
嗜好品のあり方って結構その国とか民族のカルチャーを表すのだろう。
タバコはともかく、コーヒーだけを見ても戦後から実に多様な変遷をしてきた。
今の感覚で一杯5-6百円するのが喫茶店のコーヒーだ、という感覚が定着した後、
いわゆる外資系チェーンの侵襲が始まった。
結局マックからスタバまで数十年かけていろんな業態が出現しているところに「和風コーヒー店逆襲」とは実に面白い。
一時「チェーン店の美味しいコーヒー」が一杯2-300円で市場を席巻したのは30年前のことである。
美味しいコーヒーがそれまでの半額で、しかも美味しく飲める「インスタント指向」にはぴったりだった。
また今スタバなどに集まる若者たちは、逆に「節約指向」で長時間wi-fiのある環境で過ごしている、というのも時代を感じる。
みんな「自分の居場所」を求めてより快適なところを目指すのだ。
それにしても「安さ」だけでもない、「喫煙できる」だけでもない、「寛いで、単価はそこそこ」というのは一見最も特徴がないように見えるが、結局安いだけ、とか狭い・せわしい、などという「極端なマイナスのない場所」に皆が戻ってきたということだろうか。
"喫茶"というくらいだから「くつろぎを求めてゆったりする」という本分に、30年かけて皆戻ってきているのだとしたら「一周回った」感じがする。
喫茶とか居酒屋とか、あるいはリゾートとかそういう"余暇"をどれだけ大事に過ごすか?、ということが長い時間をかけて培われる文化なのかもしれない。
自分は今、自室で淹れるコーヒーに夢中になっているが、そのうち非日常の空間を求めて和風喫茶を探すのかもしれない。
余った時間をできるだけ充実して過ごす、というのは割合重要なテーマである。
経済評論家 平野和之
星乃 珈琲 ( こーひー ) 店、ミヤマ珈琲、高倉町珈琲……。スターバックスやタリーズなど 小洒落 ( こじゃれ ) たコーヒーショップが市街地では相変わらず人気だが、都市郊外を中心に最近、異変が起きている。店名を「漢字」で名乗る珈琲店が急増し、連日盛況なのだ。豆の個性を大事にするコーヒーが「第3の波」などと注目を集める昨今、名古屋市発祥のコメダ珈琲が開拓したこの「珈琲化現象」。なぜ、昔ながらの珈琲店がにわかにもてはやされているのか。その実態に経済評論家の平野和之氏がメスを入れた。
早起きシニアに好まれる「珈琲」コメダといえばモーニング
コメダといえばモーニング
もうすっかりお馴染(なじ)みかもしれませんが、まずは、コメダ珈琲をおさらいしましょう。かつて、私も名古屋の女性とデートすると必ず連れて行かれた「ご当地喫茶店」。それが、首都圏に進出した2003年以降、出店の勢いは加速し、今では全国600店以上に拡大しています。
コメダといえば、ドリンクを頼むとトーストとゆで卵がついてくるという、お得すぎる名古屋スタイルのモーニングが話題になりました。ブレンドコーヒーなら420円。太陽が昇る前に目を覚まし、散歩も済ませて行くあてもなくなったシニアが待っていましたとばかりにやってきます。中高年の早起き需要をがっちりつかんだわけです。
間仕切りのある座席、自由に手にとれる新聞紙や雑誌、長居歓迎の雰囲気……。このゆっくりとくつろげる店内は、サラリーマンのサボタージュにも、お母さんたちが会話を楽しむのにも、一人読書に没頭するのにもうってつけです。
「珈琲店」というビジネスモデル
コメダが開拓した「珈琲店」
コメダが開拓した「珈琲店」
でも、ビジネスの定説でいえば、コーヒー1杯で長時間くつろがれては、お店にとってはたまったもんじゃありません。ドトールやベローチェなどのカフェスタイルの店舗は、どうにも窮屈で決して居心地がいいとはいえません。400〜500円の客単価で売り上げを伸ばそうとすれば、どうしても回転率を上げなければならなくなり、長時間居座ってもらっては困ってしまうという経営的な事情が垣間見えます。スターバックスやタリーズはその線引きに悩んでいるようです。
これに対し、コメダは客の回転率を重視していないようです。むしろ、居心地がいいことでリピート率を増やし、連れ立ってくる同伴率を上げようとしています。そのため、デザートや軽食など80種類以上をそろえ、ブランチ、ランチ、ティータイムにも売り上げ拡大のチャンスを広げています。
モーニング以外で名物になったのは、温かいデニッシュにソフトクリームを乗せた「シロノワール」。これを目当てにくる客もたくさんいます。つい先日、コメダが今年8月には札幌市内で初出店するというニュースも流れ、インターネットでは「シロノワールが津軽海峡を越える!」などと話題になったほどです。
もはや、コメダといえばモーニング、だけではないということです。先日、友人の夫婦が子ども2人と家族4人で、休日のランチにコメダへ行ったそうです。ハンバーガーやピザなどを頼み、食後には名物シロノワールを全員でシェアしたというのです。これで、合計金額は軽く5000円を超えてしまうと言います。
コーヒー1杯のつもりで立ち寄ったサラリーマンがサンドイッチもつまみ、子どもたちを学校へ送り出したお母さんたちがランチを囲み、ティータイムにはスイーツ目当ての若者も集まります。こうなると、客単価が1000円を超えるというケースも珍しくないわけです。
客の回転率に依存しないという外食産業の常識を打ち破った「コメダモデル」は、既存店に衝撃を与えています。
あの「シロノワール」
あの「シロノワール」
2016年03月17日 07時01分 Copyright © The Yomiuri Shimbunページ: 2
経済評論家 平野和之
ささやかれる「コメダにならえ」星乃も「珈琲店」
星乃も「珈琲店」
競合他社も、あるいは新興勢力も、コメダの成功を指をくわえて見ているわけにはいきません。業界内では「コメダにならえ」とまことしやかにささやかれているようです。
コメダを追いかけているのが「星乃珈琲店」。「ドトールコーヒー」「エクセルシオールカフェ」、パスタの「洋麺屋五右衛門」などを展開する外食大手のドトール・日レスホールディングスが11年3月に1号店を埼玉県蕨市にオープン。現在は全国に150店舗を超えています。
星乃は、必ずしも郊外ロードサイドに特化しているわけではありません。むしろ、家族連れよりは、クオリティーを求める客を意識した店づくりとなっています。店に入ると、目に見えるところで、ふつふつとお湯を沸かすなどコメダにはない演出があります。この高級感がファミリーユースというよりはビジネスマンやOLにも訴求でき、駅前出店も可能にしているのでしょう。
メニューにおいても、グループ全体でのシナジー効果が期待でき、コストオペレーティングも徹底できます。ランチの需要も取り込もうと、カレー、オムライス、スパゲティなどもそろえているほか、ハンバーグやコロッケなどのランチプレートも充実しています。
差別化が始まった「珈琲店」
高倉町珈琲は明るい雰囲気だ
高倉町珈琲は明るい雰囲気だ
珈琲化現象は星乃だけにとどまりません。最近では、銀座ルノアールが「ミヤマ珈琲」、すかいらーくグループが「むさしの森珈琲」、居酒屋の甘太郎などを展開するコロワイドが「なぎさ橋珈琲」、讃岐うどんで人気の丸亀製麺が「コナズ珈琲」を開店させています。そして、各店が、加盟店の募集を呼びかけており、フランチャイズで今後も数を増やそうとしています。いまはまだ、うちの近所にないという方も、そのうち「珈琲」という看板をたくさん目にする日が遠くないかもしれません。
さて、そんな中、私が注目しているのは、すかいらーく創業者の横川竟氏が手掛け、13年に東京都八王子市に1号店をオープンした「高倉町珈琲」です。東京西部、神奈川の一部にまだ12店舗にとどまっていますが、コメダや星乃にないラグジュアリー感があります。
星乃は店舗デザインに高級感はあるけれど、座る席の広さなどでは、高倉町がはるかにゆとりを感じます。星乃は大正デモクラシーを思わせる落ち着きがありますが、高倉町は開放感と明るさがあり、テーマパーク的な雰囲気です。
メニューは、パスタやサラダを中心に種類も多く、イタリアンの郊外型レストランをイメージさせます。出店場所の選定は、富裕層の多い地域でないとリスクはありますが、細分化される需要の一つだと思います。
同じような「珈琲店」ではありますが、すでに差別化の波も始まっているのです。
なぜ、「珈琲」化するのか
バブル崩壊、リーマンショック、震災、高齢化の流れの中で、喫茶店業界は右肩下がりです。日本フードサービス協会によると、売り上げのピークは高度経済成長時代の約1.7兆円です。それが、今では1兆円台に縮小しています。ただ、女性のコーヒー消費量が増えたことで、底打ちしたとも言われています。
個人消費の4割の100兆円以上を60歳以上の高齢者が占めている時代です。総務省のデータでは、シニアの平均的な月支出額は26万〜28万円ほど。65〜69歳の3人に1人が働いています。この世代をターゲットにビジネスチャンスを見出(みいだ)すのは当然です。
一方、消費しないといわれる若者ですが、所得が低いため消費の全体額が少ないだけで、消費性向は決して低くはありません。ただ、その中身が、車や高級品などの高額品ではなく、ネットや通信費の占める割合が大きくなっています。
その分、喫茶店はWi−Fiスポットとしても大事な節約消費の場になるわけです。若者は少ない消費の中で幸福感を求めたり、デートをしたり、節約消費を楽しまざるを得ないのです(現状としてWi−Fiに力を入れているのはスタバ)。
そして、東日本大震災後、地域の絆が重視され、コミュニティーの憩いの場として、固定客の来店率を引き上げる戦略も見受けられます。ある意味、今の時代の個人消費の主戦場のすべてを網羅する戦略が「珈琲店」に集約されているとも言えます。
2016年03月17日 07時01分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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経済評論家 平野和之
「珈琲店」のライバルはだれ?ミヤマ珈琲は、あの「ルノアール」が経営している
ミヤマ珈琲は、あの「ルノアール」が経営している
さて、これらの「珈琲店」は、今後はどうなっていくのでしょうか?売り上げにするとコメダが500億円規模、星乃が100億円規模。ところが、直近決算で、星乃の既存店売り上げが減少しています。コーヒー豆など原材料費、人件費の高騰もあって、利益が減っています。喫茶スタイルは、厨房(ちゅうぼう)への投資が比較的少なくすむという印象がありますが、ここまで競争が激しくなり、カフェやファミリーレストランも両方をライバルとするわけですから投資リスクは大きくなります。
どんなビジネスでもそうですが、先行優位の原則があります。この点では既存の概念から見るとコメダは強みを発揮できるとなるわけですが、外食産業全体の中の競争、ファミレスのドリンクバーなど奪い合いも熾烈(しれつ)です。
外食産業が生き残るために必要なポイントは、客単価と来店数に尽きます。たとえば、街中の昔からある喫茶店はコーヒー1杯、380円から420円程度。ドトールなどは200円台。スターバックスは、コーヒーが300円前半からありますが、単価の高いラテやフラペチーノなど500円前後の商品を主力と位置づけています。
珈琲店のコーヒーはカップも似ている
珈琲店のコーヒーはカップも似ている
デフレマインドが常に背中合わせにあるような状況の中でも、「珈琲店」は今後、客単価で、モーニング400円、ランチ1300円、ティータイム1000円を目安にしていかなければ、競争力が衰えてしまうでしょう。どの店も、看板に「珈琲」をデカデカとのせていますが、一杯のコーヒーをじっくり味わっていってほしいとPRしているわけではありません。隣席と肩が触れてしまうような狭いカフェスタイルとは違い、ゆったりとくつろげる店内の雰囲気がお得感があるわけです。ただ、「珈琲店」はモーニングやティータイムに売り上げを伸ばす開拓をしましたが、夜の収益を上げにくいという課題もあります。居心地を売りにするあまり、週末には空席待ちの客が店外にあふれていることも珍しくありません。「あんなに待たされるなら、もう二度と行かない」という声も聞きます。
外食産業は真似(まね)されやすく、過当競争に陥りやすいジレンマを常に抱えています。シロノワールのようなオンリーワンのメニューを開発するとともに、価格ではない価値を高められるかが、生き残りのカギとなりそうです。
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プロフィル
平野和之( ひらの・かずゆき )
法政大学卒。株式会社光通信入社、事業開発部配属。ベンチャーキャピタル、M&A・IPO支援など、プライベートエクイティ分野を主に従事。入社1年で課長に昇進、24歳でマーケティング会社を起業。30歳からは経済評論家としてテレビ、雑誌、ラジオなどで活躍している。現在40歳、主な著書に「コンビニがなくなる日」(主婦の友社)など6冊。
2016年03月17日 07時01分 Copyright © The Yomiuri Shimbun