藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

リテールAI

*[ウェブ進化論]地方から世界へ(1)
日経MJより。
TRIALという福岡のスーパーが「店舗のメディア化」に邁進しているという。
店内で天井に目をやると、小型カメラがびっしり。その数約400台。トライアルのグループ企業が中国・深圳で開発した、世界初となる小売り向けに特化したAIカメラだ。
売れ筋の把握や欠品対策、レジカートの導入。
客の挙動分析や"購買の潜在意識"まで探る。
消費者は自分でも何が欲しいのか分かっていない。買い物の8割は非計画購買といわれる。消費者の欲しいをデータ分析で浮き上がらせる。
さらには"店舗デザインの達人"の仕事を「それ以前」と比較してAIに覚え込ませる予定だという。
それはともかく。
 
驚くのは、こうした「既存のIT屋さんたち」がやっていないことを「小売業目線」で徹底して「IT化」している企業が地方にあることだ。
さらにこの会社は自社の「リテールシステム」を世界の小売業に広げていく構想だという。
まさに"ローカルから世界へ"のお手本だろう。
そしてそして。
 
まだまだそこら中に、ワクワクするチャンスの種はいっぱいあるのだと気づかされる。
ITビジネスも、いよいよこれからが面白いのではないだろうか。
 
 
 
  「買いたい」引き出す 次世代AI店舗の正体 
 
  2020年3月22日 2:00
 

新型コロナウイルスの感染拡大もあって、ネット通販の利用拡大が進む。となると、ますます問われるのが実店舗の価値。大手ディスカウントストア(DS)のトライアルカンパニー(福岡市)が取り組むのはIT(情報技術)を駆使した店舗のメディア化だ。社内のカリスマの英知も組み込んだトライアル流の最先端AI(人工知能)店舗、実際に見てきた。
 
DSのトライアル、福岡で最先端店
 
2月末の平日午前10時、田畑や住宅に囲まれた「スーパーセンター田川店」(福岡県田川市)に客が続々と自動ドアをくぐっていく。
 
店内に入ると、あちこちに設置されたデジタルサイネージ(電子看板)。その数、約50台。画面に流れる飲料や菓子の広告を何気なく見ていると突然、一斉に同じ映像に。思わず買い物客が立ち止まり、電子看板に視線がくぎ付けになっていた。

 
    スーパーセンタートライアル田川店   
外観 
2019年11月に改装開業した田川店のコンセプトは「メディア」。そこに行けば自分の欲しい情報がある――。実店舗の価値とは何かを追求するトライアルカンパニーが見出した方向性だ。
 
一斉に同じ映像に切り替わるのは、同社が「フィーバータイム」と呼ぶ電子看板の活用手法の1つだ。例えば揚げたてに合わせ、全サイネージで唐揚げの映像を流すといった使い方が考えられるという。電子看板はメーカーのCMをそのまま流すだけではない。トライアルの社員が映像に合わせて臨場感のあるセリフをふき込む。声の違いだけで商品の売り上げが1割強伸びたこともある。生放送のテレビ通販「ジャパネットたかた」のようなライブ感だ。
 
店内には決済機能がついた「レジカート」を用意。入店時にプリペイドカードの情報を登録し、手に取った商品のバーコードを読み取り決済する。若年層ばかりでなく、シニア客の利用も多い。

 
    レジカートにはポイントが多く得られるクーポンが配布される 
レジカートに取り付けられたタブレットも客に情報を伝えるメディアだ。柔軟剤「レノアハピネス」をカートに入れると、猫のトイレ砂やキッチン用アルコール除菌液が表示された。レノアの購入者が合わせて買うことが多いモノで、同時購入すると20円分のポイントが追加で得られる。
 
こうしたクーポンが、次々とタブレットに配信される。「買う予定の商品にポイントがたくさん付くとうれしい。クーポンを見て、気になる商品も買ってしまう」と客の久場末菜さん(21)。
 
クーポン配布やレコメンド機能は他社でもあるが、田川店の取り組みは客が買い物をしているタイミングに、目の前で発券される。クーポン効果だけではないが、レジカートの利用者に限れば、売り上げは導入前より約40%伸びたという。
 
とはいえ「思わず買いたくなる売り場」のゴールにはまだまだ届かない。現在はどの客にも同じ情報、同じクーポンを配布している。トライアルカンパニーの梶原茂浩常務は「プリペイドカードで年齢や性別、購買履歴を抽出し、パーソナライズ化に取り組む」という。「最近は野菜不足なので、今晩はこんな献立はいかがですか?」といったイメージだ。
 
スムーズな決済も利点だ。レジカート利用者は事前にプリペイドカードの登録と商品の読み込みを済ませているため、専用ゲートでチェックを受けるだけで退店できる。20代の女性客は「以前はお会計に10分くらい待つ時もあったんですけど、今はストレスフリーです」と喜ぶ。店舗側もレジ業務を4割効率化できたという。

 
    レジカートの採用でレジ待ち時間は最大10分から10秒に減り、レジ作業は4割効率化された 
田川店にはもう一つ見逃せない仕掛けがある。
 

自社開発カメラ、400台で分析

店内で天井に目をやると、小型カメラがびっしり。その数約400台。トライアルのグループ企業が中国・深圳で開発した、世界初となる小売り向けに特化したAIカメラだ。

 
    天井などに取り付けた400台のAIカメラが客の動向を捉える 
客が棚の前に立ち止まったか、商品を手に取ったか、実際に購入したか……。
 
AIカメラの導入でPOSでは分からない顧客の購買行動がつかめるようになった。加えて導線も分析し、客に多くの商品を手に取ってもらう陳列に変えていく。AIカメラのデータを使って共同で売り場改善に取り組んだメーカーの売り上げシェアが向上し、部門全体の販売増の効果が見られてきたという。
 
業界に先駆けて店舗のIT化を進めるトライアルカンパニー。2018年12月には夜間無人営業の「トライアルQuick大野城店」(福岡県大野城市)をオープン。今後は重量センサー付きのレジカートなどの新技術導入も予定する。
 

「将来、リテールAI技術が事業の要に」

視線の先には、小売業にとどまらないグループの経営構想がある。
 
「将来はリテールAIの技術そのものが事業の要になる」(梶原常務)。18年11月にはRetail AI(RAI、東京・港)を設立。さまざまな機器やデータ活用技術の外販を始めている。
 
利用事業者が増えればAIカメラなどの機器のコストダウンが進み、より多様な業態や地域の購買行動データを蓄積・活用できるとみる。
 
ただ、現状は「まだデータを十分に生かし切れているとは言えない」(梶原常務)。今後のAI活用でカギとなるのが、同社の社員が「商売の神様」と呼ぶ顧問の原野敏和氏の存在だ。
 
店を見るだけで問題を見抜き、近隣のライバル店の状況を見たうえで品ぞろえや価格、レイアウトを変更。同氏が手を入れた店舗は劇的に売り上げが伸びるという。
 
店舗数が増えると、一人で店を回るのは現実的ではなくなる。そこで、原野氏が手を入れた店舗と、手を入れない店舗を比較し、違いを洗い出してAIの改善につなげようとしている。原野氏の慧眼(けいがん)を伝承するための挑戦だ。
 
省力化にとどまらず、店舗のメディア化、購買行動データやAIの活用による新たな売り場作りに取り組むトライアル。他社の注目も高い。あるスーパー幹部は「トレーニングや経験が必要だった仕事を技術に置き換えられれば人はより接客に集中できる」と語る。
 
トライアルの挑戦は米アマゾンや中国のニューリテールとも違う、AI店舗のひとつのモデルになる可能性がある。
 
 
小売り・メーカー200社超、AI活用・人材で連携
 
海外の小売業はテクノロジーの活用に積極的だ。米ウォルマートが昨年4月に開いた店ではAI搭載カメラやセンサーが商品の動きを追跡し、欠品前に棚に商品を補充する。米ファッションブランド「RUTI」は来店者をカメラが認識し顔の画像とその人の購買履歴をひも付け、パーソナルな接客を提供する。
 
日本では、アマゾンのレジ無しコンビニ「アマゾンゴー」に刺激を受けた企業が集まり、一般社団法人リテールAI研究会を2017年に設立した。トライアルだけでなく、ヤオコーなどの食品スーパーや、ココカラファインなどのドラッグストア、サントリー酒類などのメーカー、200社超が参加。AI人材の育成や情報の収集、実験に取り組んでいる。
 
「1社で取り組んでも大きなパフォーマンスを発揮できない。いくら消費者を分析する手法を確立しても仮説の立て方によって取り組み内容は違ってくる」という代表理事の田中雄策氏。非競争領域と競争領域を分け、小売業のAIの活用を加速させていく考えだ。
 
AI活用で特に研究会が力を入れているのが来店者が思わず買いたくなる陳列だ。テーマを決め「この指とまれ」方式で参加を募る。例えばフルーツグラノーラを買った人が買いそうな商品をAIで分析したところチョコチップメロンパンだった。ある店で一緒に並べるとよく売れた。
 
飲食店のPOSデータをAIで分析し、スーパーで焼き肉用の肉を買った客にアイスクリームのクーポン券を提示したらアイスの売り上げが2割伸びた例もある。
 
消費者は自分でも何が欲しいのか分かっていない。買い物の8割は非計画購買といわれる。消費者の欲しいをデータ分析で浮き上がらせる。
 
どの小売業もAIの活用の多くは実験の域を超えない。利益率が低い小売業にとってコスト負担は重く、デジタル投資に慎重になる。投資に見合った売り上げ増を見込みにくいからだ。カメラでのデータ収集には消費者の理解も必要になる。
 
AIは手段にすぎない。アマゾンに脅かされるという消極的な理由ではなく、経営トップがAIを活用して何をしたいのか明確なビジョンを持つことが大切だ。
 
編集委員 大岩佐和子、伊神賢人)
 
  [日経MJ2020年3月18日付]