藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

生命反応の証し。

独居の高齢者が増え、いわゆる「孤独死」の住宅問題が増えているという。
独居する人が増えればそうした状況も仕方がないが、もう少しスマートにインフラを整備する手はあるだろうと思う。
たとえば、一人暮らしをする人には若年か高齢かを問わずに「脈があるかどうか」を識別する小さなICを身につけてもらうとか。もちろんネットワークに24時間繋がっている。
アラートが鳴れば、直ちに近隣者が駆けつけるのだ。
行政が開発し、格安で貸し出しすればよいだろう。
「自分はたとえ死んでも何ヶ月も発見されたくない」という人以外は「もしかの時のため」に身につけるに違いないと思う。
自分もそうだが、自分が息を引き取った後、人様によけいな迷惑はかけたくないものだ。
一人で死んだら、それはそれで、あとは速やかに処理してもらいたいと思うのである。
そしてそのための費用くらいはせめて用意しておきたいとも思う。

「日頃、快適に暮らしていますか?」といった問いかけはノーサンキューだけれど、今際(いまわ)の際は潔くありたい、というのは皆のかなり共通した願いではないだろうか。
普段の生き方はともかく、息を引き取ってしまえば自分の体は動かないのだ。
だから自分の遺骸を放置してしまう事態だけは何とか避けて「末期の憂い」の無きような配慮から、行政は手を付けるべきではないだろうか。
高齢者の「'脈打ち'お知らせリストバンド」は是非に必要な施策ではないかと思うのである。

無縁社会で増える「誰も住みたがらない」マンション

2014/4/14 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版
 ワケあり住宅が増えている。高齢者の孤独死や自殺が起きた家、マンション、アパートのことだ。売りたくても、思うようには売れない。賃貸物件なら次の借り手がなかなか現れない。不動産市場で流通が滞り、関係者には当惑が広がる。目をそらしたいが、そらせない無縁・ストレス社会のゆがみが浮かび上がる。

■ドアを開けると…

 東京都心から地下鉄と私鉄を乗り継いで約1時間。神奈川県にある2階建て賃貸アパートのその部屋は、何の変哲もなかった。和室6畳、キッチン4畳、トイレ・バス付きで月額家賃は3万3000円。敷金礼金はゼロだ。不動産仲介業者によると家賃は周辺相場より1万円は安いという。

「ワケあり住宅は確実に増えている」と不動産業者は口をそろえる
「ワケあり住宅は確実に増えている」と不動産業者は口をそろえる

 前の入居者は昨秋、この部屋で亡くなった。連絡が取れないことを心配した家族が訪問し遺体を発見。警察は薬の大量摂取による自殺と判断した。死後数日しかたっていなかったため、部屋はきれいで、大がかりなクリーニングは不要だった。近くの神社に頼んでおはらいをしてもらい、昨年末から次の入居者の募集を始めたが、4月上旬時点で、まだ借り手はつかない。「これまでに2回、希望の家賃を下げた。さらに下げないといけないかも」。家主はあきらめ顔だ。

 都内の南東部にある賃貸ワンルームマンションの一室は改装作業の真っ最中だった。前の入居者は60歳代後半の男性で、3月上旬に部屋で亡くなっているのを管理会社が発見した。死亡日時は不明だが、家賃の振り込みは昨年末から滞っていた。

 家主によると、遺留品の処分、フローリングや壁紙の張り替え、消毒清掃などに数十万円かかりそうだという。これらの費用と未払い家賃を請求しようにも、前の入居者には親族らしい者がいない。友人とみられる連帯保証人にも電話がつながらない。

 ワケあり物件は昔からあった。ただ、取材した10数社の不動産仲介会社の営業担当者は「ここ数年で物件の増加を肌で感じる」と口をそろえる。

 増加をうかがわせるデータがある。

 孤独死に関する全国的な統計はないが、東京都監察医務院による東京23区内の異常死に関する調査によると、誰にもみとられずに自宅で亡くなっていた65歳以上の独り暮らしの高齢者の人数は、2012年は2727人。この10年間で約1300人増という急激な伸びだ。また、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構、横浜市)が扱う賃貸住宅(旧公団住宅)の中で、死亡から一週間以上が経過して発見された単身居住者の数は12年度は220人。154人だった08年度から一貫して増えている。


 一方、自殺者は警察庁の統計によると2013年は2万7283人。98年から11年までは年間3万人を超えていたので、落ち着いたように見えるが、高水準の数値であることには変わりはない。そして自殺した場所は約6割が自宅だ。

 家主の危機感も高まっている。アソシア(東京・千代田)やアイアル少額短期保険(東京・中央)、e―Net少額短期保険(長野県佐久市)などのミニ保険会社は、10年以降に賃貸住宅での自殺・孤独死の損害を補償する家主向けの保険商品を相次いで売り出しており、いずれも販売は急拡大している。「13年は契約戸数が前年比1.9倍に伸びた」(アイアル少額短期保険

心理的に欠陥がある物件

 遺体が運び出された後の住宅は、その後、どのような経過をたどるのか。自殺や殺人、火災などの現場になった住宅・建物を、不動産業界では「心理的瑕疵(かし)物件」と呼ぶ。気持ちの面で住み心地に欠陥があり、好んで借りたり買ったりする者はいない物件という意味だ。

 通常は家賃や売却価格を下げて、次の借り手や買い手を探すことになる。賃貸物件の場合は「人気エリアで1割、そうでないエリアなら3割程度、周辺相場から家賃を下げると借り手が現れることが多い」(東京都練馬区の不動産業者)。UR都市機構では、前の居住者が室内で亡くなった物件を「特別募集住宅」として1〜2年間は家賃をほぼ半額にする措置を取っている。

 売買も同様だ。ワケあり物件の仲介を専門にする住宅再生支援協会(東京・港)には月に50件前後、自殺が起きた住宅の売却を急ぐオーナーからの電話がかかってくる。「地元の不動産業者に相談したが断られた。あるいは2000万円程度はする住宅を『1000万円なら買う』と言われ、切羽詰まって連絡してくるケースが多い」(安達賢太理事)。事件をまったく気にしない人や業者を根気強く探して、ビジネスライクに徹して交渉すれば、たいていは周辺相場の2〜3割低い価格帯で取引がまとまるという。

 自殺や孤独死が起きた事実を隠して取引されることはないのだろうか。家主やオーナーにとっては不動産の価値が大きく損なわれる事態で、できることなら秘密にしておきたいとの思いに駆られてもおかしくはない。

一部の団地では住人の高齢化が急激に進んでいる
一部の団地では住人の高齢化が急激に進んでいる

 法律上は、家主やオーナーが心理的瑕疵の内容を告げずに賃貸・売却をすると、後から事実を知った取引相手から民法上の「瑕疵担保責任」を追求され、契約解除や損害賠償を請求されることになる。また、不動産仲介業者には、宅地建物取引業法第47条で、借り手や買い手に事件・事故があったことを告知する義務が課されており、こちらも義務を果たさないと損害賠償を請求される。

■自然死なら秘密にしていいのか

 抜け道はある。東京西部で30年以上、不動産仲介業を営むA氏が手口を教えてくれた。「賃借物件の場合、一度、知人や社員などを数か月間住まわせてから、改めて新たな借り手を探す。売却物件なら名義上だけの取引を数回してから買い手を探す。いずれも告知義務が消えるわけではないが、権利関係が複雑になるし、噂も風化するので、最終的にはうやむやにできる」

 「ただし――」。A氏はこう続けた。「こんなことをしても不動産仲介業者にはひとつもメリットがない。ばれたら損害賠償を請求されるし、信頼を失って仕事を続けられなくなる。家主に恩義があって懇願されたとか、こちらに負い目があるとかでもないかぎり、心理的瑕疵を隠す業者はいませんよ」

 ただ、一部の事例については心理的瑕疵に当たるかどうか専門家でも判断に迷うケースがある。一般的な法解釈では、自殺は心理的瑕疵に該当するが、病気による自然死は事件性がなく誰にでも起こりうることなので該当しないとされている。では、高齢者の孤独死はどう扱えばいいのか。死因が何かの病気であるとして心理的瑕疵に該当しない→告知義務なし、と考えることも可能だ。

 不動産取引に詳しい西村あさひ法律事務所(東京・港)の小沢英明弁護士は「遺体が発見されるまで相当の時間が経過していたのなら、事件性ありとして心理的瑕疵に当たると考えた方がいい」と話す。「最終的には買い手や借り手が嫌だと思うかどうかという極めて主観的な話になる。これまでの裁判所の判断をみても、どこまでが心理的瑕疵にあたるか明確な線引きができているとは言い難い」

■不動産のプロが戸惑う

 不動産取引の現場では、さらに判断に迷う以下のような事例が続発している。

孤独死があったのは、ひとつ上の階の部屋
・飛び降り自殺で、遺体があった場所は部屋ではなく階下の植え込み
・自殺があった家は取り壊し、更地として売り出す
・自殺が起きてから10年以上が経過し住人も2回変わった。近所の人たちも入れ替わり事件を覚えている者がほとんどいない。

 こうした物件は、家主・オーナー側は心理的瑕疵がないとし事実を隠して取引しようとするが、仲介業者側はリスク回避のためすべて告知しようとして、押し問答になる場合が多々あるという。

 「どう判断したらいいのか」。東京都宅地建物取引業協会の電話相談窓口には、プロであるはずの会員不動産業者からの問い合わせが後を絶たない。協会側も明確な指針を持っていないため、安易な受け答えもできず、過去の裁判事例の紹介ぐらいしかしていない。

 自殺は防げても、高齢化の進展は止められない。「誰にも頼りたくない」「かまわないで欲しい」と思う者がいるかぎり、孤独死はさらなる増加が予想される。ワケあり物件の取引の透明性を高めて円滑に流通する仕組みが必要だが、これまで議論そのものがタブー視されてきた感は否めない。「心理的瑕疵に関するガイドラインの作成を国土交通省などの所轄官庁に働きかけていきたい」(リニュアル仲介=東京・新宿=の西生建代表)といった声が現場からようやく上がり始めてきたのが今の実情だ。

(電子報道部 石塚史人)