藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ここで言う諸費用は、仲介手数料、不動産取得税、登記費用、ローン手数料等

5年後に9700万円を超える価格で売却できれば、所有期間5年の累計キャッシュフロー(CF)1000万円と合わせて購入費用1億700万円を上回り、その投資は黒字になる。

もちろん、実際には金融機関から融資を受けるので、自己資金に対しての利回りや税金、減価償却等をより詳細に計算する必要があるが、将来いくらで売却すれば投資として成功するか、ざっくりとしたラインはわかるはず。

逆に将来価値から逆算すれば、現在価値はいくらが適正価格なのかを割り出すことも可能だ。現在価値しか評価しない不動産投資方法との違いを理解していただけるだろう。

 収益不動産には新築と中古物件がある。新築は、企業の例なら、新規ビジネスを自ら立ち上げるようなものだ。中古はまさに、M&Aで既存ビジネスを買収するケースと言える。

企業の場合、特定のビジネス領域にゼロから新規参入すると、後発のプレイヤーになる。当然、イチからビジネスを開発してマーケットシェアを奪い取るまで、利益を生み出すまでの時間的なロスやリスクが発生する。これでは、初期投資金額の回収期間目標を描く事はできても、絶対的な確信は誰も持てない。

一方、すでにうまく回っている企業をM&Aすれば、次の日から利益を生み出すことができ、回収期間やキャッシュフローも精度が高い予測が可能となる。さらに既存マーケットや顧客もそのビジネスに一緒についてくるので、当初の新規顧客開拓が必要ない。

新築不動産の場合、土地を購入して建築してお客が入居するまではお金を生まない。しかも、その間もローンの返済をしなければならないのだ。さらに、新築には業者利益が乗っているので、一部を除いて原価評価が出にくいという点がある。

一方、中古物件はすでにビジネスが回っているので、購入時に収入や経費面を含め評価精度が高く、数値化しやすい。問題のある箇所も把握しやすく、それらを改善できるかどうかも既存マーケットと合わせて判断が容易だ。そして、入居者やテナントがそのままついてくる。

企業のM&A同様、不動産投資においても、「買収」の優位性は高いのだ。
物件の「希少性」を常に意識する

 では、いったいどのような不動産が将来の価値が上がるのだろうか? 『シリコンバレーのビジネスエリートたちが実践する 使っても減らない5つのお金のルール』にも書いたが、モノの将来価値を決める1つの要因が「希少性」だ。

M&Aで言えば、独自の技術やパテント、ライセンスやインフラを持っている会社は希少価値が高くなる。将来の経営リスクが少なく安定しているからだ。たとえば、限られた数しかない携帯電話等の通信事業系会社を購入した企業の買収後の収益結果を見れば、それは明らかである。

同じように、不動産にも希少価値が存在する。これは「人気エリア」と言い換えてもいい。限られたエリアにあって需要が高く、供給が少ない物件は、将来売却する際にも買い手が多く存在し、融資評価も高くなる。

たとえば中央区銀座は限られた狭いエリアにしか存在しないため、希少性は高い。他にも、不動産業界の隠語で「AAA」と言われる青山、麻布、赤坂、そして、渋谷等の限られた人気エリアのマンションは需要と供給の関係から、築年数が経過しても新築の売り出し価格より中古価格のほうが高くなるケースもある。

人気エリアの物件は、たとえ景気等の要因でいったん価格が下がっても、将来は価値が戻ってくるという特徴がある。そのため、売却時にトータルでマイナスになる可能性が低いのが魅力である。

金の卵を生むガチョウは殺すな

 『イソップ寓話』にある、金の卵を産むガチョウの話をご存知だろうか?

ざっくり説明すると、あるところに金の卵を産むガチョウを見つけた農夫がいて、卵を売ることで金持ちになった。

しかし、農夫は1日1個しか卵を産まないガチョウに次第に物足りなさを覚える。きっと腹の中には金塊が詰まっているのだろうと考え、ガチョウの腹を切り裂いた。ところが腹の中に金塊はなく、その上ガチョウまで死なせてしまったというストーリーだ。私は、不動産の売却を考えるとき、いつもこの話を思い出す。

ここでも、M&Aの例から見ていこう。企業がM&Aで所有した企業や事業を売却するとき、そこには明確な理由が必ず存在する。現金を得て別の投資を行なったり、財務状況改善等の目的があって現金化するのだ。

一方で、一般の投資家は、単に値段が上がったから売却するケースが多い。つまり、現金を得るという目的だけで売却し、得た現金をどうするのか考えるケースが多い。

一般的に不動産を売却して儲かる時期というのは、安値で購入することが難しい時期でもある。したがって、売却目的が曖昧だと得たお金の運用先が見つからないという場合が多い。これでは、先の「ガチョウの腹を切り裂いた」状態と同じである。

不動産投資においても、明確な売却理由が必要だ。地方から都市部の高価な物件に買い替える、中古だけでなく新築物件へ投資する、売却で得た資金で信用をアップして、融資金額を延ばしてより大きく、複数の物件に再投資する(「金の卵を生むガチョウ」を増やす)。あるいは、次の投資時期を考慮した上で、現金を別に運用するのでもいい。

行き当たりばったりで行動すると、売却の際の税負担も大変なものになる。結局、税金を払うために売却したようなことになってしまったり、売却益の運用先が見つからず、お金が塩漬けになってしまったことに気がついたりしても、金の卵を生み続けてくれたガチョウは生き返らないのだ。

ページ: 5
適切な物件選びは「融資」にも有利

 多くの金融機関でも、「M&A」や「デューデリ」の発想を応用した不動産の評価がされている。現在価値、将来価値、所有期間中のキャッシュフローがよい物件は金融機関にとってもリスクが低く、融資審査を通しやすい。

いくら投資家にとってよい物件でも、融資が通らず購入資金を調達できなければ購入はできない。逆に、金融機関にとってよい物件でも将来価値が下がってしまうような、投資家にとってはよくない物件も存在する。

自分のためによい物件で、お金を出してくれる金融機関にとっても優良な物件であるとき、初めて長期安定した不動産運営が可能となる。このような関係を構築できれば、続けて金融機関から融資を得て、資産を増やしていけるのだ。長期安定した運営を行なえば、格付けという信用が上がって、さらに融資しやすい状況になることは企業とまったく同じである。

つまり、不動産投資は購入しただけでは終わらない。毎年の決算書は、「投資家としての通知表」だ。よい成績を上げ続けるためにも、本稿で記した「シリコンバレー流」不動産投資術のイロハを参考にしてほしい。