藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

価値観の熟成

ゼンショーが地域に分社し、ユニクロも地域重視の人事政策に軸足を移すという。
あくせくせず、ギラギラしない若者を嘆く声も強いけれど、しかし逆に「それまでの物差し」こそ本当に正しかったのか、という思いもある。

都会に出て、出世して、お金を稼いで、蓄財して、という画一的な物差しこそ「一時のもの」だったということになるのかもしれない。
少し前までは「成長志向のない時代」になったのかと思っていたが、そういうわけでもないようだ。
欧米、というより欧州の北部などを見ていると、もちろん上昇志向の人も相変わらずいるけれど、「成熟している人」も多いように感じる。
アメリカと違い、歴史は何千年もありながら、日本のように超少子化に歯止めが掛っているのも特徴的である。
日本もフランスのようにどんどん子供を産めば、どんどん手当を出す、ということも一気には実施しにくいし、そもそも先進国の人口が増えるべきなのかどうかについては、まだ正解も見えない中だけれど、「物差しの熟成」については日本もいよいよその時期に突入したか、というのがこの二十一世紀の最初の二十年の総括になるような気がするのである。
そして、その二十年をまたいで生きている自分のような存在の物差しは一体どんなヘンテコなものになってしまうのだろうか。
とちょっと心配してみたり。

コスパ若者が変えた「ユニクロ」に「すき家」  編集委員 中村直文

2014/4/24 7:00
日本経済新聞 電子版
 「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングが約1万6000人のパート・アルバイトの正社員化を発表し、ゼンショーホールディングスは6月に牛丼最大手の「すき家」を7地域に分社化する。店舗販売員の人手不足が理由だが、昨今の若者層の意識・行動変化も大きい。それはユニクロすき家が提供してきた「コストパフォーマンス」(コスパ)志向が逆流した格好だ。

ゼンショーホールディングスは「すき家」を7地域に分社化する
ゼンショーホールディングスは「すき家」を7地域に分社化する

 小売業の出店競争や東北の復興需要、15〜64歳の生産年齢人口の減少などが重なり、人手不足が著しい。デフレ時代には余剰感すらあった労働力だが、今や希少性ある経営資源に変わった。

関連記事
・4月9日 日経MJ1面「店員不足、成長に足かせ」
・4月12日 日経朝刊2面「人手不足、ユニクロ変心」
・4月17日 日経朝刊3面「すき家、7地域に分社」

■地元を「出たがらない」若者にあわせる

 そんな中、ゼンショーHDは人材を獲得しやすくするため、地域を北海道・東北や関東、関西など7カ所に分け、それぞれに新会社を設立する。地域に密着した経営に移行し、労働環境を改善したり、状況に応じた待遇に変えたりする。そこには小川賢太郎社長の時代感覚も働いている。

中村直文(なかむら・なおふみ) 89年日本経済新聞社入社。商品部、大阪経済部、札幌支社などを経て、現在は日経MJ副編集長兼企業報道部編集委員。百貨店やスーパーなど流通ビジネスや食品・日用雑貨産業の取材が長い。
中村直文(なかむら・なおふみ) 89年日本経済新聞社入社。商品部、大阪経済部、札幌支社などを経て、現在は日経MJ副編集長兼企業報道部編集委員。百貨店やスーパーなど流通ビジネスや食品・日用雑貨産業の取材が長い。

 「かつて地方に進出したのは大手企業の工場だったが、今は大半がチェーンストアだ。外食にコンビニエンスストア、ショッピングセンターなどがここ10年で急速に増えた」と指摘する。製造業の輸出競争力が低下する中、工場の跡地に流通業が進出し、今やセブン&アイ・ホールディングスなど大手チェーンは47都道府県の大半を押さえた。

 ネットの普及も加わり、「生活コストの低い地方で東京以上の楽しい人生を送れるようになった」(小川社長)として地元を出て、上京する流れは大幅に縮小していると見る。そこでゼンショーは東京中心の意思決定を見直し、地域分社化を進め、「出たがらない」若者層にあわせた採用・人事体系に切り替える考えだ。

 ユニクロもそんな時代認識に立っている。4月11日に開いたファストリ柳井正会長兼社長による「パート・アルバイト正社員化」の記者会見は従来路線の転換だった。柳井氏はこれまでグローバル化を進めないと日本は生き残れないと明確に主張していた。方向性は変わらないだろうが、国内の若者へのスタンスはずいぶん違う。

パートやアルバイトの正社員登用について記者会見をするファーストリテイリングの柳井会長兼社長(4月11日、東京都港区)
パートやアルバイトの正社員登用について記者会見をするファーストリテイリングの柳井会長兼社長(4月11日、東京都港区)

 「私はメディアではこれまで厳しい顔つきが多かったが、笑顔も増やさないとね」と冗談めかしながら話す柳井氏。プレス向けのリリースには同社が契約しているプロゴルファーとにこやかに握手している写真を載せた。そして日本にとどまる若者への理解も強く示した。

 「一つの場所で安定的に地域社会のために働く」「会社都合の異動はさせない」「5年や10年の仕事を経験し、常に新しい情報をインプットし、海外と同期を取りながらローカルで生き残る」と慈愛に満ちた言葉のオンパレードだった。そして「人によっては最高な場所がある」と言い切った。

 柳井氏も小川氏も「現場への理解はしているつもりだった」と話すが、おそらく若者の変化は想定以上だったのだろう。

■価値観の変化、経営の転換迫る

 「幸せの物差しが大きく変わった」と電通若者研究部の吉田将英研究員はこう指摘する。もはや消費額と幸福度はリンクしない。地方から東京へ出ること、大企業で出世することの価値は低下し、「身近な仲間とLINEなどを通じて交わすコミュニケーションそのものが楽しい」と分析する。

 同研究部が心ひかれる「売り文句」が何かを若者に聞いたところ、高校生や大学生で目立つのが「予算内で買える」「コストパフォーマンスがいい」。そして将来への意識について平成生まれに「世の中、努力や苦労が報われないことが多い」のかを尋ねると、「そう思う」が全体で8割を占めた。若者にとって極力無駄を省くことが重要であることを反映している。

 便利で安く良質の商品サービスを提供してきたチェーン店はまさにコスパ企業だ。そしてそんな企業たちが作り出した時代はコスパな若者を多く育み、経営の転換を迫られる。皮肉な結果でもある。