藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

クレームこそ

クレームの場こそが実は信頼回復のポイント、とはよく言われることだがそれを専門に受付けて買い取る会社があるとは驚いた。
ちょっと3万円の傘を買う気にはならないが、そのクレームの山を覗いてみたい衝動に駆られるのは、やっぱり「皆は何が欲しいと思っているのだろう?」ということを率直に見たいのである。

「マスクの下の顔が美人から分からない」ってあるある、という感じだけれど、どんなユーザーの声もヒントにする精神は見習わねばと改めて思い直した。

【関西の議論】「苦情」はカネになる “いちゃもん”から生まれたヒット商品、クレーム「10円」で買い取る業者も出現

2014.6.19 07:00

《おいしすぎて食べ過ぎてしまう》

《外に電話しに行ったら料理が冷めていた》

ほとんど“いちゃもん”に近いこんなクレームも、新たな「ビジネスチャンス」につながると注目されている。商品やサービスに感じている消費者の不満を参考にしてヒット商品が生み出されたケースもあり、「苦情・クレームは宝の山」と、1件10円で買い取る会社まで登場。消費者は不満をぶつけて“収入”を得ることでき、企業も商品開発やサービス改善のヒントを得る。誰もが得する「win-win」の関係のようにも思えるが、はたしてその実態は。

傘97万円!あの「レクサス」にも…苦情から生まれた商品

「皆さんの不満を解決した傘がこれなんです!」

5月27日午後、大阪・難波の高島屋大阪店2階の特設会場。傘の製造販売を手がける福井洋傘(福井市)社長、橋本肇さん(53)が女性客に語りかける。

並んでいるのは1本3万円以上の高級傘。中には、奄美大島(鹿児島県)の特産品「大島紬」を使った97万2千円(税込み)の“超高級品”まであるが、売れ筋は3万〜4万円の「ヌレンザ」だ。

「ぬれない傘」で「ヌレンザ」。撥水(はっすい)性が特徴のこの傘、決して名ばかりではないようだ。

機能性の高さなどが評価され、トヨタの高級ブランド「レクサス」の関連グッズ「レクサスコレクション」にも採用された実力派。しかも、橋本さんが語るように、本当に苦情・クレームから生まれた商品だったのだ。

なんでこんな目に…

《ぬれた傘を車の中に持ち込んだら、ビチョビチョになった》

《傘を閉じても、電車の中でぬれてしまった》

こんな苦情が寄せられたのは、福井商工会議所福井市)が平成15年から始めた「苦情・クレーム博覧会」。橋本さんは当初、「そんなこと言われても…」と戸惑ったという。




しかし、混雑した通勤電車の中では、ぬれた傘で他人に迷惑をかけることもあり、他人の傘で自分の服がぬらされることもある。傘を閉じたら水滴が全部一気に落ちるような傘ができれば、これらの問題は解決できる。傘の常識を覆す新商品の開発が始まった。

「なんでこんな目に遭わなければならないんだ」。橋本社長は壁に当たる度、何度も途方に暮れた。そんなとき、ふとハスの葉が頭をよぎったという。

ハスの葉は決してぬれることがない。葉に落ちた雨は表面張力で玉のように丸まり、水滴となって転がり落ちる。葉の表面に極めて微細な凹凸があり、水をはじいているからだ。

このハスの葉の表面構造を応用。17年1月、布地に水をはじく高密度のポリエステルを使い、閉じると瞬間に水滴をはじき、常に乾いた状態を維持する傘を販売。当初計画の3倍の売り上げを記録した。

「苦情やクレームから、まさかこんなヒット商品が生まれるなんて思ってもみなかった」。橋本さんは、貴重なヒントをくれた消費者の苦情・クレームに感謝している。

「苦情買い取ります」

ヌレンザの“生みの親”となった「苦情・クレーム博覧会」のキャッチフレーズは「あなたの苦情、買います」。1050円を支払った閲覧者が500円(1票100円)分の投票権を持ち、企業の商品開発やサービス改善に有益な意見に投票。有益な意見を寄せた人は得票ごとに100円を得る仕組みだ。

福井商工会議所の担当者は「大企業ならお客さまの声を生かして商品開発できるが、中小企業にはない。そういう商品開発につながればと、お客さまの声を集めようとした」と明かす。

この博覧会から生まれたヒット商品はまだある。

「まさに苦情は宝の山だった」と語るのは、軟質ビニールを使った浮輪やボートなどを製造しているヒオキ(岐阜県瑞穂市)の営業課長、日置武志さん(47)。新商品開発を社内で議論しても、どうしてもメーカーサイドの発想になってしまい、アイデアが枯渇していたという。


《遊んだ後、浮輪を片付けるのが大変。空気を抜くのも時間がかかる》

ヒット商品のきっかけはこんな苦情だった。空気栓の根本を指でつまめば、空気がゆっくり抜けるようになっているが、「指が痛い」という苦情もあった。

そこで空気抜き専用の大きな栓を設置。コストも余計かかり価格も上げざるを得なかったが、売れ行きは好調で、その後、従来の空気栓を改良。空気を抜きやすくして商品化した。売り上げは2割も伸びた。

「空気栓の構造を知らない人の苦情と思っていたが、そうではなかった。消費者の声に『なるほど』と思った」と、日置さんは振り返る。

家庭の愚痴も1件10円

福井商工会議所が商品開発やサービス改善に有益な意見をインターネットで募集したところ、15〜21年度に4万件超の応募があった。残念ながら、「役目は終わった」(福井商工会議所)として、21年度に終了。苦情・クレーム博覧会は、苦情でも有益だったと認められれば“報酬”がもらえる仕組みだったが、どんなクレームでも、愚痴でも1件10円で買い取ってくれる会社が東京にある。

「ネガティブにとらえがちの不満も買い取って、企業に提供していきたい」

こう語るのは、その名も「不満買い取りセンター」(東京都渋谷区)社長の森田晋平さん(38)だ。

日常のあらゆる不満を買い取り、改善や開発のヒントとなる「不満共有サービス」を提供。買い取った消費者の「不満」を1件5円で企業側に販売することを計画しているという。

《マスクしている店員の顔が美人かどうか分からない》

《4人なのにカニクリームコロッケが3つ出てくる。6個だと多い》

一口にクレームや苦情といっても“玉石混交”だ。中には、必ずしも「クレーム」とすら言えない、こんな不満も寄せられる。

《旦那の帰りが遅い》

もはや家庭内の問題だ。単なる愚痴も、本当に商品開発に生きるのか。

同社の担当者は「『夫の帰宅が遅い』という不満は、例えば、ケーキ屋さんが遅い時間に『妻のご機嫌とりセット』などを夫向けに販売するヒントにもなる。夫を雇用する企業ならば半期に一度、妻にプレゼントを贈ったりして夫の仕事への理解を促す。そうすれば社員のモチベーションも高まり、業務の効率化も進む」と言い切る。


これまで寄せられた不満は約5万2260件。不満を売りたい場合は、まず同社に会員登録し、不満を50件か100件まとめ、メールで応募する。日頃から不満を書き留め、100件まとめて応募すれば、1千円の収入になる計算だ。

「日本の目安箱に」

集まった不満は宿泊業界や通販、接客部門など業種別に分類。固有名詞の書かれた苦情・クレームは匿名化して企業側に提供する方針という。

世相を反映した不満も少なくない。

《備え付けの調味料や皿は清潔なのか?》

《前の人の使い方がわからないので、皿は置きっぱなしにしてほしくない》

若者が回転ずし店でしょうゆケースの注ぎ口を口でくわえたり、お好み焼き店でソース入れの口を鼻に詰めて遊んだり…。こんな写真が短文投稿サイト「ツイッター」に掲載されるたび、ネット上で話題になるが、テーブル備え付けの調味料の「衛生管理」に、消費者が不信感を募らせていることもうかがえる。

アルバイト1人だけで1店舗を切り盛りする「ワンオペレーション(ワンオペ)」という言葉もネット上で話題になったが、消費者からはこんな提案も。

《店員が少なすぎて、見ていてかわいそうだから、客が手伝えるシステムはどうか》

外食産業では人手不足が表面化している。負担の重さから、比較的安い賃金で働いてきたパートやアルバイト従業員が離反。必要な人員を確保できず休業を余儀なくされる店舗も相次いでいるだけに、「客が手伝う」というのも一つのアイデアかもしれない。

同社は「飲食業に従事する皆さんの商品開発、サービス改善に役立ててほしい」として、5月19日、「飲食業に対する100の不満」を厳選し、ホームページで公開した。森田さんはこうした取り組みへの意気込みをこう語る。

「苦情・クレームは眠っていた資源。これを活用しない手はない。日本の目安箱にしたい」



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