一体どこからどこまでがAIよ?とか
そもそも「自動プログラム」以外のAIなんてあるの?
といった本質的な問題を軽々と踏み越えて「AI的なもの」は日々どんどんその範囲を広げている。
「軽々しく人工知能なんて言うものじゃない」と言っていた人も「ある意味これもAIだ」と言い出すほどの機運である。
で、どこからどこまでが本当のAIか?という技術的思想論ではなく。
「AI思想」というのは今もこれからも「人間自身への戒め」を与えてくれるものだと思えて仕方ない。
そういう意味では、これまでの三度の産業革命というのは、まだヌルかったのだ。
書籍が印刷されたり、動力が生まれたり、はすごいことだがまだ「人知」を超えてはいなかった。
まあいえばパワーだけで勝っていたというか。
この度の革命は「知恵」の部分でも「スピード」の分野でもはるかに人間を超える可能性がある。
初めての「人類の脅威」と言っていいのではないだろうか。
これを予め予想できていたのはSF作家だけだと思う。
今考える最高の想像力、がリアルに実現されようとしているってことだ。
さて今さらAIの台頭を嘆いても始まらない。
自分たちのリアルの仕事の「最高の想像力」をせめて働かせたいなぁ、と切に思う。
もう多分、今自分のしている仕事ってそのうちAIがやってくれるに違いない、と思うから。
人は短期ではもう勝てない? AIが資産運用の主役に|マネー研究所|NIKKEI STYLE
AI(人工知能)が株式投資などの運用をするようになると、どんなことが起こるのだろう。AIの技術進歩と金融実務の両方に詳しい、金融情報会社のRPテック取締役、櫻井豊さんに解説してもらった。
──なぜここへきて、AIを活用した運用が関心を集めているのでしょう。
きっかけになったのは機械学習の進歩です。ひと昔前は、機械運用は能力的に駄目だと思われていました。私も実際にやってみたことがあるのですが、作れるモデルが単純すぎて、複雑な相場をとらえられるようなものではありませんでした。
そんな状況だったのが、この10年くらいの間に機械学習の統計的な手法がすごく進歩した。それだけでも大きいのですけれども、さらにディープラーニング(深層学習)の手法が発達して、可能性が飛躍的に開けました。AIと金融はそもそも相性が良い。運用に関心のある人なら絶対トライしてみたくなるほど、今は良い仕組みができてきているんです。
1986年早大理工学部数学科卒。東京銀行やソニー銀行などを経て現職。金融技術と金融理論・実務に通じ、著書の評価も高い
──ヘッジファンドがここ数年苦戦する中、AI系のファンドの成績が良好ですね。この流れは今後も強まるのでしょうか。
少なくとも短期の取引で、人間のトレーダーが駆逐されていくのは間違いないと思います。超高速トレードはもちろんですが、10分とか、あるいは1時間から数時間のトレードは、AI技術を使った研究が進むと、ほとんど人間はかなわなくなるというのが個人的な印象です。長期のトレードはまだ時間がかかると思いますが。
■チャートを超える法則も
──例えば腕利きのデイトレーダーのコピーを作る、みたいなイメージですか。
必ずしもそうではありません。腕利きのトレーダーも何らかの(こうなったらこうするという)パターン認識をしているはずで、それを機械が読み取るというアプローチはあり得ます。ただ、トレーダー本人も自分の行動の理由がよく分からないというケースもあり、機械による読み取りが難しいということも考えられます。
テクニカル分析ではチャートが使われますが、それについて話を広げますと、人間が築いてきたチャートの経験則も、それはそれで本質を突いているとは思うけれど、機械から見ると値動きパターンのある一面しかとらえていないということが言えます。
チャートはチャートで表せるものしか認識できませんが、機械でとらえていくと、もっと多様な、硬直的でない、複雑で微妙な経験則が見つけられるかもしれない。
櫻井さんの近著『人工知能が金融を支配する日』
──AI運用が広がってくると、ヘッジファンドのありようも変わってくるかもしれませんね。
最近ではブラックマンデーの時に空売りで大儲けしたポール・チューダー・ジョーンズ氏が、運用成績の低迷を受けてAIを使った運用にかじを切った、といった話が伝えられています。これは、ジョージ・ソロス氏やポール・チューダー・ジョーンズ氏のような、人間一人の抜きんでた才覚でやってきた20世紀型のファンドが白旗を掲げ、機械運用を始めているということなのでしょう。
ここ数年、ヘッジファンドは成績が振るわず、資金が流出している状態ですけれども、一方でうまくやっているところはあって、その中でAIを使っているところが目立つ、という状況にありますから。
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──雑ぱくな質問ですが、10年たったらどんなことが起こりますか。
プロフェッショナルの運用の世界では、人間の意思決定が相当減っていると思います。短期のトレードはもちろんそうでしょうし、長期のアセットアロケーションにしてもそうでしょう。
人間は、自分自身が最終的な判断を下すのではなくて、結論を導くアプローチを選ぶのが大事になる。どんなAIを使って結論を得るのか、といいますか。
──人間の運用者がいなくなる。
そうではありません。ただ役割は変わってきて、一人の人間がその人の勘だけで動かしていくというのが劇的に減っていくのではないか。AIも含めたいろんな情報をベースに、人間が最終的には判断するというのはあると思う。完全機械化というのではなく、機械が担う役割が増えてくるというのであって、全部の仕事が、つまり予想から実行まで完全に機械が行うというわけでは必ずしもないのです。
──個人投資家にはどういう影響が考えられますか。
儲けられる人が減っていくというのはあり得ます。特に短期取引は機械の割合が増えていくので、機械に取られるような戦略の人はだんだん勝てなくなっていく。スピードではかないませんから。
ただ、戦略は無数にあるので、まだ機械が読み取りにくいような戦略をやっている人は生き残るでしょう。でも5年、10年たつとどこかでそれを認識する機械ができるかもしれません。
■個別株はまだまだ大丈夫
──どんな必勝戦略も、いつかAIが気が付いて、やり始める可能性があるということですね。
そうですね。
でも、私も株式投資をやりますが、個別株の細かいところまで考えると、まだまだ人間が取れるところはたくさんあると思いますよ。
──それはほっとします。
機械がそこまで勉強できないというのか、機械を使った運用の対象になってないと言った方がいいかもしれませんけれど。
今は、やはり機械の運用対象は比較的流動性が高いもので自動取引が可能なもの、為替とか。株ならば先物やインデックス。つまり、CTAがやるようなコモディティーは機械も取り入れやすいのですが、売買がそんなに多くなく、公開情報が少ないような日本の個別銘柄みたいなところまではAIも追い付いていない、というかそんなところまでやっている人はまだほとんどいないと思います。
ただ流動性が高い株はいずれ機械がカバーするようになる可能性はあります。まだ人間がやれるという領域も、5年10年たつうちには次第に侵食されていくことにはなっていくと思います。
──しかし、良い銘柄は基本的には上がっていくものだから、人間がもうけられなくなるというわけではないですね。
そうですね。
それから、うまい具合に株価の上げ下げでもうけるというのは難しくなると思いますが、ある程度下がったところで買っておこう、というような単純な戦略は意外とワークする可能性がありますよね、小難しいことをしなくても。
仮にAIが、下がったところで買ってしばらく塩漬けで持っておくのがよいと判断したとしても、そんな取引を実行に移すというのは、ファンドとしてやりにくいかもしれませんから。
(日経マネー 嶋田有)
[日経マネー2017年5月号の記事を再構成]
日経マネー2017年5月号 [雑誌]