藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

主役の見極め。


法科大学院が迷走している。
日弁連の会長選挙も終わり、守旧勢力が「逆ブレ」を示してもいる。
法曹への期待、つまり国民のどれほどの要望があるのか、ということを根本に据えないと、今の子供手当論争よろしく、「主役不在の議論」に終始することになる。
法曹人口の多寡は、その需要を勘案して長期的な視点で計画が必要である。
国の教育政策とか、産業の将来ビジョンと同じく「常に主役ありき」の検討を望みたい。


初日に大臣が欠席、ではいつまで経っても魂が入らないだろう。
日本にとっては重要な検討課題である。

法科大学院見直し、大丈夫?

司法改革の理念通りに進まず、法科大学院を中心に見直しが焦点になっている法曹養成制度。関係者の利害対立で方向性が出せない現状を解消しようと、法務省文部科学省副大臣をトップにした見直しチームがようやく発足した。
「政治主導」を演出しようとしたものの、主役の一人は欠席。
権限や時間も限られており、解決への道筋がつけられるのか不安を感じさせるスタートになった。

■法務・文科で認識に溝

 法務省で今月1日、初会合があった「法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム(WT)」。集まったメンバーはいきなり肩すかしを食った。

 両副大臣が顔をそろえて「政治主導」をアピールするはずだったが、文科の鈴木寛副大臣が国会審議の都合で急きょ欠席。
もともと1月中に始める予定を両副大臣の日程をそろえるために延ばしていただけに、法務の加藤公一副大臣は「残念」と言うしかなかった。

 2004年に開校した法科大学院は新たな法曹養成制度の中核。
ところが、当初「7〜8割」と想定された修了者の司法試験合格率は年々下がり、09年はついに3割を切った。合格者も2043人止まりで、「10年ごろに3千人」という政府目標の達成は絶望的な状況だ。

 新制度がうまく機能していないことに誰も異論はない。
だが、原因となると、「大学院のレベルが低い」という論調の法務省法曹界と、「改革の理念に沿った司法試験になっていないことも一因」という文科省法科大学院で認識が食い違う。

 WTの目的は、こうした状況を解消するため、政策を主導できる両副大臣の下で、「どこに問題があり、何を変えればよいか『共通認識』を持つ」(法務省幹部)ことにある。

 法曹養成制度は、目指す法曹の姿や法曹人口の議論と切り離せないが、加藤副大臣は「政府を挙げてやってきた改革をこの会合だけでひっくり返せない」と、あくまで「論点整理」の役割を強調。実際の見直し策は夏の参院選後に新たな枠組みで進める意向だ。


 しかし、それさえも心もとない。WTに与えられた時間は6月ごろまで。会合は月1、2回開き、関係者のヒアリングもする予定だが、国会対応に追われる副大臣がどこまでかかわれるのか。
メンバーに入る日本弁護士連合会は次期会長選が再投票になり、方針が定まらない。

 来年には、法科大学院を経由しなくても司法試験の受験資格を得られる「予備試験」が始まる。
「その合格者が多ければ、法科大学院の存在意義が薄れ、制度が崩壊しかねない」と法科大学院関係者は気をもむ。


■養成全体「再検討を」

 「次は法曹界の番だ」

 「質の低下」批判を浴び、法科大学院の改革に取り組んできた文科省中央教育審議会の側からは、WTをきっかけに「聖域」の司法試験に切り込むことを期待する声が高まっている。

 両者は教育内容に問題のある大学院の存在を認め、各校に統合や定員削減、改善努力を強く促してきた。
「試験主義への逆戻り」と批判されながらも推し進めたのは、合格率低迷で社会人などが進学を敬遠し、多様な人材を呼び込む司法改革の理念からかけ離れていく現実に危機感を持ったためだ。

 それだけに、昨秋の司法試験合格発表を関係者は憤りとともに受け止めた。
「大学院は理念に沿った改善努力をしているのに、なぜ計画通り合格者が増えないのか」。
直後の中教審特別委員会では、司法試験を所管する法務省への不満が相次いだ。

 だが、法務省と法曹三者の側は一歩も引く気はない。

 司法試験の合格者は、司法試験委員会の下に置かれた約200人の考査委員が事実上、多数決で決めている。
その半数は法科大学院の教員。
法務省からすれば「合格者数は、大学院側も認めた結果」というわけだ。
現状で「法曹の質」を保てると判断された合格者は年間2千人程度。「学校数も定員も今の半分程度で十分」という声さえある。

 ただ、それは従来型の法曹像を前提にしているのも確かだ。
ある中教審の委員は「新試験の合格者にどんな能力を要求するのか明確な合意がないまま制度が始まった。それが迷走の一因ではないか。
改めて法曹養成全体を見直す必要がある」と指摘する。

 司法制度改革論議に携わった法務省幹部も言う。
「結局、社会の中で法曹が果たす役割と、そのための必要数というそもそも論に行き着くことになる」


■「法曹需要は増大」…9年前の想定、現実と相違

 法曹資格者を「国民の社会生活上の医師」と位置づけた司法制度改革審議会の意見書(2001年6月)はどんな理念と前提を描いていたのだろう。

今後の法的需要の増大を考えると、法曹人口の大幅な増加が急務

 司法統計によると、全国の地裁で受けた最近の民事・行政の通常訴訟は06年まで年13万〜15万件程度。07年、08年は増えたが、増加分の大半は一時的に急増した過払い金返還訴訟で、今後は減るとみられる。
弁護士の受け皿として期待された企業や公務員への採用も伸びていない。

 意見書は達成すべき法曹人口を「5万人規模」とし、そのため「年間3千人合格」の目標を掲げた。

だが、日弁連の試算では、その通りに進めると法曹人口は18年に5万人を超え、54年に約13万人で均衡する。


■裁判官、検察官を大幅に増員すべきだ

 09年までの10年で弁護士は約1万人増えたのに、裁判官は約600人、検察官は約200人しか増えていない。
合格者の9割を受け入れる弁護士会で就職難が起きている。

■多様性拡大のため、法学部以外の出身者や社会人を一定割合以上、入学させる

 7〜8割の合格率により、社会人経験者らが集まると期待された。社会人や他学部出身者の入学割合は04年度はそれぞれ約48%、約35%だったが、今年度はいずれも25%強に落ち込んでいる。