藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

エネルギーと未来。

孫氏が行政側に働き掛け、いっきに「脱原発」を画策している。
非常に大きな力だけれど、そこにはまた「反力」も強くはたらいている。

孫が披露した構想は、地方自治体から遊休地を借り受け、発電容量2万キロワットクラスのメガソーラーを全国10数カ所に設置するというものだ。孫は「(今の状況を)何とかしなくてはならないのです」と繰り返した。

議論の空転を防ぐために

いま巷をにぎわすこの議題には、共通の"同時的な視点の欠如"があると思う。
その一つが「発電の経済コストの試算」である。

発電能力を担保するには、東京ドーム数個分の敷地が必要との試算もあるほどだ。メガソーラーに詳しい上武大学池田信夫教授は「平地の少ない日本では立地が難しい」と指摘する。さらに発電コストが高く、採算が合わない可能性が大きいとの分析もある。

まず根本的に「採算に合う話かどうか」の前提が揺れていては、"その後の議論"の深みに欠けるのは当然であろう。

これが第一点。

法的整備。

メガソーラーは政府が検討中の再生可能エネルギーの全量買い取り制度が成立しないと、ビジネスとして成立させることは難しい。

そして、この「全量買い取り制度」は結局その根拠を「このソーラーシステムそのものが、実は採算に乗るものなのかどうか」という、どこか「政府によるコメの管理制度」にも似た"採算不在の制度ありき"といった様相も呈しているのだ。

すべての土台が、まだ確立しないまま「制度だけが突っ走る」という電波行政とか、貿易行政に似たことがまたもやエネルギーでも起きようとしているようにも見える。
これが二番目。

そして"政治"。

さらに『「はめられた」経産相』発言に垣間見える、(つまり現役の経産相が語る)、『政権延命のための「仮想敵」を経産省と位置づけた菅。政治の思惑』の問題である。


ここ数日の報道をみればだれもが「同一線上」でエネルギー政策を議論していないことが分かる。
ネット上には、もういくつも優れた定点的な論文が出ているが、最も重要なのは"そうした叡智"を集約して、しかるべき判断をすべき"政治家・政策"の慧眼であろう。


すでに「旧体制」は安全だったはずの原発、について反省を強いられている。
脱原発か、次世代のエネルギー施策はどこか、という今一番重要なディレクションについて"曇った目"で歪んだ判断をすることだけは避けねばならない。

「間違いの上に、さらに間違いを重ねない」ということくらいが、今の自分たちのできる冷静な判断のはずだと思う。

くれぐれも政治的・経済的・法的バイアスに歪んだままの議論にならぬよう、今後の日本をウォッチしたいと思う。(続く)

太陽光発電、孫氏に乗った知事と首相の皮算用
「逆らうべきではないと感じた」――。知事たちは脱原発を力説するソフトバンク社長の孫正義に圧倒された。太陽光発電(メガソーラー)など自然エネルギー事業への参入を目指す孫に対し、既に全国36道府県の知事が賛同を表明した。呼応するように、菅直人首相も自然エネルギーの重要性を声高に主張し始めた。1人の企業家が打ち出した構想に、なぜ政治家がこぞって引きつけられたのか。

「まるで目隠しされたように奥の院に案内された」。5月中旬、東京都港区のソフトバンク本社の一室。その会合先に呼ばれた知事の一人はこう証言する。「迷宮」に足を踏み入れるかのごとく集まったのは、黒岩祐治(神奈川)、阿部守一(長野)、古川康(佐賀)、尾崎正直(高知)の4県知事。メンバーはソフトバンク側の人選によるものだった。

「ようこそ」。笑顔で知事を出迎え、一人ひとりと握手を交わした孫。「なぜ我々4人だけ呼ばれたのか」「これからいったい何が始まるのか」。不安と好奇心から4人は孫の一挙手一投足にくぎ付けになった。程なくしてテーブルを囲み、5人は酒を酌み交わす。食事を取りながら、おもむろに孫が口火を切った。「皆さん、今こそ原発依存のエネルギーシステムを変えるべきです。提言というものは、それだけで終わっては意味がありません。実行力を伴わなくてはならないのです」


■知事を取り込む語り口

孫が披露した構想は、地方自治体から遊休地を借り受け、発電容量2万キロワットクラスのメガソーラーを全国10数カ所に設置するというものだ。孫は「(今の状況を)何とかしなくてはならないのです」と繰り返した。その鋭いまなざしや強烈な印象と裏腹に、語り口は意外なほど穏やかだったという。統一地方選で「エネルギー革命」を公約に掲げた黒岩らは思わずうなずいた。

「迷宮」を出た後、知事の一人は会合でよほど力が入っていたのか、強い脱力感を覚えたという。この会合の直後から、ソフトバンクは全国の自治体に対する呼びかけを一気に本格化させる。

真っ先に知事の好奇心をくすぐったキーワードの1つは「地方分権」だ。孫のメガソーラー構想は自治体が主導権を握ることがなかったエネルギー政策に関われる絶好の機会を提供してくれる。福島第1原子力発電所の事故以降、原発の再稼働問題や節電問題に翻弄されてきた自治体。エネルギー政策運営に地方が独自のエネルギー源を備えて臨むことができれば、地方分権を強調する多くの知事にとって大きなメリットになる。


孫の主導で13日に発足する「自然エネルギー協議会」への参加を表明した西日本の知事の一人は「地元にある身近な資源を活用してエネルギー政策に関われれば、選挙の票につながる」と強調する。今やエネルギー問題は国民の一大関心事。協議会への参加が票積みにプラスに働くとの読みが働く。

孫が巨額の資金を拠出する意向を表明したことも知事たちの背中を押した。多くの自治体は財政難にあえいでおり、まさに「干天の慈雨」(前出の知事)。ソフトバンクの働きかけに対し、次々と参加を表明する知事。賛同者はあっという間に36道府県に膨れ上がった。


■構想に懐疑的な見方も

知事の多くは私財10億円をなげうってまで自然エネルギーの普及に尽力しようとする孫の姿勢を評価する。だが一方で、懐疑的な見方がないわけではない。

宮城県村井嘉浩知事は「やはり一民間企業の利益のためにというわけにはいかない。ソフトバンクの利益になる部分を見極めないといけない」と語り、孫の構想に慎重な姿勢を示す。東京都の石原慎太郎知事も「太陽光もワーワー言われているが、それで日本の経済、産業が賄われることはない」とばっさり切り捨てた。

構想実現のハードルも高い。メガソーラーの建設に向けた詳細な段取りは公表されていないが、例えばメガソーラーを設置するには広大な土地が必要になる。発電能力を担保するには、東京ドーム数個分の敷地が必要との試算もあるほどだ。メガソーラーに詳しい上武大学池田信夫教授は「平地の少ない日本では立地が難しい」と指摘する。さらに発電コストが高く、採算が合わない可能性が大きいとの分析もある。

メガソーラーは政府が検討中の再生可能エネルギーの全量買い取り制度が成立しないと、ビジネスとして成立させることは難しい。孫が掲げる構想でも、どの程度の電力供給を賄えるのかは不透明だ。東北電力の関係者は「日照時間などにもよるが、仮に発電容量2万キロワットのメガソーラーを宮城県の七ケ浜に据えたとしても、一般家庭に換算して約6000世帯分にしかならない」と指摘する。

多くの難題を抱える構想。それでも突き進む孫の狙いについて、永田町では「NTTの次の仮想敵を経済産業省東京電力に置いたのでは」(自民党の閣僚経験者の一人)と見る向きもある。既得権を壊すことで事業を広げてきた孫は「国民のライフラインを担う公益」が信念だが、自然エネルギーを武器に政界を巻き込んで電力開放を新事業につなげようとしているとの見立てだ。

孫には知事を巻き込むうえで、政府の後押しを期待できるとの読みがあったとされる。そんな見方を裏付けるかのような動きが、最近の菅首相の言動に見え隠れする。

孫と菅。一見すると接点がないように映る2人を結んだのは「原子力からの脱出」を特集した月刊誌「世界」(岩波書店)だったという。孫は「東日本にソーラーベルト地帯を」と題する論文を寄稿。これを読んだ菅が会食を申し入れた。


■赤坂の日本料理店で何が

5月14日。菅は赤坂の日本料理店「球磨川」で、孫と約3時間にわたって会談した。首相周辺は「このとき孫社長から様々な耳打ちがあったのではないか」とみる。

このころから菅は孫が提唱する自然エネルギーに急速に傾注し始める。

孫と会食した4日後の18日の記者会見で、通信業界を引き合いに電力会社を発電部門と送電部門に分離する発送電分離に初めて言及。その後、自らの進退に絡めて再生可能エネルギー法案の今国会での成立を打ち出した。欧米などでは発電と送電を別々の会社が手がけるケースが多いが、日本では電力会社が一手に担う。メガソーラーをビジネスモデルに乗せるには電力事業の独占を壊すことが必要だ。

「役所とケンカを繰り返している自分の姿と重なる」。かつて民主党政調会長だったころの菅が孫をこう持ち上げたことがあった。そして今、「脱原発」を旗印に衆院の解散・総選挙をちらつかせ、早期退陣論をけん制する菅と自然エネルギーを推進する孫の利害は完全に一致している。

だが政局につながりかねない孫の動きに、政界から批判的な動きも出始める。「ポスト菅」の一人と目される前原誠司前外相は6月17日、都内で開いた財界人やジャーナリストらを集めた会合で「孫さんがあんな人とは思わなかった」と激しく批判。仙谷由人官房副長官も前原と足並みをそろえる。

与党内からも風当たりが強まるなか、菅が延命を図るには、「脱原発」の色合いを強めていくしかない。

6月29日夜、秘書官らとのすし店での会食に続き、焼肉店、イタリア料理店の3軒の飲食店をはしごした菅。前日の民主党両院議員総会を乗り切り、退陣論を封じ込めたとの解放感にひたっていた。同じ29日、海江田万里経済産業相九州電力玄海原発の地元、佐賀県を訪問し、古川康知事との会談で玄海原発の再稼働に向けた地ならしに汗をかいていた。


■「はめられた」経産相

前日の28日、海江田は「玄海を訪問する」と菅の携帯電話に直接伝えている。午後3時と4時に海江田は菅に電話したがつながらず、ようやく通じたのは5時。「明日、佐賀に行ってきます」と伝えた海江田に、菅は「行ってきて下さい。うまくやってな」と応じたという。菅は海江田が玄海原発の再稼働に向け、佐賀県を訪問することを了承していたわけだ。

だが翌29日、佐賀県の地元自治体が再稼働に応じる姿勢を示したことを受け、帰京した海江田に菅から突如、電話が入る。「俺は知らないからな、いいな」。「えっ?」。菅の言葉に海江田は一瞬耳を疑った。玄海原発の再稼働を容認したはずの菅が一転「待った」をかけたのだ。

「はめられた」。海江田は電話を切った瞬間、そう吐き捨てた。政権延命のための「仮想敵」を経産省と位置づけた菅。その狙いを海江田はこのときになってようやく悟った。

自然エネルギーを新たな事業につなげようと突き進む孫と、それぞれの皮算用から同じ船に乗った知事や首相。原発事故を機に一気に注目が高まった自然エネルギーには、様々な思惑が渦巻いている。

=敬称略(藤田哲哉)