藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

自分の就職時代、つまり30年前には思いもしなかったことだけれど、いよいよ「自分の希望で就職する」という時代が訪れているようである。
もう有名私大や国立大を卒業しても、(別に大手の就職先はあろうが)まったく大手と関係のない飲食業や、マスコミなどを志望する若者はとても多い。
さらに、いったん就職しようとも、もう「企業の隷属」にはならず、やりたいことを探しながら、自分の腕を磨いているような若者も多いようである。
いい意味で、「終身雇用」を必要とせず、けれども「自分に適する職」をじっくり探している若者が増えているのかもしれない。
こういうことも社会の「成熟度が上がっている」ということではないかと思う。
一つの「与えられし職業」を全うするのも大事なことだが、そういう「しっかりした覚悟」を持ちつつ、次の可能性を考えることは決して悪いことではないだろう。

逆にこれまでの「マスコミ系志望」とか「大手商社志望」という人たちには、一層厳しく。
「一体あなたは何がしたいのですか?」という日本の学生が一番苦手な質問が一般化してきている。

つまり、そろそろ日本の学生さんたちも「自分の想定問答を考え」つつ、「実は自分のやりたいこと」も考え、自分の本音に正直になりながら、や大手やベンチャーを問わずに進路を考える岐路に来ているのではないだろうか。

いたずらに起業を薦めるわけではないが、もう少し自らの裁量を斟酌して、中小企業や自らの起業を考えてもよいのではないかと思うのである。
アカデミズムでも、大企業でも、いよいよフラットに考える時代が訪れているのではないだろうか。

高学歴女子、なぜ貧困に陥りやすい?大学講師の惨状〜非常勤は低収入で一生独身も
ここ数年、高学歴ゆえに下手をすると一生、低収入や不安定な生活、さらに独身を強いられる女性が増えているという。そこで今回、その実態や背景について、『高学歴女子の貧困』(光文社新書)の共著者で一橋大学非常勤講師の大理奈穂子氏に話を聞いた。

    • 本書では、多くの人が大学院博士課程を修了しても非常勤講師のまま、なかなか専任教員の職を得ることができず、経済的にも不安定な日々が延々と続く現実が紹介されていますね。

大理奈穂子氏(以下、大理) 多くの学生がそうした現実を知らずに大学院に進学するため、出口の見えないトンネルのような非常勤生活に陥っていくのです。実のところ、どの教授も学生に対しては、「研究者を夢見て進学しても、専任職に就ける確率は極めて低く、経済的にも苦労する」などとという希望のない将来像を示したりはしません。一つには、そんなネガティブな情報を流したら受験者数が減ってしまい、ひいては大学経営上もマイナスになってしまうからでしょう。

    • 学生が博士課程を修了した先輩たちの実情を見て、危機感を持つようなことはないのですか?

大理 研究者のキャリア設計には、まるで幾重にも折り重なったカーテンを1枚ずつ押し開けていくような、特有の見通しの悪さがあるのです。先輩といっても、まだ経験の浅い学部4年生や修士課程の院生などの視野に入ってくるのは、せいぜい5学年ぐらい年上の人までですし、研究室というのはよく「蛸壷」と揶揄されるほどに狭い単位ですから、それほど多くのケースを見ることはありません。

    • 非常勤講師の年収は、一般にどのぐらいなのでしょうか?

大理 非常勤講師は、ひとつの大学につき1週間に3コマまでしか講義を持てません。したがって複数の大学、また予備校などでも授業を掛け持ちせざるをえないのですが、それでも年収はせいぜい300万円です。大学にもよりますが、専任教員になれば助教で年収400万円、専任講師で600万円が相場ですので、専任と非常勤の給与格差は額面で2倍ほどにも及びます。

 しかも職位に年齢は関係ないので、たとえ50歳になっても非常勤講師である限り、収入は変わりません。大学までの交通費は支給されますが、社会保険には加入しないので年金は国民年金、健康保険は国民健康保険です。

    • 非常勤のまま、勤務する大学の定年に達するとどうなるのでしょうか?

大理 大学の定年は多くが65歳で、その年齢になれば、翌年度への雇用契約の更新はないと書かれた通知が送られてくるだけです。非常勤なので退職金はありません。その後の生計は予備校の講師、学習塾の講師、家庭教師、だいたいこの3つに拠ってなんとか立てていくというのが定番コースです。

●専任と非常勤の収入格差は事実上3〜5倍

    • 研究費も支給されないということは、学会への出張費も自費なのでしょうか?

大理 自費です。研究費は専任であれば勤務大学から年間に数十万円が支給され、これを基本的な学会費や旅費、設備費、書籍費などに充てることができます。文部科学省の科学研究費補助金科研費)を取得することができれば、手に入る研究費はもっと潤沢なものになります。

 研究者は通常5〜6の学会に所属しますが、年会費がそれぞれ数千〜1万5000円ほどです。学会は全国の主要都市を巡回するように開催されるため、地方出張も多いのですが、交通費と宿泊費で1回につき4〜5万円がかかります。非常勤講師の場合はこれらの経費はもちろん、書籍の購入もすべて自費ですし、科研費に応募する権利は与えられてもいません。基本的な研究費に加えて科研費取得の余地を考慮すると、専任と非常勤の収入格差には事実上3〜5倍の開きがあることになります。

    • 複数の取引先を持つという意味では、非常勤講師は自営業者ともいえるのでしょうか。

大理 いえ、そうではありません。私は青色申告をしようと思って、地元の青色申告会に相談に行ったのですが、勤務大学からの収入が「業務委託費」でも「報酬」でもなく「給与」なので、青色申告ができないのです。そこで勤務大学にも掛け合ってみたのですが、「給与」でしか支払えないという回答でした。

    • ということは、必要経費も控除できませんね。

大理 研究活動や採点業務などは自宅で行うのですが、家賃の半額を経費に計上することもできませんし、学会への出張費用も経費として控除できません。確定申告で経費控除はゼロです。同じ年収の自営業者に比べると所得が断然高くなるので、国民健康保険の納付額などは高いはずです。非常勤という非正規雇用制度による経済的に低水準で不安定な立場、税務処理で青色申告ができない不利な立場という、2つの制度の間のすき間に非常勤講師は置かれています。

    • 非常勤講師の収入では、民間企業の非正規労働者と同様に、なかなか結婚できませんね。

大理 非常勤の男女が結婚するケースが結構ありますが、そもそも女性研究者には一生独身の人が少なくありません。男性の場合は、専任講師になってから一回り以上年下であるはずの学部女子学生、多くは直接の教え子と結婚するのが伝統的なパターンです。

 結婚については男女の非対称性が顕著です。男性は妻子を持って一人前と見なされますが、女性は独身でなければ論外、つまり結婚することは研究の第一線から退くと見なされてしまうため、独身率が高いのです。なかには、医師や弁護士などの高所得者と結婚して一見勝ち組に見える女性もいますが、そうしたケースでは、家庭生活上の制約に縛られて行き詰まってしまう場合があります。夫の転勤や生活時間のすれ違いなどで、研究を継続しにくくなってしまいがちなのです。
 女性の教授たちの口からはよく「女性は論文数でも教育活動でも学内業務でも、男性の2倍業績をあげないと認めてもらえない」という言葉を聞きます。それが当たり前という業界なので、勢い女性は独身を通さざるを得ないのです。それこそ死ぬ気で働いて、自分の能力が男性に劣っていないことを証明しなければなりません。

●疲弊する大学という職場

    • 女性が不利である背景には、男女差別があるのですか?

大理 表立ってはありません。文部科学省も専任教員の女性比率を高めるよう大学側に要請しています。ただ、非常勤から専任への登用人事を選考するメンバーがほとんど男性で構成されているので、専任のポストが空いたときに男性が優先的に登用される傾向が強いようです。非常勤から専任に登用される際の基準が明確でないことも、人事の不透明さとして挙げられるでしょう。

    • 非常勤講師が常勤職の獲得をあきらめるタイミングというのはあるのでしょうか?

大理 民間企業では転職年齢の上限目安が35歳といわれていますが、非常勤から脱却して常勤職に採用される上限は45歳ぐらいです。この年齢を過ぎたら一生非常勤で終わってしまうのが実情で、それだけにプレッシャーがあります。

 さらに職場環境全体の疲弊が進んでいることも、プレッシャーの要因でしょう。大学経営が民間企業並みに弱肉強食の時代に入ったことで、教員全体が上意下達のもとで業務のマシーンとなってしまい、精神的なゆとりを持てなくなっているのです。教育には温かみのある人間関係が必要ですが、それが保てなくなってきています。

    • そうした環境では、精神を病んでしまう教員も多いのではないでしょうか?

大理 研究職専用の求人サイトがあるのですが、募集要項に研究実績のほかに「心身とも健康であること」と書かれてある求人票をかなり目にします。このような表現は障害者に対する差別にもなりかねませんが、うがった見方をすれば、それだけ過労から心身を病んでしまう教員が少なくないということかもしれません。

    • 大理さんは、どのようなステップで常勤職への転換を考えているのですか?

大理 研究職には、勤務先と学会という2つの所属先があるといわれています。そこで私は3つの手段を考えています。第一にさらに研究実績を積むこと。第二に学会の懇親会などで各大学の教授たちとの人脈を広げること。第三に非常勤講師として勤務する大学の専任教員たちとも仲良くなっておくこと。先ほど申し上げた科研費を使用した研究プロジェクトなどへの参加は、専任教員から声をかけていただくことが多いのです。

    • ありがとうございました。

編集部