藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

リアル世界の問題に

建築業界の人手不足が深刻化している。
というか、現政権の政策の影響の円安誘導で色んな所の反応が顕在化してきている。
建設も、ビル管理も、介護も、外食や事務のサービスも、大都市圏ではまったく人が足りない。

けれど一方、いわゆる総合職、ホワイトカラーの正社員は相変わらず就職難だという。
極端な二極化の中で、高齢化だけが静々と進行しているのが実情のようである。

激変緩和、という言葉があるが、時代の波に影響を受けている今の四十代以下の人たちは「一旦受けた冷たい仕打ち」を二度と忘れはしないだろう。
将来性がある、と言われたIT企業で賃金が頭打ちになったり、自宅待機になったり。
期間雇用の現場労働者がリーマンショックなどで突如「完全失業」に追い込まれたり。
建築需要がここ15年で「半減した」と言われれば、長年キャリアを積んできた「当事者」たちにとってはたまったものではない。

「半減、とか倍増」といった言葉は、自分たちの実社会には変化が激しすぎてそぐわないのである。
物の売れ行きが伸びる、とか停滞するという話題には様々な「生産管理」の技術が活躍し、ジャストインタイムのような工夫が生まれてくる。
けれど「人の需要の緩急」について、自分たちは急には対応しにくい。
機械の製造過程ではなく、「将来についての見込みや不安感」が供給には大きく影響する。

「今日はいらない」けれど「また集まれ」というリーダーシップなど成立できないのである。

公共事業の伸び縮みとか、サービスワーカーの需給などについては「今の財政だから」という文言は通用しない。
将来を見据えたビジョンが必要なのはこうしたリアルな「人の直接の仕事」なのである。
魔法の杖、つまりネットのレバレッジの効かない部分が今クローズアップされてきているのではないだろうか。

建設現場の人手不足 解消に「魔法のつえ」なし  編集委員 志田富雄 2014/6/29 7:00
日本経済新聞 電子版
デフレに隠れていた日本の構造問題が、景気回復とともに目の前に表れました。人手不足です。とりわけ深刻なのが鉄筋工や型枠大工、とび職といった建設職人の不足です。資材価格の上昇とともに建設費用は高騰し、公共工事の遅れが相次いでいます。被災地の復旧・復興への影響も気がかりです。2020年の東京五輪パラリンピックの施設も計画の変更を迫られそうです。

ダンピング受注のしわ寄せ
公共事業と民間を合わせ1996年度に82兆円あった日本の建設投資額は、東日本大震災時の2010年度には42兆円弱とほぼ半減しました。長引く景気低迷に加え、政府が公共工事の削減策を進めたためです。

その過程で、総合建設会社(ゼネコン)などは激しい受注競争を続けました。国土交通省は昨年3月、各建設業団体のトップや自治体にあてた書簡で「ダンピング受注のしわ寄せが労働者の賃金低下をもたらし、技能者を減少させた」と指摘しています。

震災前の10年には鉄筋工、型枠大工ともに賃金水準が年収で200万円近くまで下がったとされます。仕事量にムラがあるために収入は安定せず、交通費や食費、道具代もほとんど自腹です。若手の技能者ほど将来に不安を感じ、建設業に見切りを付けて転職していきました。型枠大工の団体である日本建設大工工事業協会(東京・港)が昨夏に実施した調査では、型枠大工は55歳以上が全体の3分の1以上を占めています。

志田富雄(しだ・とみお)83年日本経済新聞社入社。欧州編集総局(ロンドン)時に初めて原油、金、非鉄金属などの国際商品市場を取材。北海ブレント原油が1バレル10ドル台を割り込む相場低迷や「すず危機」などを目の当たりにして商品市場の奥深さを知る。英文記者を経て商品部へ。石油、食品、鉄鋼を担当。現在、商品部編集委員論説委員
志田富雄(しだ・とみお)83年日本経済新聞社入社。欧州編集総局(ロンドン)時に初めて原油、金、非鉄金属などの国際商品市場を取材。北海ブレント原油が1バレル10ドル台を割り込む相場低迷や「すず危機」などを目の当たりにして商品市場の奥深さを知る。英文記者を経て商品部へ。石油、食品、鉄鋼を担当。現在、商品部編集委員論説委員

日本の建設市場はゼネコンを頂点に1次下請け、2次下請け、3次下請けがぶら下がるピラミッド構造で成り立っています。その建設市場全体が縮小を続けたのです。セメント協会(東京・中央)のまとめで国内のセメント製造の設備能力が80年度の1億2600万トンから5500万トンまで半分以下に削減されるなど、建設資材の製造とその輸送能力も激減しました。

こうした状況で急に建設投資が上向けば、至る所にボトルネックが生じるのは当然です。現場の人に話を聞けば「鉄筋工が足りない」「いや型枠大工の方が足りない」「ダンプカーがない」「ダンプがあっても運転手がいない」とないない尽くしです。

建設現場では人繰りがつかず、鉄筋などの納入が前日になって急にキャンセルされたり、納入した生コンクリートに使い道がなくなったりするケースも増えています。すぐに固まってしまう生コンは練り始めから一定時間内に納入しなければならない決まりがあり、使い道のなくなったものは「残コン」「戻りコン」と呼ばれるムダにつながります。

工事が計画通りに進まない工期遅れはもはや当たり前。建設費の上昇が急なため予算の見直しが追いつかず、自治体が発注する工事は応札価格が予定価格を上回ってしまい、契約できない「入札不調」も後を絶ちません。今月も東京五輪に向けて建て替える国立競技場の解体工事が入札不調となり、7月に予定した解体工事が遅れそうです。

資材は価格は上がっても増産したり、輸入調達を増やしたりして何とか必要量を確保できるかもしれません。一方、職人の補充は容易でありません。建設技能者の数は現在およそ330万人といわれます。全国鉄筋工事業協会(東京・中央)の内山聖会長は「本当に330万人いるのか正確な数も把握できておらず、実感としては50万人くらい足りない」と話します。

鉄筋を加工したり、組み立てたりする鉄筋工。コンクリートを流し込むための枠を作る型枠大工、施工後に枠を外す型枠解体工、足場を組み立てるとび職など建設現場の仕事は様々な専門職に分かれ、どの分野が足りなくても工事全体の進行は遅れてしまいます。職種によっては5〜10年の経験を積んでやっと一人前になります。経験の浅い人が増えれば工事中の事故が増える心配もあります。

建設現場では人手不足を受けて職人の賃金が上昇しています。価格が上がり、(ヒトの)供給を増やそうとする市場原理が働き始めたのです。建設技能者は激しい受注競争の中で流動化=非正規化が進みました。経営の苦しくなった建設会社が社員として抱えていられなくなり、親方を中心に数人、あるいはたった一人の「一人親方」として仕事から仕事を渡り歩く職人が増えたのです。こうした傾向は受注競争の激しかった東京、大阪、名古屋の大都市圏ほど強いといいます。首都圏などで職人の賃金上昇が顕著な背景です。

建設職人の流動化は問題も生みました。社会保険への未加入問題です。国交省はゼネコンなどに対して社会保険料分を上乗せし、それを別建てで明示した見積書で下請けと契約するように要請していますが、浸透には時間がかかりそうです。

■外国人や女性の活用を検討
政府や建設業の団体は人手不足の解消に役立てようと外国人や女性、予備自衛官の活用などを検討しています。中でも有力と考えられているのは外国人労働者です。政府は20年までの期間限定で外国人技能実習制度を拡充し、現在約1万5千人いる外国人実習生を倍の3万に増やそうとしています。

ただ、外国人の拡大も即効性は疑問です。現在、国交省が鉄筋工などの各団体にどれくらいの外国人実習生を受け入れられそうか調査している段階です。現場で十分な指導や安全管理ができ、宿泊施設も確保しなければなりません。現行の実習制度には賃金の不払いなどの問題が多く指摘され、ルール違反がないように監視体制もしっかりしたものに変えなくてはなりません。実際に受け入れ拡大に動くのは早くて来春になる見込みです。

政府は実習期間を現行の3年から最大5年まで延長することと、一度実習を終えて帰国した人の再入国を認めることで外国人の拡大を考えています。だが、もくろみ通りに外国人を増やせるかどうかも疑問です。全国鉄筋工事業協会が実習経験のある中国人を調査したところ、本人と連絡がとれ、再入国の意思を確認できたのは全体の1割にとどまりました。内山会長は「中国国内で賃金が上昇しており、これまでと同じ待遇では来てくれそうにない」と指摘します。

■職場環境の改善が何より重要
日本の人口、とりわけ若い人の数が減っていくことを考えれば外国人の受け入れ拡大は必要でしょう。しかし、技能実習制度は日本で習得した技術を本国で役立ててもらう国際貢献が目的です。一定数の外国人を労働力として確保するのであれば、そのための制度と環境整備が必要になります。

経済に減速感が出ているとはいえ、アジア地域では建設ブームが続いています。国内だけでなく、世界に目を向けても人材は奪い合いの状況なのです。日本が外国人労働者を必要とするのであれば、日本の労働環境が外国人に魅力的に映ることが求められます。

建設現場を女性にも働きやすくし、女性の活用を進めることも重要です。現場で必要とする人手を減らすため、建設手法を工夫したり、機械化を推進したりする技術開発も欠かせません。しかし、どれも建設職人の不足を一気に解消できる「魔法のつえ」にはなりません。

何より重要なのは悪化した労働条件を改善し、収入を安定させ、内外の人材を呼び込める職場環境に変えることです。若い人が働きたいと考える仕事にするためには週休2日の確保も重要とされます。足元では逆に、人手不足によって休日が減ってしまっていることは気がかりです。

人手不足の解消には時間がかかると想定した方がいいでしょう。その間、自治体などは不要不急の公共工事を後回しにしたり、工期に余裕を持って発注したりする対応が必要です。需要(工事)が集中するほどボトルネック(現場の混乱)は深刻さを増すからです。

建設に限らず、輸送業を担うドライバー、外食のホールスタッフや調理師、小売りの店頭で働く人材、介護など人手不足に共通するのは「現場の担い手」であることです。一方で、一般事務職の就職難は続いています。人手不足の解消には労働市場の流動化を進め、職業訓練システムを充実させて人材の移動をスムーズにすることが肝心です。