藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

真実を見過ごさないために

日経、冨山さんのコラムより。
日本は実は解雇がし易い国だという指摘。
いわゆる「整理解雇の四要件」と裁判の実効性との関係、さらに不当解雇が金銭救済されない点を誰も衝かない矛盾を指摘している。

 もとより日本は雇用の流動性が低いと言われますが、それは終身年功制が浸透している一部の大企業の話です。雇用者全体のせいぜい2割。残りの中堅、中小企業に勤務している労働者たちは、世界レベルと同様に流動性が高いことはデータを見ればわかります。それなのに、流動性が低いというイメージが浸透しているのは、全体のわずか2割が、あたかも全体であるかのような歪んだ議論がずっと行われてきたからです。これは解雇についても同じです。(中略)
冒頭のイメージは、実は裁判官も持っているとしか思えません。世の中には大企業の正社員しかいない、と。そして金銭補償がないということは、日本における正社員の地位はお金に換えがたいものだ、と考えているということでしょう。

さて解雇の条件が日本に適合しているか否か、については法曹界も実業界もいくつかの意見があると思うけれど、重要なのは「日本企業=解雇し辛い」という固定観念が、おかしいのではないか、と疑う「眼」だと思う。
これに似たことでもう疑われることなく通用している「通説」もまだまだあるのだろうと思う。
以前「思考のショートカット」の話で書いたこともあるが、こうした「○○イコール●●である」という方程式を使うと、物事が簡単に片付くことが多い。

ついつい少数派や異端的な意見を、「端から無視してかかる」という危険な態度にはくれぐれも気をつけねばならない。
特に仕事とか人間関係とか、自分たちが「生きる上で根幹的なこと」には、あまりショートカットを使わないで考えてみることが必要なのだと思った。

日本は先進国で最も解雇がしやすい国。−雇用の流動性が低い、というのも嘘?
日本は世界で最も雇用者が守られている国、解雇は先進国で最も難しい、というイメージを持っている人が、今なお少なくないようです。しかし、それは間違っています。実は日本は先進国で最も解雇がしやすい国、と言っても過言ではないのが、実情だからです。
 もとより日本は雇用の流動性が低いと言われますが、それは終身年功制が浸透している一部の大企業の話です。雇用者全体のせいぜい2割。残りの中堅、中小企業に勤務している労働者たちは、世界レベルと同様に流動性が高いことはデータを見ればわかります。それなのに、流動性が低いというイメージが浸透しているのは、全体のわずか2割が、あたかも全体であるかのような歪んだ議論がずっと行われてきたからです。これは解雇についても同じです。
 確かに大企業であれば、労働組合もあり、簡単に解雇するのは難しいでしょう。しかし、多くの中小企業は異なります。実態は、解雇は簡単に行われている。その理由のひとつが、解雇法制が歪んでいることです。
 例えば、日本には「整理解雇の4要件」があります。この要件の厳しさが、解雇の難しさのイメージにもつながっている面もあるわけですが、問題はこの法律は実効性を伴うのか、ということです。例えば、解雇されて不当解雇だと前の職場を訴えるとします。この時、裁判では、解雇無効で職場復帰という判決しかもらえない。「訴えの利益」がなくなるので、裁判中は新しい職場を見つけることはできません。
 
アルバイトをしながら元の職場への復帰を目指し、わざわざ裁判に訴える人が、さてどれだけいるか。不当解雇が金銭的に救済されるなら、さっさと転職先を見つけつつ、金銭補償を求めて訴える人も出るかもしれませんが、今の解雇法制では、それはまず不可能です。
 外部の労働組合と組んで、話し合いで和解を目指すケースもあります。しかし、思うような補償は得られないのが実情。しかも不思議なのが、労働者を守る労働組合は、金銭的な救済ができる法制化は必要ないと言っていることです。
 そもそも、裁判よりも短い時間で裁判と同じ結論をあらかじめ握る制度が和解です。結論が同じなら和解のほうが早い。しかし、結論は異なるのに、和解でいいではないか、というのは法治国家としてありえない発想です。
 例えば、アメリカでは解雇をするには相当な裏付け理由が必要になります。雇用の時点で解雇のルールが定められていて、それに反したら憲法違反になる、というケースも多い。だから新しく入った人から辞めてもらう、といったルールをあらかじめ決めておく。ホワイトカラーの場合も解雇理由は問われます。
 冒頭のイメージは、実は裁判官も持っているとしか思えません。世の中には大企業の正社員しかいない、と。そして金銭補償がないということは、日本における正社員の地位はお金に換えがたいものだ、と考えているということでしょう。
 この状況を変えようという動きが出始めています。本当の姿を今こそ見つめなければいけません。
Kazuhiko Toyama 経営共創基盤(IGPI) 代表取締役CEO
1960年生まれ。東京大学法学部卒。在学中に司法試験合格。スタンフォード大学MBAボストンコンサルティンググループ、コーポレートディレクション代表取締役社長、産業再生機構COOを経て現職。最新刊に『ビッグチャンス』(PHP)。