藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

アップルの投げかけ。

次期iPhoneの「iOS9」が広告のポップアップをブロックする機能を備える可能性があるという。

「出す側の論理」でいた広告代理店は戦々恐々としているという。

数年前「フリー」という著書が有名になり、「ただで情報を閲覧したり、アプリを使用する代わりに広告の露出を要求するというやり方がこれからの主流になる」と聞かされて、バーターとはいうものの、見る側も出す側も何だかお互いに無理をしあっているような気がしたのを思い出す。

その後、自由に閲覧できる情報はニュースから企業情報、公的な施行や公報ですら今やネットが当たり前になっている。
そして広告たちはますます幅を利かせている。
Googleを筆頭に、アフィリエイト、ターゲティング、リターゲティング、コンテンツマッチインタレストマッチ、リスティング、メール、バナーにRSSと、ネットの波間を跳梁跋扈していると言っていい。
広告の存在を好ましいと思う人と煩わしいと思う人では恐らく後者の方が多いだろう。
(もちろん無料で情報閲覧をさせてもらっているのだけれど)

ネットの通例よろしく、いつどこでどのように広告方針が立てられ、またそれが技術的にどのような仕組みで自分たちユーザの端末に表示されるのか。

多くのweb広告関連のプレイヤーたちは多くを語らない。
「情報を無料で見たり、広告を見せられたり」する関係ではあるけれどどこかに合意のない理不尽さを感じている人は多いと察する。

新聞雑誌とか、テレビラジオという媒体とは異質の「webという媒体」の性質と、その中での広告の在り方について、改めて新しいルールができることになるのではないだろうか。

広告はコンテンツの提供の対価として「然るべきルールで露出する」というフェアな関係が、情報の伝達一辺倒で成長してきたwebの世界でもそろそろ問われるような気がするのである。

「そんなの、webを分かっていないよ」と三十代までの人には言われそうだが、人の感情というのは技術主導でそうそう変質するものではないと思う。
そんな問いかけの先陣をアップルが切るのであれば、そういう試みこそが「やはりアップル」の持ち味なのではないかとも思うのである。

新iPhone登場で戦々恐々のネット広告業界
2015/9/15 3:30日本経済新聞 電子版
 先週末に予約が始まり発売への期待が高まる新型iPhoneが、ビジネスに大きな影響を与えるのではないか戦々恐々としている業界がある。ウェブサイトで当たり前のように表示される「ネット広告」の業界だ。iPhoneが搭載する新OS(基本ソフト)「iOS9」で追加される「コンテンツ・ブロッキング(またはブロッカー)」機能により、こうした広告が表示されなくなる恐れがあるのだ。インターネット登場以来の重要な収入源だった「広告で稼ぐ」ビジネスモデルが崩壊する懸念がわき上がっている。

9月9日(現地時間)の発表会でiPhoneなど新製品を発表した米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)=AP
9月9日(現地時間)の発表会でiPhoneなど新製品を発表した米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)=AP
 コンテンツ・ブロッキングは、iOS9が搭載する閲覧ソフト「サファリ」に追加される機能だ。この機能を有効にするとバナー広告などのデータをダウンロードしないようになる。これによりウェブページには広告を除いた残りの文章や写真だけが表示される。

■使いやすさのためというが…

 コンテンツ・ブロッキング機能を追加する理由として、アップルは広告を除くためだと明確に示してはいない。公式には、ウェブページの表示を「すっきりさせる」「良いユーザー体験を得る」ための機能と位置づけているのだ。

 6月に開催した開発者会議「WWDC 2015」では、ゴルフサイトのメニュー表示を消し、ペットのサイトで猫の画像を消して犬だけを表示するなど、広告以外のものを消す様子を見せた。そのうえで、「みなさんは何をブロックするかは分かりませんが……」と冗談交じりに聴講者に語りかけた。発言の裏に、広告ブロックを想定していることは明らかだ。

 確かに、コンテンツ・ブロッキング機能はユーザーの使い勝手を向上させる役に立ちそうだ。いち早くiOS9のコンテンツ・ブロッキング機能を組み込んだアプリ「クリスタル」を試作した海外の開発者によると「読み込み速度は3〜9倍、データ容量は平均53%を削減できた」という数字を8月末に発表している。単にわずらわしさを排除するだけでなく、速度や通信コストの面でもコンテンツ・ブロッキングの恩恵があることが証明された格好だ。クリスタルの開発者によると、バッテリー消費の低減にも効果があるという。

 高速通信規格「LTE」が普及したとはいえ、電波状況によっては通信速度が上がらずページが表示されるまでに時間がかかることがある。パケット通信で使える月間の上限が決まっている契約が一般的なため、不必要なデータ通信は極力減らしたいと考えている人も多いだろう。

アップルが6月に開催した開発者会議「WWDC2015」で、コンテンツ・ブロッキングについて説明した(同社がインターネット上で公開している動画より)
アップルが6月に開催した開発者会議「WWDC2015」で、コンテンツ・ブロッキングについて説明した(同社がインターネット上で公開している動画より)
 「広告をブロックするアプリはこれまで存在していたが、あまり使われてこなかった」と影響を軽視する声もある。確かに、すでにいくつかの広告ブロック用のアプリがiPhoneのアプリストアで公開されており、ダウンロードして利用できる。モバイル広告事業を展開するアイレップ紺野俊介社長も「一般の人はコンテンツブロック機能がiOS9に追加されることを知らない。詳しい人の中で、広告を毛嫌いしている一部の人が利用する程度ではないか」と楽観視する。

 iOS9のコンテンツ・ブロッキングは標準でオフになっているようだ。そのため、利用するためには広告ブロックアプリをダウンロードした上で、サファリの設定画面で有効にする面倒な手順が必要となる可能性が高い。だが、設定が面倒といっても、OSが備える機能の一部となったことで「表示を早くする方法」や「通信を早くする」といった定番のノウハウとして広がっていくことは確実だ。このため「それだけメリットがあるならコンテンツ・ブロッキングを使おう」と考えるユーザーがiOS9の登場で急激に増える可能性がある。


■ブロガーつぶし?

 コンテンツ・ブロッキング機能を使うユーザーが増えると、広告モデルが当たり前となっているネットでは様々な影響が出てくることが予測される。ウェブページの運営者が広告から収益を得るには、広告欄を表示して見てもらうか、クリックしてもらう必要がある。せっかくウェブページ上に広告欄を設けてもブロックされてしまうのでは収入が得られないからだ。

 ネット広告全体で占めるモバイル広告の比率は高まっており、今後の稼ぎ頭になると見られていただけに、その影響は大きい。モバイル広告会社CyberZの推計では、15年のスマホ広告の市場規模は3903億円で、ネット広告の中の構成比は48%に達している。2年後の17年には5448億円で構成比61%にまで伸びると予測する。特に2014年のスマホ出荷台数で58.7%(IDC Japan調べ)とiPhoneのシェアが半数を超えている日本では深刻だ。

 特に「ブロガーなど中小のWebメディアこそ、コンテンツ・ブロッキングの影響は大きい」(Webマーケティングツールを開発するインティメート・マージャーの簗島亮次社長)と危惧する声もある。実際、「ブロガーつぶしになる」「ウェブの衰退が始まる」「無料サービスが次々となくなっていくのではないか」と、iOSのコンテンツ・ブロッキングで収益の源泉を失い直接の被害を受けることを恐れたブロガーたちの声がネット上にはあふれている。

 コンテンツ・ブロッキング機能を使うためにサファリに組み込む広告ブロックアプリには、どのような種類の広告をブロックするかを示す一覧が入っている。例えば、米グーグルの広告配信サービス「アドセンス」のサーバーから配信される広告は表示しないといった具合だ。この一覧に書かれている広告に、ウェブページを構成するプログラムがアクセスしようとすると、サファリがブロックする。つまり、表示しない項目を「ブラックリスト」として指定する仕組みになっている。

9日の発表会で、アップルはスマートフォンタブレット向け基本ソフトの新版「iOS 9」の配布を16日に開始することを明らかにした(同社が公開している動画より)
9日の発表会で、アップルはスマートフォンタブレット向け基本ソフトの新版「iOS 9」の配布を16日に開始することを明らかにした(同社が公開している動画より)
 このブラックリストに、インターネット上の広告配信に幅広く使われている「アドセンス」や「Yahoo! ディスプレイアドネットワーク」といった代表的なサービスが含まれてくる可能性は高い。このため、これらのサービスを利用していることが多い個人ブログや中小企業が運営する情報サイトにとっては、コンテンツ・ブロッキングを使うユーザーの比率が増えれば増えるほど収入が減ることになる。

 その一方で、自前のサーバーから広告を配信している大手サイトのようなケースではブラックリストに入るケースが少なく、影響が小さいだろう。また、広告からの収益を確保するために「ユーザーが広告ブロックしている場合は、ウェブページの中身を表示できないようにするサイトも出てくるのではないか」(アイレップの紺野社長)と、ユーザーにとって不便になる事態を危惧する声もある。

■iOS9の登場まで詳細は不明

 iOS9のコンテンツ・ブロッキング機能が有効なのはサファリを使った場合のみで、アプリの広告配信には影響を与えないという指摘もある。「現在のスマホユーザーは1日のスマホ利用時間のうち8割はアプリを利用している」(ネット広告会社のオプト)というように、「フェイスブック」「LINE」「グノシー」「スマートニュース」のような専用アプリで情報に触れるスタイルが浸透しつつある。すでに「アプリ広告で得られる収益は、モバイル広告の5割程度」(CyberZ)に達し、今後も増える傾向にある。

 iOS9のコンテンツ・ブロッキング機能は、開発者だけが試せる最新版には追加されているという情報もあるが、それらの人は守秘義務の契約を結んでおり、詳しい情報は見えてきていない。本当に追加されるかを含めて、未知数の状態だ。iOS9は最新のiPhone6sのほか、OSを更新することでiPhone4s以降の従来機種でも利用できる。明日16日未明から開始とみられるiOS9の公開に注目したい。

(電子編集部 松元英樹)