藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

イノベーションとそれ以外。

日経、ホンダの記事より。
革新とか創造とかイノベーション
今の時代にはそれは「よいこと」のように取り扱われることが多い。
記事中でも「創造を踏み躙るのは執行派」と表題されているけれど。

仕事の中の比率を見ると"オペレーション(業務)とイノベーションの割合は95対5"だという。

イノベーションとは「ほとんど注目されていない領域からユニークな価値を発掘すること」というから、まあ変わり者の視点と言えるだろう。

「創造」と「執行」と「官僚的」というカテゴリー分けがされているが、こうしてみるとまるで執行とか官僚的というのは「よくないこと」のように見えてくる。
けれど「執行とかルールとか」がないと、いくら創造や革新があっても"その後"は上手くいかないものだ。
よく異端的に振舞って、周囲を驚かせて「どうだ!」というようなシーンがあるけれど、よく考えれば「通常のルーティーンをこなしてくれる多くの人たち」がいるからこそ異端も異端として存在できるのじゃないだろうか。

異端が異端ばかりの中に異端としていたって、どれが異端か分かりゃしない。
というか、「異端ばかり」の中ではもはや異端ではいられないだろう。

ルーティーンをこなす「執行派」が「創造を踏み躙る」のは確かに良くない。
自分たちの変化の芽を摘んでしまうからだ。

また同様に改革者が周囲を"無能視"するのも良くないことに違いない。
通常は「執行派」の数と力が圧倒的に多いから「改革派を大事にしよう」ということで話の筋書きは構成されるけれど、周囲の人たちが「改革の意識」をある程度持ててきたなら「イノベーションと執行」の両方を見るバランスが必要だろうと思う。

どうも両者は対立軸で語られることが多いけれど、実は互いを相互理解できた方が「さらなる創造」に近くなるのではないだろうか、と最近思うことが多い。
何でも改革、何でも革新、革命ありき、ではなく「何でもあり」の精神でイノベーションも執行も考える視野がこれからは必要なのではないだろうか。

創造を踏みにじるのは「執行派」 イノベーション包囲網(後編)2012/5/30 7:00ニュースソース日本経済新聞 電子版
 「ホンダ イノベーション魂」は、独創的な技術開発で成功をたぐり寄せるために、我々は何をすべきかを解き明かしていく実践講座である。数多くのイノベーションを実現し、ホンダでエアバッグを開発した小林三郎氏(現在は中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授、元・ホンダ 経営企画部長)が、ホンダ流のアプローチを紹介しつつイノベーションの本質に迫る。前回の「イノベーション包囲網(前編)」では、善意もしくは正しいと思ってイノベーションの足を引っ張る人たちがいることと、それを理解するには企業活動を執行(オペレーション)と創造(イノベーション)に分けて考えるとよいことを解説した。今回はその後編をお届けする。(日経ものづくり編集部)
 さて、ここでもう一度、上司や周囲の人たちが、なぜ正しいという信念の下でイノベーションを阻害するのかを考えてみよう。その最大の理由は、オペレーションの価値観で、イノベーションを評価するからである。1年から数年の期間限定で100%の成功を求められるオペレーションの視点からは、10年以上かけて9割が失敗するイノベーションのプロジェクトは欠陥だらけに見えるのだ(表1)。
表1 オペレーションとイノベーションの違い
 加えて、オペレーションは論理と分析に基づいてプロジェクトを進めているので、これまでの取り組み内容や成果、今後の展開・見通しを理路整然と説明できる。このため、熱意や想いを推進力とするイノベーションのプロジェクトは、いいかげんに見えてしまう。最後までイノベーションの本質を理解できないのだ。
 さらに、こうした流れをダメ押しする要因がある。表に示したように、企業活動の95%をオペレーション業務が占めていることだ。これは、裏を返せば、オペレーション業務で成果を上げて役員になった人が大多数を占めていることを意味する。オペレーションでの成功体験に照らすと、イノベーションの非効率さばかりが目に付くのだ。
 しかも多くの場合、イノベーションの現場の担い手たちは変わり者だ。イノベーションは、正規分布の中央部ではなく、端部から生まれるからである(図1)。
図1 イノベーションは端部から生まれる
 ほとんど注目されていない領域からユニークな価値を発掘することがイノベーションである。だから必然的に、担当者はユニークな人、日本語にすれば変わり者、が多くなる。一方のオペレーションは、端部を刈り込み、中央部を引き上げるのが基本的な考え方である。ここでもイノベーションとオペレーションは水と油の関係だ。結局、多数を占めるオペレーション派が主導権を取ってイノベーションを阻害し、死に至らしめることになる。
■すぐに衰退が始まる
 これが企業衰退の大きな原因の一つだと筆者は考えている(図2)。
図2 典型的な、企業の盛衰
 創業期の企業は規模が小さく、やりたいことがあって起業したので、もともと新しいことに挑戦する気概に満ちている。イノベーションにも積極的に取り組む。しかも、創業者自らが判断するので意思決定が早い。
 ところが、企業が成長してオペレーションが主流を占めるようになった瞬間に熱気が失われる。すべてを理解していると勘違いしている、オペレーションが得意な経営陣が、その成功体験に基づいて深い考えもなしに、正しいことをしていると思いながらイノベーションの息の根を止めるわけだ。しばらくはそれまでの蓄積があるので、外からは順調な経営に見えるが、新たな価値が生まれないので先細りとなる。そして待っているのは、大企業病のまん延であり、それに起因する混乱だ。多くの企業は、こうした経緯をたどって衰退していく。
 皆さんがイノベーションに挑戦する際には、こうした現在の状況を把握しておいてほしい。その上で、イノベーションとオペレーションではアプローチが全く異なることを、はっきりと主張し続けるのだ。業務の効率化やコスト削減も重要だが、それだけでは先はない。
 日本のものづくりは、イノベーションによる新しい価値の創造によって、世界中の人から評価されてきたのである。新興国など多くのライバルとの競争を勝ち抜くために、今ほどイノベーションによる価値づくりが求められている時代はない。 (次回は6月6日に掲載)
(写真:栗原克己)
小林三郎(こばやし・さぶろう)
 中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授。1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒業。1970年米University of California,Berkeley校工学部修士課程修了。1971年に本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年に日本初のSRSエアバッグの開発・量産・市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。
[日経ものづくり2010年5月号の記事を基に再構成]