藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

AIへの違和感。

「心のつながりを持ち、育てる喜びや愛情の対象となるロボットを作りたい」

ソニーの「ロボット事業再参入の宣言」である。
なかなか良いじゃない。

ビジネス用語、その中でもIT系のカタカナ語の頻出には辟易している人も多いと思う。今はまちがいなく"IoT"と"AI"だろう。

どこからどこまでがAIなのかも分からないまま、今や名乗ったもの勝ちの雰囲気さえある。

けれどコンピューターがスイカで電子チケットになったり、スマホで検索したりするだけでなく、「それ以上の何か」を期待できるレベルにいよいよなってきたということだと思う。

「普通の検索行為」とか「単なる計算」では気がつかなかったような新しいことを次々に発見するようになったコンピューターは、なるほどちょっと「知能っぽい」。

初期のAIとかエキスパートとか呼ばれていたものは、そうした「どうせ計算でしょ」という風情が強かったが、最近はちょっと想像がつかないような結果を出したりするから妙な感じがするのだ。

「AIロボットがお話相手になります。」て
ちょっと小癪な気がしないだろうか。
「たかがコンピューターに、"人間様である私"が本気で対話する」ということに。

しかしながら「将来はAI機器が、自分たちの秘書や相談相手になる」と聞いた時に感じる「相手は機械なのに」という違和感は、近いうちに急速になくなっていくのじゃないかと思う。
(つづく)

ロボット再興、ソニーの本気と立ちはだかる壁

2016/8/24 3:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 ソニーがロボット事業への再参入を決断した。単なる一新製品としてではない。経営陣はロボットと人工知能(AI)を、同社の今後の成長を担う中核分野に育てたいという強い意気込みを抱いているようだ。先行する米巨大IT(情報技術)企業がしのぎを削る分野で独自の居場所を築くことができるのか。

■ロボットの“教祖”、来訪

 「SONY 2.0」。そんなタイトルの絵巻物を抱え、ソニーコンピュータサイエンス研究所ソニーCSL)社長兼所長の北野宏明は2月10日、東京・品川のソニー本社20階にある平井一夫社長の部屋を訪れた。

 絵巻物は畳1畳ほどの大きな紙に現在から未来に向かって、ソニーの製品やサービスが、テレビ、オーディオ、ゲーム機、映画といった現在の姿から、いかに新しい領域にも展開していくかを描いた、文字通りのビッグピクチャー。テーブルに広げられた絵巻物を見て平井は「素晴らしい。これを実現するため、これから定期的にミーティングをしましょう」と身を乗り出した。

 北野は、かつて世界初の一般消費者用のAIロボットとしてソニーが1999年に発売し、一世を風靡したペット型ロボット「AIBO」の生みの親の一人。ロボットとAIの分野では世界的な“教祖”の一人といえる。

 AIBOは2004年、当時会長だった出井伸之ら経営陣が「戦略外事業」と決定。06年に完全に開発を打ち切り、ソニーは事業としてのロボット・AIから撤退した。その後も北野はソニーCSLという、ソニー本体のビジネスからは一歩離れた組織を基盤にAIやITの生物への応用などの研究分野で活躍してきた。AIBOに携わっていた他の主要な技術者たちは、ソニーを去る者もいれば、本社研究開発部門やゲーム事業などソニーグループ各所に移ってAIやセンサーなど関連技術の研究開発を続ける者も多かった。

ソニーCSLの北野社長(右)は2月10日、ソニー本社の平井社長を訪ねた。これがプロジェクトのスタートとなった

 それから10年。今や「情報革命が進行し、情報をつかさどるAIが(様々な製品やサービスで)カギを握るようになった」(北野)。業績が回復し、ようやく攻めの投資が出来る財務態勢が整いつつあった15年初秋のソニーは、そんな時代状況にあった。

 今後の成長戦略を探っていた平井は、北野やグループに散在するロボット・AI関連技術者、科学者たちの知見を再結集し、事業を育てたいとの思いを強くする。

 平井はまず昨秋、革新的な新事業を育成するために社内外のリソースを取りまとめてプロジェクトを回す「中長期事業開発部門」を翌16年春に新設することを内定した。新部門のヘッドには、技術標準を巡る企業間アライアンス交渉や知的財産権を絡めた技術経営のベテラン、コーポレートエグゼクティブの御供俊元を内定した。

■ロボット人脈、再集結

 10月、翌春の新組織立ち上げに向けて御供が真っ先に協力を仰ぎに行ったのが北野だった。もちろんロボット・AIを中長期の中核成長事業にするという構想を相談するためだ。北野は快諾。「やるならすぐに始めましょう」と促した。

 それを受けて御供は、かつて北野とともにAIBOやヒト型ロボットのQRIOの開発を手掛けたソニー有数のAI技術者、藤田雅博に参画を要請した。藤田も快諾。16年4月に中長期事業開発部門が正式発足した際、北野はソニーCSLとの兼任で参画。藤田はチーフ・テクノロジー・エンジニアとして新組織の中核を担うことになる。

平井社長に指名され、新部門のヘッドとなった御供氏

 取締役会の考えも方向が同じだった。昨年12月に伊豆のホテルで泊まりがけで開かれた取締役のオフサイトミーティングでは、米マサチューセッツ工科大メディアラボ所長を務める伊藤穣一シリコンバレーを知り尽くす弁護士で元駐日米大使ジョン・ルース社外取締役2人がAIに力を入れるべきだと強く推薦。取締役会のコンセンサスとなった。

■米AIベンチャーに出資

 絵巻物を見ながらの2月の北野・平井ミーティングは、この構想を実行に移すプロジェクトのキックオフを意味していた。

 本社R&D部門、ゲーム部門、ソニーCSLの東京本社や仏パリ拠点など、グループ内外に散らばるAIやロボット関連の技術者のアイデアも集まってきた。

 定期ミーティングと並行して、5月には御供、北野を軸に交渉していた米AIスタートアップのコジタイ(Cogitai)への資本参加で合意に成功。AIへの経営資源投入が議論だけでなく、お金も伴う行動にもつながり始めた。

 その後6月までに、世界中に散らばる社内外のAI・ロボット人材数十人からなる、組織の壁を越えたネットワークができた。6月17日には北野が本社の執行役コーポレートエグゼクティブに就任。ロボット・AIを事業に育てる会社の意思が人事のうえでも明確になった。

藤田氏は、かつて北野氏とともにAIBOやヒト型ロボットのQRIOの開発を手掛けた

 「心のつながりを持ち、育てる喜びや愛情の対象となるロボットを作りたい」――。

 6月29日の経営方針説明会で平井は、ロボット再参入の決断とその方向性を投資家や消費者に高らかに宣言した。「単にAI技術が載った機械ではなく、利用者に感動体験をもたらす、ハードウエアとサービスを組み合わせた新たな事業モデルの提案をしたい」と、本紙の取材にも意気込みを語った。

■先行する3強の技術蓄積

 ただ、いくらグループ人材を再結集しても、ロボット事業撤退から10年のブランクで、米国のIT業界に技術の実用化、人材の質・量など多くの面で後れを取っているのも厳然とした事実だ。

 アップルが音声で利用者と受け答えし、リクエストや質問に答えるシリ(Siri)をiPhoneに組み込んだのは5年も前の11年秋。音声認識自然言語認識、利用者の発する言葉の意味(要求なのか、質問なのか、感想なのかなど)の把握などを担うAI学習データベースがネットを通じて日々利用データを蓄積し、学習している。

 グーグルは検索エンジンの検索結果の重要度ランク付けの仕組みを、創業来のアルゴリズムからAIに移行しつつある。子会社が開発した「アルファ GO」システムが囲碁で初めて人間のプロ棋士を破った例が示す通り、AI人材を多数集め、何年も実用レベルの研究開発を積み重ねてきた。

 アマゾンが昨年春から米国内で市販する据え置き型マイク兼スピーカー「エコー(Echo)」が提供する「エージェント」(代理人)サービスは、いわばSiriの据え置き版。利用者は、部屋の中に置かれたEchoに聞こえるように、要求や質問の声を発すればよい。「あすの最新ニュースを教えて」「アマゾンに○×の購入注文を出して」「○×の曲をかけて」といった具合だ。1年以上、実用レベルで学習を続けていることになる。

 ソニーがプロトタイプを開発して今春、海外の展示会で公開した卓上据え置きロボットの「エクスペリア・エージェント」も、クラウド上にあるAIと人間がやり取りするエージェント(代理人)の役割を音声を通じて務めるコンセプトで、エコーによく似ている。仮に商品化できても、アップルやアマゾンの後を追うだけではインパクトに欠ける。

■国際会議で人材募集呼びかけ

 北野は「エージェントやロボットが複数あり、連動し、クラウドにもつながっているような」と、開発の方向性を表現する。果たしてどれだけ独自性を打ち出せるか。

 どんな方向に進むにせよ、斬新な発想と、実現のための技術を具現化するには人材がカギを握る。かつてロボット事業に携わっていた元ソニー幹部はソニーグループにいるロボット・AI人材について、「ロボット・AIを事業にした経験のない人が多い。ちゃんとビジネスモデルをつくれるのか疑問」と話す。

 北野は「有名なベテランよりも、これから成功したいという若い人を世界から採用したい」と話す。

 実際ソニーは8月、米ニューヨーク市で開かれた国際人工知能会議(IJCAI)で初めてスポンサーとなった。参加者向けのウェブページを作成。「多様な製品、コンテンツ、サービスで人々に感動を与えたいという情熱と、創造性と才能のある人材を募集しています」と呼びかけた。多様な消費者向け娯楽関連製品・サービスを手掛けるソニーの特徴を前面に出して人材を募ろうという戦略だ。

 人材獲得では、ほかにも優位な要素はある。ソニーCSLだ。

 本社が事業から撤退した後も、ソニーCSLはAIやロボットに関連する分野で脈々と研究を続けてきた。北野のほかにも人間とコンピューター間のインターフェースの領域で世界的に知られる暦本純一(れきもと・じゅんいち)、脳科学研究の茂木健一郎自然言語学習の研究で先端を行くミハエル・シュプランガーなど多くの有力研究者が東京とパリを拠点に活躍する。彼ら自身の知見に加え、学界や新興企業で活躍する社外の有力な科学者・技術者との人的ネットワークは極めて強力だ。コジタイ出資もCSL人脈がものをいった。

■自前主義との決別

「AIBO」の技術は脈々と残るが、新たな発想も必要だ

 もう一つ、かつてソニーが決定的に弱かった発想も今のソニーには根付きつつある。自前主義にこだわらず、技術や製品を社外と連携して開発していく、いわゆるオープンイノベーションだ。

 北野は、ロボット・AIの商品化の方向性として、「第三者の企業・開発者の提供する製品やサービスもつなげて、一つのエコシステムを形成することが重要」と話す。

 オープンイノベーション型の技術革新の連鎖を世界的に巻き起こすことができれば、10年のブランクは案外早く克服できる可能性がある。

 ソニーのAI・ロボットに対する“本気”がブレイクスルーにつながるとすれば、それは「社外」とうまく連携できたときかもしれない。

(中藤玲、多部田俊輔、小柳建彦)

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