藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

国として、全体として考えること。

ナショナル・セキュリティってかくも深いものなのか、と思わさせた記事。
GIGAZINEより。
スマホ向け半導体大手のクァルコムの買収がなぜ大統領に阻止されたのか。
多分大統領はそこまでIT業界をご存知ないと思うので、優秀な側近たちの示唆だったのでしょう。

次世代の高速通信5Gの標準化競争では、Huaweiなどを擁する中国勢との熾烈な争いがあり、5Gやさらにその先の6Gで中国に主導権を握られるのは確かにアメリカの国益を損ねる恐れがあります。
そして、BroadcomQualcommを買収すれば、短期的な収益性を優先させて、次世代通信規格の開発競争でQualcommが果たすべき長期的な研究開発が切り捨てられる可能性があり、無線通信規格で中国支配を許すことはまさに国家安全保障上の理由になるとトンプソン氏は述べています。

結局R&Dとか、大手企業のそういう「経営マター」にまで配慮して企業同士の提携とか、M&Aなども判断しなければならない時代になっている。
東電が、とか東芝が、とか言っている視点だけでは視野が狭いだろう。

中国は今や国を挙げて企業や知財分野を後押ししている、というけれど、アメリカもEUもこれからはそういう「国と企業の連合」になってくると思う。

日本はそんな中、妙にシャイで一体感を欠いている気がするのは自分だけだろうか。
推すべきところは、官民挙げていくぞ、というような意気込みは必要ではないだろうか。
結局目標にするのはイノベーションなのだから。

なぜアメリカ政府はBroadcomQualcomm買収を阻止したのか?
By Kārlis Dambrāns

半導体メーカーのBroadcomが1000億ドル(約11兆円)以上で同業のQualcommの買収を試みましたが、ドナルド・トランプ大統領の発行した「断固買収阻止」の大統領令によって、買収は幻となりました。このQualcomm買収騒動について、著名なアナリストでStratecheryを運営するベン・トンプソン氏が自身が過去に記したレポートを引き合いに出しつつ、考察しています。

Qualcomm, National Security, and Patents – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2018/qualcomm-national-security-and-patents/

BroadcomによるQualcommの買収に対して、対米外国投資委員会(CFIUS)は、シンガポールに本拠を構えるBroadcomアメリカ企業のQualcommの支配権を握ることは、アメリカの国家安全保障の脅威にあたると判断して、財務省に買収阻止の勧告を行いました。これを受けて、トランプ大統領は買収阻止の姿勢を明らかにし、2018年3月14日、Broadcomは買収断念を発表しました。

しかし、外国企業によるアメリカ企業の買収が国家安全保障上の脅威だという理由は、決定的な根拠にはならないとトンプソン氏は考えています。BroadcomはAvago Technologiesによって買収されたタイミングでシンガポールに本拠が移されましたが、もともとはアメリカ企業であり、2018年4月3日までにアメリカに本拠を移す予定だからです。

トランプ大統領アメリカに戻ってくるBroadcomを大歓迎していました。以下の画像をクリックすると、トランプ大統領によるBroadcomアメリカカムバックの発表ムービーが試聴できます。

トンプソン氏はQualcomm買収拒絶の理由を深く考えるために、2014年の自身のレポートを振り返っています。そこでは、Qualcommは「半導体チップ製造販売」と「特許ライセンスビジネス」という収益の二本柱を抱えていることが分かります。二本柱による収益構造は非常に良好だとトンプソン氏は分析していました。

もっとも、Qualcommは中国で独占禁止法違反を理由に8800万元(約1200億円)の制裁金を課され、特許使用料も大幅に下げることを余儀なくされたことで、2014年当時よりも経営状況が悪いという違いはあります。

その後、2015年にはQualcomm株を大量保有するヘッジファンドJana Partnersから、半導体製造部門とライセンス部門を切り離して、半導体製造部門を分社化するか売却するべきだという大きなプレッシャーをQualcommは受けていたとのこと。しかし、トンプソン氏は、Qualcommの長期的な経営戦略からは、目先の利益を追って半導体部門を切り離すことは妥当ではなく、Jana Partnersの提案に屈するべきではないという主張を行っていました。

今回の買収では、Broadcomプライベートエクイティによって買収しようとしていた点が重要だとトンプソン氏は考えています。Broadcomは買収費用である1170億ドル(約12兆円)のうち、1060億ドル(約11兆円)を借り入れでまかなう予定だったとのこと。2014年、2015年のレポート時に比べると経営状態が悪化しているQualcommを手に入れたBroadcomは、Qualcommキャッシュフローを利用しつつも、負債の返済のため短期的な収益性を重視することが予想されました。

(PDFファイル)CFIUSの勧告文にあるとおり、次世代の高速通信5Gの標準化競争では、Huaweiなどを擁する中国勢との熾烈な争いがあり、5Gやさらにその先の6Gで中国に主導権を握られるのは確かにアメリカの国益を損ねる恐れがあります。そして、BroadcomQualcommを買収すれば、短期的な収益性を優先させて、次世代通信規格の開発競争でQualcommが果たすべき長期的な研究開発が切り捨てられる可能性があり、無線通信規格で中国支配を許すことはまさに国家安全保障上の理由になるとトンプソン氏は述べています。つまり、表向きはシンガポール企業という理由が打ち出されていましたが、実は中国との通信規格の覇権争いで不利になるのを避けたいというのがアメリカ政府の考えだとトンプソン氏は考えています。

とはいえ、Broadcomが外国企業だったことは、CFIUSとトランプ大統領にとっては幸いだったとのこと。仮にBroadcomアメリカ企業だった場合、「国家安全保障上の理由」という名目は使えなかったからです。もちろん独占禁止法を理由に買収を阻止する手法はあるにせよ、その場合にはトランプ大統領裁量権の幅ははるかに狭く、民間企業への政権の関与への批判の声はさらに激しかったはずだとトンプソン氏は指摘しています。

Qualcommが買収を免れたのはアメリカ政府の後ろ盾があったことが理由ですが、そもそもQualcommが通信向けの半導体で圧倒的な支配力を持てたのは、「特許」という強力な権利を付与されたからであり、Qualcommの存在自体が国家権力の後ろ盾のたまものだということを2015年のレポートでトンプソン氏は記しています。しかし、もはや既存の特許制度にたよらなくとも、ネットワーク効果の存在により巨大なユーザーを基盤として利益を最大化できるはずで、かつてないほど技術的なイノベーションは大きなリターンを得られる状況にあるとトンプソン氏は述べています。