こんなピアニストは初めて見た。
ベートーヴェンの「皇帝」を変則弾き。
その風貌たるや哲学者そのもの。
ただものでなく。
あまりに気になり、調べてみて、驚く。
レオン・フライシャー。
1928年、USサンフランシスコ生まれ。
幼少から卑近なピアニストとして活躍し、52年にはエリザベート王妃国際コンクールにて初のアメリカ人として優勝。
突如、1965年にジストニアを患い右手の自由を失って37才で引退に。
その後数十年にわたり、左手だけのレパートリーによって演奏を続けるが近年43年ぶりに両手での演奏を復活する。
そのせいか。
レオンの演奏の楽しそうなこと。
右手はちゃんと動くようだが、多くのスケールは左手がほとんどを占める。
テクニックとか、速さとか、そんなんでなく。
音はハズす、テンポもまばら。
しかし、曲の抑揚とか、表情とか。
とんでもなく温かい。
文字どおり歌うようにメロディを口ずさみ、譜面をめくる様子は踊っているようだ。
今年で80才になる大ベテランの演奏に、しばし酔う。
音楽は、やはり楽しむものだ、ということが伝わってきた。