オバマ氏はその就任演説で言う。
「60年前には地域社会のレストランでサービスを受けられなかったかもしれない人間を父に持つ男が、いまや(大統領就任の)神聖な宣誓をする」
もう少し黒人社会の中でもエリートだと感じていた。
が、この言葉には無限の可能性と矜持が込められている、と思う。
実現してみれば、これほどストレートに、分かりやすく、また熱狂的な万民の支持を得て、むしろ万民の「これからの期待」を一身に背負う存在として。
所詮、人種の別など人間の持つもっともつまらぬエゴなのか。
そんなことを感じさせるトップのエバらぬ、しかし自信に充ち溢れた演説だった。
米の大統領の就任演説、というのは歴史的に見てよほど推敲されているのだろう。
けだし、名分が多い。
少ない時数に、きちんとメッセージを込めているのだ。
それにしても。
この大統領の誕生を待たずして一昨年のクリスマスに逝った黒人ピアニスト、オスカー・ピーターソン。
今年彼が生きていれば、間違いなく大統領の就任演説で奏でていたにちがいない。
その曲はおそらく「Hymn to freedom」
オスカーは自身のデヴュー時に、出演先のホテルで「黒人ゆえ」にバンドでただ1人、出演を禁止される。
だがその時、白人のバンドマスターが「それなら、今夜からオレ達全員がいなくなる。バンドなしでやるんだな」
あわてたホテル側は急遽黒人ピアニストの出演するステージを了承した。
この一言がオスカーを勇気づけ、またその後の成長を促した。
そんな恩、とか優しさとかがオスカーの心には流れている。
人種差別に立ち向かい、希望の灯をともし続けたこの曲を聴いて、泣かずにはいられない。