ファイトケミカル、というのは「戦う化学物質」ではなくギリシァ語の植物を意味する「phyto」とchemicalの造語だった、と知ったのは割合最近のこと。
そして、キャベツやバナナ、ピーマン、ニンジンなど、生来の野菜の中に、意外な「味方」がいることが分かってきたという。
これまでに判明しているファイトケミカルはなんと、1500種。
ポリフェノール、イソフラボン、カテキンなど、なじみのものも多い。
さらに未知の成分に至ってはまだ一万種以上が存在するといわれている。
「これからの健康の話」なのである。
またさらに、ファイトケミカルには「抗酸化作用」があるという。
抗老化、すなわち「アンチエイジング」である。
今の先進国民の一番の関心事だろうと思う。
そして、さらに「免疫細胞を増やしたり、高めたりする」ともいう。
元々ファイトケミカルは、「植物」が自身の耐毒性や耐害虫性を高めるためのものであるという。
その意味では「動物」には与えられなかった天分を、今動物である自分たちがその恩恵に浴している、ということのようにも思える。
まだファイトケミカルについて、正確な利用技術は出来ていない。
つまり「野菜の偏食」には弊害もあり、生活習慣との関係や、「他の植物との摂取効果」などについても、まだまだ調べねばならないことも多いようである。
ことほど左様に、人間の生体の科学は、進んでいるようで、実は未知の部分も決して少なくない。
けれど「自然の恵み」である野菜を科学することによって、古の言い伝えに近い「野菜の有り難さ」が再考されるのは、温故知新ということでもあるのだろう。
自分たちは「最新の理屈」をもって、どんどん古代の因習に帰ってゆくのかもしれない。
それはそれで、とても人間らしいことなのではないだろうか。
植物由来のファイトケミカル 老化・がん予防に効果
ポリフェノールやカロテン…偏った摂取避けよう
ポリフェノールやカロテン、イソフラボン……。健康によいという、カタカナ名の色々な成分の情報があふれている。野菜や果実などに含まれ、まとめて「ファイトケミカル」(植物が作る化学物質)と呼ぶ。老化やがんに対する予防効果などが分かり始めてきたが、妄信せずバランスよく摂取することが大切だ。
「キャベツは免疫力を高める成分を含んでいます。バナナの香り成分にも同じ効果がありますよ」
東京都肝臓専門医療機関の指定を受けている麻布医院(東京・港)の高橋弘院長は、がんや肝炎と診断された患者から「これから何を食べたらいいのか」とよく相談を受ける。迷わず薦める食材が野菜や果物だ。
ただその説明には念が入っている。手製の解説パネルを示しながら、科学的に効果の確認されている成分やどのような効果を期待できるのか、スープなどのとりやすい方法も丁寧に話す。「多くの人が赤ワインに入っているポリフェノールは知っているが、ファイトケミカルは知らないので」と、高橋院長。
1500種類の成分判明
ファイトケミカルは、ギリシャ語で植物を表す「ファイト(phyto)」と、英語の化学を組み合わせた造語だ。食事とがんとの関係を科学的に調べようと1990年に始まった米国立がん研究所の「デザイナーフーズ・プログラム」や、80年代に日本で提唱された「機能性食品」の研究が進展し、この10年ほどで予防医学や食品分野で広がってきた。
これまでに判明している成分は約1500種類。代表はポリフェノールだ。ブドウやブルーベリーに含まれるアントシアニン、大豆にあるイソフラボン、お茶の中にあるカテキンなどはこの仲間だ。このほかカロテノイド、イオウ化合物、糖関連物質などがあり、未知の成分は1万種以上あるといわれる。
確認されている生理作用は3つある。よく知られているのが、細胞の老化などに深くかかわっている反応性の高い酸素の働きを抑える「抗酸化作用」だ。ポリフェノールはこの抗酸化作用が強い。トマトやスイカに含まれるカロテノイドの仲間、リコピンにも強力な抗酸化作用がある。
2つ目は、免疫細胞を増やしたり働きを高めたりする作用だ。キャベツやタマネギ、にんにくなどに含まれるイオウ化合物にこの作用がある。バナナの香り成分「オイゲノール」が同じ効果をもつ。3つ目は、がんの発生や増殖を抑制する作用で、温州みかんに多く含まれているカロテノイドの仲間、ベータ・クリプトキサンチンはこの優等生といわれる。
動物は自ら作れず
ファイトケミカルはもともと、植物が毒物や害虫から身を守るために作り出した化学成分で、動物は作れない。たくさん食べないと病気を引き起こす必須の栄養素ではないが、積極的にとれば健康の維持にとても役立つ。このため、たんぱく質やビタミン、食物繊維などに続く「第7の栄養素」ともいわれる。
しかしまだ、分かっていないことが多い。
国立健康・栄養研究所の饗場直美・栄養教育プログラムリーダーらは、ピーマンに含まれる「ルテオリン」の免疫を高める作用に注目し、高齢者に毎日120グラム食べてもらう実験をした。経過を分析すると、確かに摂取した人の免疫機能は高まったが、同時にアレルギーを引き起こしやすい状況に変化していることも分かった。ピーマンだけでなく、同じ効果のあるリンゴを加えるなど献立を工夫すると、アレルギー傾向になる状況を抑制できたという。
ファイトケミカルの効果を期待して同じ成分を摂取し続けると、予期しない反応が起こりうる。饗場リーダーは「弱い薬と認識して摂取する心構えが必要だろう」と忠告する。特定の成分を錠剤にしたファイトケミカルのサプリメントも商品化されているが、それだけをとり続けることも避けた方がよいようだ。
野菜や果物にどの成分がどれほど含まれているのか。どの食材をどれだけ食べれば健康維持に役立つのか。食品総合研究所の日野明寛・食品機能研究領域長は「米国ではデータベースの整備や大規模な住民調査が進められている。日本では明確なデータがまだそろっていない」と指摘する。
果樹研究所は2003年から、浜松市で約1000人を対象にミカンの摂取と生活習慣病との関連を調べている。こうした地道な取り組みが科学的な証拠になる。主要な成分を対象にデータを積み重ね、摂取の指針ができることを関係者は願っている。
(編集委員 永田好生)