藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ヒーロー来たらず。

web GOETHE/米倉誠一郎(一橋大教授)氏のコラムより。

今の日本の状況を、(大変だからこそだろうけれど)プロもアマも、実に多くの人が色々という。
大体が"えらいこっちゃ!"という感じだけれど、中には「がんばれ!」とか「もうダメや!」というものもあって、百花繚乱である。
まあ人間は実にごちゃごちゃと喋るものだ。
「言語を操る」という能力を備えたゆえに、「話さずにはいられない」のだろう。
気の毒なことだな、などと言いつつブログなどを書き流す自分も同類である。

東北を励まそう、とかエコノミストの提言、とかもうあまり目新しいものがない、というかなかなかピンと来る話というのもないが、米倉誠一郎氏のコラムは光っていた。

ビジョンの本質。

ビジョンに根拠があるなしではなく、それに応える層がいるか、いないかです。
と米倉氏は言う。

なるほど。
「それに応える層」というのは、結局そのビジョンが"皆のなりたいもの"を形作っているかどうか、ということなのだ。なるほど「皆がなっとくできる将来」がそのまま夢になるのである。
我欲の強いビジョンは受け入れられないわけである。

ヒーロー待望論ではなく。

小泉政権以来、日本の中に定着してしまった様子の「劇場型・ヒーロー待望論」。
次々と総理が変わり、政権与党も変わるが、事態は全く変わらない。
それは「リーダー不在ゆえ」ではない、と米倉氏は言う。

今の政治状況を見ていると、やはりカリスマ的リーダーが大切だという結論になりがちです。しかしこれからの時代に必要なのは、ひとりのカリスマが世の中を変えるのではなく、私たちひとりひとりがプロフェッショナルになることによって、世の中を変えていくことです。個々の意識と能力が高まることで、総体として大きな変化が生まれる。仕事だってそう。課長や部長、まして社長に期待する前に、自分自身が仕事のプロになる。

「一人一人がプロになれ」という氏の提言は、当たり前のようでいてハッとさせられた。
日本の縦型社会は、とくにホワイトカラーの間ではチームワークという名のものに、あまり「個々人のプロ性」というものが追求されてこなかったのではないだろうか。
営業とか、総務とか経理とか、R&Dとか、そんな職種に配属され、皆十年もすれば管理職になってゆく。
"最前線のプロフェッショナル"でいる機会は意外に短い。

これからの日本は"個人の総プロ化"と"個人の集まったプロ集団"というのがキーワードなのかもしれない。

慧眼ではないだろうか。
これからの十年に、頭角を現す集団の性質をウォッチしてみたいと思う。

この5月、韓国の済州島で第6回ジェジュ・フォーラムが開催されました。アジアをはじめ世界各国の人たちの前で、僕は「日本はエネルギーを3割削減する!」と宣言しました。もちろん、根拠はありません。というかビジョンに根拠は必要ない(笑)。

1961年、ソ連が有人宇宙飛行に成功した翌月、ケネディは議会で'60年代中に米国は月に人を送ると宣言しました。それまで米国は有人ロケットを軌道に乗せたこともなかったのにです。しかし、米国は'69年7月にアポロ11号を成功させます。その理由は、ケネディの演説に呼応した多くの若きエンジニアがNASAに駆けつけたから。大切なのは、ビジョンに根拠があるなしではなく、それに応える層がいるか、いないかです。

今の政治状況を見ていると、やはりカリスマ的リーダーが大切だという結論になりがちです。しかしこれからの時代に必要なのは、ひとりのカリスマが世の中を変えるのではなく、私たちひとりひとりがプロフェッショナルになることによって、世の中を変えていくことです。個々の意識と能力が高まることで、総体として大きな変化が生まれる。仕事だってそう。課長や部長、まして社長に期待する前に、自分自身が仕事のプロになる。

しかも、個の時代を支えるツールがまさに整ってきた。ツイッターフェイスブックは、世の中を変える可能性があります。中東で起こったジャスミン革命はまさにこの典型。これといった強力なリーダーはいなくても、小さなつぶやきが大きな流れになっていく。それが創発的破壊であり、現代の革命です。

今回の震災と原発事故は天災を超えて人災になりつつある。しかし、この逆境こそ日本が大きく変わるチャンスであると考えます。脱原発を世界に率先し、新たなイノベーションの次元を切り開くのです。スマートシティ、スマートグリッドスマートハウスなどの要素技術はすべて日本にある。しかも、マイクロプロセッサーやセンサーを駆使した省資源・省エネルギー製品開発は、日本人にとって得意分野ばかり。世界に先駆けてノウハウを築けば、その技術がそのまま世界に売れるのです。現在蓄積中の「原発廃炉の技術」もまさにそうです。

そう考えると僕たちの未来は決して暗いものではない。日本のエンジニアやビジネスマンがやるべきことは多い。だが、既得権益固執した政治家や権力者たちが新しい動きを邪魔してくる可能性も高い。その時こそツイッターフェイスブックでひとりひとりが声を上げればいい。今の緩み切った政治家や権力者たちに「国民をナメるな!」と叫んでやればいい。小さな創発が総和を上回るパワーを持つことを、今こそ知らしめる時なのです。

米倉誠一郎
1953年生まれ。一橋大学卒業。同大学院修士課程修了。ハーバード大学博士号。'97年より一橋大学イノベーション研究センター教授。現在『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、アカデミーヒルズ「日本元気塾」塾長も務める。著書に『経営革命の構造』(岩波新書)、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)など多数。