藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

本筋に立ち返ること。(その一)

日経ものづくり、より。
一目見てピンと来た記事。

セイコーエプソンの情報画像事業本部、ではほぼすべての製品を海外生産しているという。

この部が、「量産設計、ライン設計といった生産技術に関する主要業務」を国内回帰させたという。

感じたこと一つ目。

日本の強みは製造業。
中でも「加工貿易を特長とする」と小学校で教えられたが、その一段底は「生産技術」にあると思う。
自分にはそれ以上の意識はなかったけれど、それは"調整力"のようだ。

新製品の性能や機能を高めたい設計者の立場と、作業を容易にしたい生産現場の立場は、必ずしも利害が一致しないため、どちらからも一歩置いたところで調整のできる生産技術部門が必要になる。

生産と設計、それぞれの「現場」。
真摯に物づくりに当たろうとすればするほど摩擦も起こる。
これが営業とか広告とかも入ってくればなおのこと。
全てに通ずる唯一の正解というものはないだろうから、リーダーシップが必要で、誰かが主導して、しかも責任も背負って推進してゆくのが事業というものだろう。

そうした「量産設計のキモ」を国内回帰させるにあたっては国産のソフトウェアパッケージが活躍している、というのも興味深い。

ITとは本来こうして使うのだ、という好例である。
日本の強みといってよい。

「9割方をITツールでつくり込んで、残る1割を現場で調整することは可能だ。」
という正にこの精神だろう。

「(日本のメーカーは)設計部門に生産技術部門が従属するような欧米のスタイルとは異なるともいわれる。」
この辺りに"次世代の日本"が見えている気がする。
やっぱり物づくりの国なのだ。
(つづく)

エプソン、IT化で「考える技術者」育成 生産技術を国内回帰へ
日経ものづくり編集委員 木崎健太郎

セイコーエプソン情報画像事業本部は、インクジェットプリンターのほとんどを中国、フィリピン、インドネシアといった海外拠点で生産している。国内には、「マザー工場」と呼べるものはない。しかし、新製品を発売するための量産設計、ライン設計といった生産技術に関する主要業務は、同社の広丘事業所(長野県塩尻市)へ「国内回帰」させている。

生産技術部門は、設計部門と生産現場の「橋渡し役」である。日ごろから加工技術や組み立て技術について研究開発を進めるほか、新製品については「早く安く造るために、どのような工程や順番で作業するか」を決める。生産設備を設計し、その設備によって所定の生産量が得られるようになるまでの立ち上げを担当する。

新製品の性能や機能を高めたい設計者の立場と、作業を容易にしたい生産現場の立場は、必ずしも利害が一致しないため、どちらからも一歩置いたところで調整のできる生産技術部門が必要になる。日本には、トヨタ自動車を代表として、この生産技術部門が力を持つ企業が多い。

1990年代から海外生産を推進してきたセイコーエプソンの情報画像事業本部は、当初は生産技術についても海外拠点に任せていた。海外拠点の技術者に方法を教えて、国内技術者は海外拠点に出張して指導や監督に当たる役割に回った。しかし、ほどなくベテランの生産技術者たちは、「どうも日本の技術者が『できない人』になってきているのではないか」(情報画像事業本部機器生産技術開発部課長の武井昭文氏)と思うようになってきた。

問題が顕在化してきたのは、国内生産時代の経験がない若手技術者が担当し始めたころだった。現場に行って、海外拠点の技術者が構成したラインを見ても、よく分からない。トラブルがあっても、何が原因かを指摘することもできなかった。よく分からないままトラブル対応に終始して、本人は懸命に仕事をしているものの、悪くすると「何の知識もないのに現場で単に偉そうにしている存在になりかねない状況」だったという。


同事業本部は、工程設計や設備設計、ライン設計などの「量産設計のキモのところ」(武井氏)を、国内に戻すことにした。生産現場を海外拠点に残したまま、量産設計のみを国内に戻すには、そのための仕掛けが要る。そこで3次元モデルをベースに量産設計、ライン設計などができる仮想量産試作のためのITツール「GP4」(レクサー・リサーチ、鳥取市)を導入した。

現場がないのに、ITツールだけで工程やラインを設計できるのか。ものづくりは必ずしも理屈通りにはいかないから、100%の完全な形に計画することはできない。それでも、9割方をITツールでつくり込んで、残る1割を現場で調整することは可能だ。それに、量産設計のIT化は手段であって、目的ではない。


目的は、若手技術者に対して、自分で計画を立てられる機会を提供することだった。技術が身につかないのも、海外でトラブル処理にしか当たれないのも、結局は自分で計画を立てていないからである。PDCA(Plan、Do、Check、Act)のサイクルのうち、海外拠点でDoしかやっていなかった。PDCAサイクルをきちんと回さなければ、技術力を育てることはできない。

ITツールで立てた計画は仮説にすぎないとしても、それでよい。仮説を持って現場を見れば、発生する問題の原因がすぐに分かる。原因は仮説と現実のギャップに他ならないため、技術者は自らの仮説を修正することで、経験を深めることができる。ベテラン生産技術者が、初めて見たラインでも問題点をすぐに指摘できるのは、自分なりの経験に基づく仮説を持っているためだ。仮説を持って現場に臨めるという点は「ITツール導入前と導入後で、明確に異なる点」(武井氏)である。こうして、同事業本部の若手生産技術者は、限られた海外出張の機会を最大限に生かせるようになった。

生産技術者を海外拠点に半ば定住させたり、長期滞在させて技術力を高めるという選択肢も考えられるが、2つ難点がある。1つは、海外拠点で技術力が強化されても、それが日本を含めた企業全体の財産になりにくい点。もう1つは、生産技術者は国内拠点にある設計部門と共同で、造りやすい設計を実現することも重要な仕事であることだ。海外拠点に行きっぱなしは、設計部門とのコミュニケーションが十分に取れなくなってしまう。

同事業本部は、設計部門と生産技術部門の業務を円滑に進める仕掛けとして、もう1つのITツールを導入している。3次元CADデータを基に、製品の機構動作や部品の組み付けなどをシミュレーションできるデジタル・モックアップ・ツール「VPS」(富士通)だ。VPSによって、出図段階(設計終了時)にはほぼラインの構想がまとまっている状況にして、さらにGP4でラインの初期トラブルを最小限に抑えることにより、量産開始までの時間は「うまくいけば半分くらいになることもある」(武井氏)という。

日本企業の生産技術力が高いことは、ITツールにも表れている。設計に用いる3次元CADは、日本国内で使われているものはほとんどが欧米製のもの。しかし、生産技術向けのツールは日本の方が発達しているように思える。実際、情報画像事業本部が導入している2つのツールは、どちらも日本製だ。

国内メーカーの生産技術部門は設計部門からの独立性が高く、設計部門に生産技術部門が従属するような欧米のスタイルとは異なるともいわれる。生産技術力は、国内メーカーにおいてはものづくり全体を左右する重要な要素であり、製品を海外で造るからといって、国内ですべきことがなくなるわけではない。情報画像事業本部の試みは、国内拠点の役割を強化する上で新たな方向を示しているといえそうだ。