藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ヒントは地方に

*[ウェブ進化論]地方から世界へ(2)
・香川で在学中に「砂漠の太陽光パネルの掃除ロボ」を立ち上げた人。
・インドで衛星データ分析による小規模農家の支援やマイクロ金融の助けをする兵庫県のスタートアップ。
・「高級イチゴ生産システム」を開発してマレーシアの市場を狙う宮城県の農業家は、センサー技術とITを駆使して「ベテラン農家の御割増の 収量をあげ、一粒1000円で売れるものもあるという。
 
AIとまで言わずとも、「ネットとコンピュータとセンサー」でできることが飛躍的に広がったということだろう。
農業だって窓拭きだって金融だって小売だって。
都会のオフィスにいると出てこないアイデアが次々に生まれている。
つまり「より人の生活に密着したITの時代」が生まれ始めているのだと思う。
だから若い人、特に地方にいる人には「一周回って」チャンス到来だ。
 
もちろん都会にもチャンスはあるはずですけど。

地方スタートアップ、日本市場スキップし世界で勝負

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

有力スタートアップには都内の渋谷や六本木などに本拠地を構え、国内事業を拡大する企業が多い。一方で地方都市に本社を置き、日本市場は狙わずいきなりグローバル展開を目指すスタートアップも現れてきた。新型コロナウイルスの感染拡大は逆風だが、リモート会議などを活用して機敏に対応している。「地方発、世界へ直行」の現場を追った。
 

 
 

狙うのはドバイ

 
 
3月上旬、アラブ首長国連邦UAE)のドバイから車で1時間の距離にある砂漠に1人の日本人起業家が立っていた。ロボット開発スタートアップ、未来機械(高松市)の三宅徹社長だ。視線の先にあるのは75万枚の太陽光発電パネル。自社の清掃ロボの作動実験を緊張しながら見守った。
 
三宅氏は2004年、香川大の在学中に同社を興した。最初に自律制御型の窓拭きロボットを開発し、05年の愛知万博に出展する。そこで出会ったメーカーの担当者から提案されたのが太陽光パネル向けロボだった。
 
パネルに砂が付くと効率が下がるため清掃は欠かせないが、雨が多い日本では砂が洗い流されやすく需要は小さい。そこで「中東に照準を定め、水を使わないロボの開発を始めた」(三宅氏)。
 

 
 
13年に開発に成功し、サウジアラビアカタールなどの発電所に数台ずつ導入する。19年に舞い込んだ大型案件が今回のUAEだ。約60台のロボを1億円弱で納入する計画。同社によれば、75万枚のパネルを1週間程度で清掃できるという。
 
ロボは高松市の自社工場で製造し、四国電力などから7億円を調達するなど地元との縁は深い。エンジニアも四国出身者が半数以上を占める。そんな同社が海外に商機を感じるのは圧倒的なスピード感があるからだ。
 

 
 
昨夏にはUAEの導入企業から、ロボに付けるナイロンブラシを増やす要請が来た。納期はわずか1カ月。設計図の書き換えと試作を繰り返し、なんとか間に合った。
 
「スタートアップだから、こんな注文にも応じられる」と話す三宅氏は現在も作動実験のためUAEに滞在している。現地でも個人消費などに新型コロナの影響が懸念されるが「エネルギー関連需要に大きな変化は出ていない」(同社)。先行きを注視しながら中東向けロボの開発を進める。
 

実体験を基に起業

 
 
農業支援スタートアップ、SAgri(サグリ、兵庫県丹波市)は18年に創業し、19年にはインドへの進出を果たした。IT企業が集積するベンガルールに現地法人を設け、社員が事業の立ち上げに駆け回っている。
 

 
 
最速でインド市場に入った背景には、坪井俊輔最高経営責任者(CEO)の実体験がある。18年12月から3カ月間ベンガルールに住んでみると、金融機関から資金を借りられない農家が想像以上に多かったのだ。「これは商機だ。他の日本人起業家が来る前に飛び込もう」と心を決めた。ベンガルールでは「有力大学卒のIT人材でも月給5万円程度で採用できる」(坪井氏)。こんな雇用環境も背中を押した。
 
同社がインドで手掛けるのは衛星データ分析による小規模農家の支援事業。欧州の宇宙機関が無償公開している衛星画像から土壌の質や作物の育ち具合を分析し、農家の収穫量を予測する。このデータを現地の金融機関に提供し、融資判断に使ってもらう仕組みだ。
 
農家は収穫予測を信用の裏付けにして銀行などに払う金利を抑え、収入が増えた分の一部をサグリが受け取る。現在は金融機関との提携に向けて交渉を進めている。
 

 
 
丹波市に本社を置く理由は、坪井CEOが学生時代に興した教育会社「うちゅう」が丹波市と提携していたため。現在は市内の約20軒の農家から土壌分析などで協力を得ている。「スタートアップは珍しく、行政が強く後押ししてくれる」(坪井氏)。シンガポールにも法人を設立し、タイやインドネシアへの進出も検討に入った。「日本で実績をあげてから海外進出するよりも、現地でニーズを体感する方が合理的」。坪井氏が海外に直行する意図は明快だ。
 
新型コロナの影響で日本のスタッフはインドに直接行くことができなくなっているが、現地では日本人の最高戦略責任者(CSO)が指揮を執る。現地採用も続け、日本の本社とリモート会議を重ねて業務に支障が出ないようにしている。一部の商談はオンラインに変わっているが、農家の活動は続いており、衛星データで与信情報を提供するビジネス本体への影響は出ていないという。

東北から世界へ

東北から世界を目指すのはイチゴを生産販売するGRA(宮城県山元町)。岩佐大輝CEOは「世界市場でブランドを確立しないと生き残れない」と語る。狙うのはマレーシアの高級品市場だ。
 

 
同社は12年に創業し、同年のうちにインドで農場を完成させた。さらに日本からマレーシアや台湾、香港、シンガポール、タイと相次いで輸出に乗り出し、起業の最初からグローバル市場に照準を定めてきた。国内では9棟の栽培ハウスを保有し、年間100トンのイチゴを生産している。最高級品は1粒1000円で売れることもある。
 
硬い状態で収穫することが多い海外と異なり、9割近く熟している同社のイチゴは甘くて柔らかくて口当たりがいい。「各国から引き合いが強く、生産が追いつかないほどだ」(同社)という。
 
甘くて口当たりがいいイチゴをつくるカギとなるのはITを駆使した最先端の栽培方法だ。栽培ハウス内に張り巡らせたセンサーで温度や湿度、二酸化炭素(CO2)などを自動調整し、高品質と高収量を実現している。1000平方メートルあたりの収穫量はベテラン農家でも4トン弱とされるが、GRAでは6トンを超えることもあるという。
 
一方で、インドでの栽培からは17年に撤退した。気候条件が悪く、日本のような収量を実現できなかったことが原因だ。現在はマレーシアとヨルダンで現地企業と組み、気候が安定した両国の高原地帯で栽培実験を進めている。日本で培ったノウハウを最大限に生かし、国内実績に匹敵する収量の実現を目指す。
 

GRAはベテラン農家よりも優れた収穫実績を持つ(宮城県山元町)
 
こちらは寒暖差が小さいため、日本より気候条件に優れる。むしろ本拠地の宮城県山元町よりも面積あたり収量や商品化できるイチゴの割合が大きくなる見通し。2年以内に大規模栽培と出荷を始めることを目指す。
 
米国やロシアへの進出も視野に入れている。岩佐CEOは「3~4年のうちに、世界中で高級イチゴと言えばGRAというイメージを打ち立てたい」とビジョンを話す。

リスク避ける努力を

大企業の海外進出は社内手続きに時間を取られがちだが、スタートアップは競合他社の先手を打って素早く意思決定できる。地方大発などのスタートアップにとって海外直行は1つの選択肢だ。一方で治安や新型コロナなどの状況には十分に注意を払う必要がある。現地政府などと緊密に連携し、様々なリスクを避ける努力も欠かせない。
 
(企業報道部 斎宮孝太郎、山田彩未、山田遼太郎)